●研究成果

本研究では、超イオン伝導体である新しい硫化物材料Li10GeP2S12を発見し、室温(27℃)で12 mS cm-1の極めて高いリチウムイオン伝導率を示すこと、5 V以上の分解電圧を持つこと(図1)、全固体電池の電解質材料として動作することを明らかにした。特に、低温においては有機電解液をはるかに凌駕するイオン伝導率を持つ特徴がある(図2)。また、大強度陽子加速器施設J-PARCに設置された超高分解能粉末中性子回折装置SuperHRPD(BL08)の高分解能バンクを利用した精密中性子構造解析で、Li10GeP2S12がこれまでにない三次元骨格構造を持つ物質であり(図3)、その骨格構造内にリチウムが鎖状に連続して存在し、本材料の高いリチウム伝導性を実現していることを明らかにした。

●背景

電気自動車やプラグインハイブリッド自動車、スマートグリッドが社会に浸透するための鍵を握るデバイスが、電気を蓄える電池である。その容量・コスト・安全性のいずれの面でも、現在のリチウムイオン電池を越える次世代の電池の開発が喫緊の課題となっている。次世代の蓄電池開発の鍵を握るのが、電解質である。現在のリチウムイオン電池には電解質として可燃性有機電解液が用いられているため、使用には安全装置が必須となる。電池がさらに高容量と高出力を達成し、かつ安全で信頼性に優れた長寿命なデバイスになるためには、電池をすべてセラミックスで構成するのが理想であり、セラミックス電池は究極の安定性に優れた電池と位置づけられている。しかし、その実現を阻むものは固体電解質の特性であり、これまでの固体電解質のイオン伝導率は0.1mから1mScm-1程度で、有機電解液に比べ一桁以上低いイオン伝導率であった。

●研究の経緯

本研究グループは、超イオン伝導体として高いイオン伝導率の期待できる硫化物系で物質探索を行い、新規物質開拓の過程で非常にイオン伝導率の高い表記の超イオン伝導体を発見した。その結晶構造を、大強度陽子加速器施設J-PARCに設置された超高分解能粉末中性子回折装置SuperHRPD(BL08)による中性子回折測定によって決定した。また、リチウムイオン電池の正極材料として広く利用されているLiCoO2を用いた電池が優れた特性を示すことも明らかにし実用材料としての応用可能であることを示した。

●今後の展開

本研究で見出された固体電解質材料は、リチウム電池の全固体化に向けた応用が可能であり、全固体化に伴う安全性の向上によって電池の大容量化が可能になる。さらに、超小型化セラミックス電池の実現も期待される。今回の発明により、「次世代電池は全固体へ(用語6)」の歩みがさらに加速される。現在のリチウムイオン電池の全固体化によって、さらに安全性と安定性に優れ、かつ長寿命な電池を開発することができ、電池のさらなる高容量化に貢献できる。本研究グループにおいても、より「安全性/安定性/長寿命」をめざした電池系の開発を進めている。また、現在の容量をはるかに超える次世代型の蓄電池の開発(革新電池(用語7))においても、「安全性/安定性/長寿命」の課題を解決することが最大の課題であり可燃性電解質を不燃性・難燃性電解質に置き換えることが重要である。有機電解液並み、もしくはそれ以上のイオン伝導性を持つ不燃性の無機固体電解質の開発に成功したことから、大型・高容量蓄電池の実現に大いに貢献できる。我々の研究グループでは、今回の発見した物質を、さらに伝導性や安定性を向上させて、高エネルギー型電池を目指した研究を進める予定である。

図1 今回発見した超イオン伝導体のイオン伝導率の温度依存性

図1 今回発見した超イオン伝導体のイオン伝導率の温度依存性。室温で12 m Scm-1、-30℃でも0.41 m Scm-1のイオン伝導率の値を示す。これらの値は、リチウム超イオン伝導体の中で最も高い値である。

図2 各種超イオン伝導体のイオン伝導率と、今回発見した超イオン伝導体のイオン伝導率の比較

図2 各種超イオン伝導体のイオン伝導率と、今回発見した超イオン伝導体のイオン伝導率の比較。図では伝導率の温度依存性を示す。リチウムイオン電池に用いられている有機電解液やゲルポリマー電解質に加え、ドライポリマー系、無機非晶質系など様々なイオン伝導体のイオン伝導率を併せて示している。特に室温から低温にかけて、今回発見した物質が最も高いイオン伝導率を示すことがわかる。

図3 今回発見した超イオン伝導体の結晶構造とイオン伝導経路

図3 今回発見した超イオン伝導体の結晶構造とイオン伝導経路。この構造は大強度陽子加速器施設J-PARCに設置された超高分解能粉末中性子回折装置を用いて明らかにした。aは全体の構造、bは三次元の骨格構造、cは一次元のリチウムイオン伝導経路を示す。図c上部にリチウムイオンの熱振動の様子を示す。リチウムイオンは上下方向に非常に大きく熱振動しており、リチウムが超イオン伝導に関与していることがわかる。

図4 超イオン伝導体の研究の歴史

図4 超イオン伝導体の研究の歴史。それぞれの物質が発見された年代とイオン伝導率との関係を示す。第一世代の材料は、イオンが固体中を高速で動き回ることの現象を追求する過程で探索された。第二世代の材料は実用材料として応用することも加味して開発された物質群。本発見の超イオン伝導体は、イオン伝導率の値が10m Scm-1を超えたことから、新たな世代のリチウム超イオン伝導体と考えることができる。


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