用語説明

1)核医学診断
核医学診断とは、放射性同位体(RI)を結合させた医薬品を体内に投与し、体の外から放射線を測定して、RIの分布を調べる(画像化する)ことにより、病気の診断を行うことをいう。
具体的には、がんの診断が典型であるが、がんはその進行度合いや転移の有無によって治療法が異なり、がん細胞がどの程度まで進行し広がっているかを調べることが重要である。進行度合いを調べる検査には、CT、MRI、超音波検査、骨シンチグラフィー(骨シンチグラム)、PETなどがある。
骨シンチグラフィー(骨シンチグラム)は、骨がんの診断に有効であり、99mTcを含む医薬品を注射し、3時間ほどおいて全身の画像を撮影するものである。99mTcを骨の代謝や反応が盛んなところに集まる性質をもつ物質と化合させ、医薬品として用いることで、がんが骨のどの部位にどの程度転移しているかを診断するものであり、エックス線検査では発見することが困難な骨の病気や骨折を発見することも可能である。
99mTcは、半減期が6時間と短く、放射線(γ線)の身体への影響が少ない。その一方で注射から診断までに必要な3時間程度の時間においては十分な効果を有するため、半減期6時間の99mTcは医療用RIとして理想的な物質であるといえる。
2)テクネチウム99m(99mTc)
テクネチウム(Tc)は、地球上では非常にまれな原子番号43の元素で、ウラン238の自発核分裂によりウラン鉱などの中で生じるが、生成量は非常に少ない。白金に似た外観を持つ銀白色の放射性の金属である。テクネチウムは、安定同位体を持たない元素であり、全ての同位体が放射性同位体である。テクネチウム99mは、テクネチウム99(半減期21万年)の中で半減期が6時間のRIで、β線を放出せずγ線のみを放出する特性を活かし、各種リガンド(特定の受容体に特異的に結合する物質等)と標識して、骨・腎臓・肺・甲状腺・肝臓・脾臓などの臓器を描出するシンチグラフィ(放射性同位元素を利用した画像検査)に用いられている。99mTcで標識された放射性医薬品を投与した場合の体内動態などは充分解明されている上、検査目的に応じた多種の注射剤が供給されている。テクネチウム99mは、人工放射性元素であるが核医学という医療の一分野を支える重要な元素であり、一般市民の生活に大きく寄与している。
3)加速器中性子
加速器中性子とは、加速器により作り出したエネルギーの高い粒子(重陽子)を標的物質(トリチウム、炭素など)にぶつけることにより、標的物質から効率よくはじき出される高エネルギーの中性子である。通常、放射性同位元素(RI)を製造するには、原子炉中のウランの核分裂によって発生するエネルギーの低い中性子を利用するが、加速器から発生するエネルギーの高い中性子を利用することにより、原子炉より効率よくRIを製造できる場合もある。今回は、原子力機構が所有するFNS加速器(核融合中性子源施設)を利用して、中性子を発生させた。
4)モリブデン99(99Mo)
モリブデン(Mo)は、原子番号42の元素。銀白色の硬い金属。99Moはβ-崩壊することにより、99mTcとなるため、99mTcの親核種である。現在、ほぼ全ての医療用に用いられる99Moは原子炉を利用して製造されている。
5)親核種
ある放射性核種のAが放射性崩壊によって別の核種Bに変化する時、AはBの親核種という。
6)標識化
製造した放射性同位体を医薬品などの化合物に組み込むことをいう。
7)材料試験炉JMTR
JMTR (Japan Materials Testing Reactor, 材料試験炉) は、「原子炉を作るための原子炉」といわれ、世界で現在稼働中の試験炉・研究炉の中で有数の高い中性子束を発生することが可能であり、原子炉の燃料、材料の耐久性、健全性の試験や基礎研究、RI製造等に用いられる、原子力機構大洗研究開発センターに設置される原子炉である。

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