【用語解説】

注1)スピン
電子が有する自転のような性質。電子スピンは磁石の磁場の発生源でもあり、スピンの状態には上向きと下向きという2つの状態がある。物質中のスピンの正味の流れがスピン流であり、齊藤教授らが2006年に発見した「逆スピンホール効果」を利用するとスピン流を電気的に検出することができる(注5参照)。
注2)磁性ガーネット単結晶
組成式がRFe5O12(R:希土類元素、Fe:鉄、O:酸素)で表わされる化合物。本研究では希土類元素をイットリウム(Y)としたイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)を用いた。
注3)圧電素子
振動や圧力などの力が加わると電圧が発生し、逆に電圧が加えられると伸縮する素子。ピエゾ素子とも呼ばれる。圧電素子に交流電圧を加えると、電圧と同じ周波数で素子の伸縮が生じるため、圧電素子に接する物質中に音波を発生させることができる。
注4)フォノン
振動を量子力学的に扱い、粒子として表したもの。位相が揃ったフォノンの流れが音波である。
注5)逆スピンホール効果
スピン流と垂直な方向に電圧が発生する現象。スピンが物質中を流れると、流れを横向きに曲げる力が働く「スピン軌道相互作用」という現象が以前から知られている。このとき、上向き状態のスピンと下向き状態のスピンでは逆向きの力を受ける。スピン流では上向き状態のスピンと下向き状態のスピンが逆向きに流れているため、両者とも同じ方向に曲げられる結果となり、スピン流の流れと垂直な方向に電圧が発生することになる。スピン情報と電気情報をつなぐ現象として、スピントロニクスにおいて重要である。
注6)スピンゼーベック効果
温度差を付けた磁性体中にスピン流の駆動力(スピン圧)が生成される現象(関連論文2、3を参照)。スピントロニクス分野において、汎用性の高いスピン駆動源としての応用が期待されるとともに、逆スピンホール効果と結合することで発電素子としての応用の可能性が示唆されている。今回の研究により、(強磁性金属における)スピンゼーベック効果によって生成されたスピン圧の空間分布を決定する微視的起源が、スピンとフォノンの相互作用であることが明らかになった。

【論文名・著者名】

“Long-range spin Seebeck effect and acoustic spin pumping”

K. Uchida, H. Adachi, T. An, T. Ota, M. Toda, B. Hillebrands, S. Maekawa, and E. Saitoh

【関連論文】

磁性絶縁体へのスピン流注入に関する論文:

1.Y. Kajiwara, K. Harii, S. Takahashi, J. Ohe, K. Uchida, M. Mizuguchi, H. Umezawa, H. Kawai, K. Ando, K. Takanashi, S. Maekawa, and E. Saitoh,
 “Transmission of electrical signals by spin-wave interconversion in a magnetic insulator,” Nature 464 (2010) 262-266.

スピンゼーベック効果に関する論文:

2.K. Uchida, S. Takahashi, K. Harii, J. Ieda, W. Koshibae, K. Ando, S. Maekawa, and E. Saitoh,
 “Observation of the spin-Seebeck effect,” Nature 455 (2008) 778-781.

3.K. Uchida, J. Xiao, H. Adachi, J. Ohe, S. Takahashi, J. Ieda, T. Ota, Y. Kajiwara, H. Umezawa, H. Kawai, G. E. W. Bauer, S. Maekawa, and E. Saitoh,
 “Spin Seebeck insulator,” Nature Materials 9 (2010) 894-897.


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