(3) JMTRが目指すもの(国際的拠点化の達成)
JMTRでは、欧米の主要な試験研究炉と協力し、アジアの中核試験炉として国際的に活用される研究基盤の構築を目指しています。具体的には、「ワールドネットワーク構築により、中性子照射試験標準場を創成し、利用性の向上を図ること」、「アジアネットワーク構築により、アジア諸国の科学技術向上、人材育成等への貢献」を目指しています。これらの国際戦略は、原子力委員会、文部科学省、資源エネルギー庁等から示された、「科学技術外交」、「地球温暖化対策」、「アジアへの貢献」、「世界最先端の原子力エネルギー研究開発」、「人材育成を主眼においた国際戦略」に基づいて、JMTRの役割を考慮して策定しました。
ワールドネットワーク及びアジアネットワークの取組みの概要は、下記の通りです。
- グローバル化の中で、地球温暖化・エネルギー問題といった制約を克服しつつ、持続的な発展を可能とするためには、先進諸国とパイを奪い合うような狭い視点ではなく、先進諸国と共にパイを拡大していくという視点も重要である。今後の原子力発電の重要性を鑑みれば、照射試験の重要性は益々高まってくることから、原子力先進国の照射試験炉と相互補完的な関係を構築していく必要がある。こうした観点から、JMTRは、世界の照射試験炉と協調して「中性子照射試験標準場」を創成し、国際的に活用される研究基盤を構築する。また、世界の照射試験ニーズを開拓し、隠れたユーザーを掘り起こしていく。
- アジアが、今後も「開かれたアジア」として発展し、「世界の成長センター」として世界経済を牽引していくためには、アジア最大の経済力・技術力を持つ国として、日本が果たすべき役割は大きい。特に、アジアは、環境・エネルギー問題など、かつて日本が直面し、乗り越えてきた成長制約に直面している。日本は、「アジア共通課題克服のトップランナー」として、その「知恵と技術」を活かし、アジア共通課題の克服にリーダーシップを発揮すべきであり、そのことが日本の発展にもつながる。こうした観点から、JMTRは、最大の成長センターたるアジアに位置する強みを生かして、原子力発電を導入しようとする国々の原子力利用のための基盤を整備する取組に積極的に協力し、アジアの中核試験炉として活動していく。また、アジアの原子力人材と共に学び、共に成長するという観点から、JMTRがアジア原子力人材育成の拠点となることを目指して活動していく。
JMTRの役割とワールドネットワーク及びアジアネットワークの位置づけを表2に示します。
表2 JMTRの役割とワールドネットワーク及びアジアネットワークの位置づけ
項目 |
ワールドネットワーク |
アジアネットワーク |
戦略的パートナーシップ |
○ |
○ |
軽水炉の長期化対策 |
○ |
|
科学技術の向上 |
○ |
|
産業利用の拡大 |
○ |
○ |
原子力人材育成 |
|
○ (原子力発電導入の視点) |
ワールドネットワーク及びアジアネットワークを含む試験研究炉ネットワークのイメージを図1に示します。

図1 試験研究炉ネットワークのイメージ
(4) ワールドネットワークの取組み
欧米の主要な施設との技術交流、人材交流等を通じてネットワーク構築に向けた下記の活動を行っています。
1) 照射技術等の共有化や高度化/照射試験の世界標準化
- 中性子ドジメトリー、照射技術等の高度化や世界標準化により、統一性のある「世界的な中性子照射試験に関する標準場」の創成。
2) 互いの特徴を生かした照射試験の相互協力/施設運営の効率化
- 「照射利用の相互補完的な国際協力関係の構築」を目指した連携強化(国際展開を進める際の様々なリスクを回避していく上で有益)。
- 照射スケジュールの調整など照射利用の相互補完的な協力関係の構築
3) 汎用照射試験炉に関する国際会議の開催
- 第1回:原子力機構(JMTR)、H20年7月15日〜17日、11ヶ国、138名参加
- 第2回:米国アイダホ国立研究所(ATR)、H21年9月28日〜30日、6ヶ国、35名参加
- 第3回:チェコ原子力研究所(LVR-15)、 H22年6月21日〜23日、12ヶ国、32名参加
- 第4回:アルゼンチン原子力委員会、 H23年10月10日〜12日開催予定
利用者がアクセスできる汎用照射試験炉コミュニティのホームページを製作中。
(5) アジアネットワークの取組み
アジアの主要な施設との技術交流、人材交流等を通じてネットワーク構築に向けた下記の活動を行っています。
1) アジア共通の国際基盤施設
- アジア諸国の安全規制等に必要なデータ取得のための「アジアの中核的な照射試験炉」を目指す。
2) アジア諸国への原子力導入のための基盤の形成・技術力の向上への貢献
- JMTRの改修、燃料管理技術、照射技術開発等の研修を通じた原子力人材育成を実施。
3) アジア諸国からの実務技術者等の積極的受入
- 照射技術開発(特殊計測技術、先進照射設備設計、医療診断用99Mo製造技術開発等)
・文科省原子力研究交流制度、ベトナム1名、H20年10月〜H21年6月
・リサーチフェロー、韓国1名、H21年10月〜H22年9月
・ビジティングリサーチャー、中国1名予定、H23年4月〜H23年9月
- JMTRの改修等を通じた原子力人材育成
・ビジティングリサーチャー、マレーシア1名、H20年11月〜12月
・講師育成研修/原子炉工学コース、マレーシア及びタイから各1名、H22年10月
・文科省原子力研究交流制度、マレーシア1名、H22年10月〜H23年6月
- 若手研究者の研修
・カザフスタンから大学院1年生4名、H22年8月)
・国内人材育成のため、文部省の「平成22年度原子力人材育成等推進事業」を推進
・アジアの大学生の研修(平成23年度予定)
4) アジアにおける汎用照射試験炉に関する国際会議の開催
- 第1回:マレーシア原子力庁、H23年2月16日〜18日開催予定