【用語説明】

1)アルミニウム: Al
地表付近において多く存在する元素として、多い順から酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄だと言われています。またアルミニウムは鉱物からの精製技術が確立しています。さらに再生に必要なエネルギーが少なくて済むことからリサイクル性に優れた金属であることから安価でかつ大量に入手できる資源のひとつです。
2)大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
3)軟X線
100 eV(エレクトロンボルト:1 eVは自由空間に1Vの電位差があるときに電子1つが得るエネルギー。)から2000 eV程度のX線のことを軟X線といいます。このエネルギー領域のX線は透過力が弱く物質に吸収され易い光です。一方で、この性質は物質の性質を調べる上で有利なことも多くあるため、物質科学の研究において広く活用されています。実験室のX線発生装置では特定のエネルギーの光しか取り出すことができません。しかし、放射光を用いれば使いたいエネルギーの光を自由に取り出すことができます。今回の研究は、放射光でしかできなかった実験です。
4)発光分光法
十分に高いエネルギーの光を物質に照射することで、内殻電子が物質外に放出されます。このとき内殻電子があった準位にホール(いわば電子の空席)ができます。内殻準位にホールがある状態はとても不安定なので、このホールを占有電子状態にある電子が埋めます。この遷移確率は占有電子状態の状態密度に比例します。この遷移の際に放出される光のエネルギーと強度の関係を調べることで、占有電子状態の情報を得ることができます。また内殻準位のエネルギーは元素ごとに異なり、また電子が遷移できる状況には制限があるため、発光分光法は元素・電子軌道選択性のある実験手法です。
5)内殻吸収分光法
物質内の内殻電子のエネルギーと非占有電子状態のエネルギー差に相当するエネルギーを持った光を照射すると、内殻電子はその光のエネルギーを吸収し、非占有電子状態に遷移します。その遷移確率は非占有電子状態の状態密度に比例します。一般には物質に入射した光と透過してきた光の強度比を調べます。また、その遷移確率は物質から放出される光の強度や電子の数にも比例することが知られています。本研究では、放出される光の強度を入射光のエネルギーを走査しながら測定することで、非占有電子状態の情報を得ました。発光分光法と同様の理由で、内殻吸収分光法では元素・電子軌道選択性のある実験手法です。
6, 7)占有電子状態と非占有電子状態
物質中に存在する電子は、それぞれが持っているエネルギーによってその存在確率(「状態密度」という)が決まっています。そして、エネルギーの低い方の状態から電子により占められていきます。この電子が満たされている電子状態を占有電子状態といいます。一方、電子に満たされていない電子状態を非占有電子状態といいます。
8)電気陰性度
原子はそれぞれ電子を引きつける力が異なり、その尺度を示したものです。
9)バンド計算
物質の電子状態を第一原理から求める計算方法です。今回の研究では、計算方法のひとつであるLAPW法(Linearized Augmented Plane Wave method)を用いて計算を行いました。各々の原子を中心とした球内の基底関数と球外の平面波で状態を表現します。

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