【背景と目的】

近年、エネルギー確保、化石燃料価格の不安定化、地球温暖化などの観点から、原子力発電がアジア諸国を含め世界的に見直され、原子力発電導入計画が進められています。こうした計画を円滑に推進するうえで、原子力技術者を教育研修する必要性が増しており、これらのニーズに応えるべく、アジアの原子力人材育成を積極的に進めています。

原子炉工学コースの研修対象者は、原子炉工学の基礎を有する者で、各国において自国の研修生を教育することを期待されている講師候補者です。研修では、原子力機構が有する多彩な施設・設備及び機構内専門家を中心とした高いレベルの講義・実習を通じて、帰国後に現地研修の中心的講師として、自ら指導できる講師となるよう育成されています。

また、帰国後は、受講生の国々に当機構の技術者を派遣し、現地で早期に講師として自立できるよう技術支援を行い、これまで数多くの現地講師を育てています。これら講師が自ら自国の研修生を教育研修することにより、原子力発電導入の基盤が整備されます。

【事業の概要】

当センターによるアジアの人材育成は、文部科学省から受託した「国際原子力安全交流対策(講師育成)」事業を通じ、放射線防護や放射線利用分野を主として、平成8年度よりインドネシア及びタイを対象にスタートし、その5年後にベトナムが加わりました。その後、アジア諸国における急ピッチな原子力発電導入計画に対応して、「原子炉工学コース」を平成20年度から開始し、今年度より7ヶ国に拡大しました。

1.講師育成研修開催
  • 主に放射線に係るコース(6週間)
  • 原子炉工学コース(9〜12週間)【今回】
    平成20年度にベトナムを対象として開始、平成21年度にインドネシアを、平成22年度にタイ、バングラデシュ、カザフスタン、マレーシア、フィリピンを加え、計7ケ国に拡大

上記2コースでは、対象各国の講師候補を研修生として受け入れ、原子力の基礎から応用に至る範囲について、高いレベルの講師育成教育を行い、これまで数多くの現地講師候補を育てています。

2.原子力関係技術者の技術レベルの向上を目的とした原子力安全セミナーの開催
  • 保障措置トレーニングコース(2週間、東海)保障措置技術、計量管理、核物質防護等の研修
  • 原子力プラント安全コース(4週間、年2回、敦賀) 原子力プラントに関する安全技術の研修
  • 原子力行政コース(3週間、東海) 原子力利用の安全に関わる行政の管理、運営の研修
3.講師派遣研修実施(2週間)

講師育成研修を受講した国々に当機構の技術者を派遣し、現地で早期に講師として自立できるよう技術支援を行っています。

【得られた成果】

現地講師を育成し、これら講師が自ら自国の研修生を教育研修することにより、原子力発電導入の重要な基盤となる原子力技術者を育成し、同時に日本の高い原子力技術と優れた安全文化を海外に広めることで、アジア諸国における原子力分野の技術アップと原子力の安全に貢献しています。原子炉工学コースを含む事業全体としては、これまでに講師育成数及び現地指導研修生数を併せて2,000名を超える人材育成を実施いたしました。

表1 「国際原子力安全交流対策(講師育成)」事業の国別の講師育成数等
国名 講師育成数 現地指導研修生数 日本での研修開始年
インドネシア 38( 4) 638 平成 8年(1996)
タイ 36( 1) 760 平成 8年(1996)
ベトナム 54( 9) 474 平成13年(2001)
(平成20年原子炉工学コース開始)
カザフスタン 5( 3) 平成22年(2010)
マレーシア 4( 2) 平成22年(2010)
バングラデシュ 4( 2) 平成22年(2010)
フィリピン 3( 3) 平成22年(2010)

計2,016名(24名)  ( )数は原子炉工学コース

図1 海外受講生の受入れから自国での講師までの流れ


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