独立行政法人 日本原子力研究開発機構

平成24年4月17日
独立行政法人 日本原子力研究開発機構

磁石のミクロな運動が生む電気の高出力化機構を解明
−磁壁運動によるスピン起電力の安定化と素子の微細化に道筋−

【発表のポイント】

独立行政法人日本原子力研究開発機構【鈴木篤之理事長】先端基礎研究センターの山根結太学生実習生(日本学術振興会特別研究員)、家田淳一研究員、前川禎通センター長は、大きな磁気異方性*1を有する特殊な磁石を用いることで、磁石の内部に存在する磁壁の運動*2が生み出す起電力を安定的に高出力化することが可能であることを見出しました。

1831年、英国の物理学者ファラデーは、時間変化する磁場の近くに電気回路を置くと起電力が生じることを発見しました。このファラデーの誘導起電力は、電気と磁気の関わりを支配する電磁気学の根幹をなす基礎法則であると同時に、商業用発電装置から私たちの身の回りの家電製品まで様々な電気機器の動作原理として活躍しています。

近年のナノテクノロジーの急速な進展の中、ファラデーの法則とは全く異なる新たなメカニズムによって、磁石の磁気エネルギーを電気エネルギーに変換して起電力を生成する方法が発見され、電子の性質の一つである「スピン」*3に起因するため「スピン起電力」と名付けられました。このスピン起電力を、磁石内部における磁壁の運動を利用して生成できることがまず理論的に予言され、その後実験的にも検証されました。スピン起電力は次世代のナノテクノロジーに不可欠な要素技術として注目を集めており、大きなスピン起電力を実現する物質の探索は極めて重要な研究課題となっています。しかし、これまでの研究では、出力を上げようとするとスピン起電力信号が不安定化するという困難に直面していました。

今回、当研究グループは、磁気異方性の大きな物質中では、磁壁の運動からこれまでの100倍の大きさのスピン起電力が安定して生成されることを理論的に明らかにしました。また、磁壁の運動を詳細に調べることで、磁気異方性の大きな物質は素子の微細化の点でも有利であることを突き止めました。これらは、スピン起電力を応用する際の材料設計に強力な指針を与える研究成果です。本研究によって、検出電流が不要な磁気センサーや磁気ヘッドなど、スピン起電力を用いたナノスケールデバイス実現への道が開かれました。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Applied Physics Letters』(4月16日号)に掲載されます。

以上

参考部門・拠点:先端基礎研究センター

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