【用語説明】

1) タンパク質の構造揺らぎ
タンパク質の立体構造はある一つの構造に固定された硬いものではなく、周囲の熱揺らぎによって構造変化する柔らかいものです。ターゲットとなる分子との結合や機能発現のスイッチングなど、タンパク質が機能を発揮する様々な場面でタンパク質の構造変化が必要です。近年、タンパク質の構造解析に加え、このような動的な性質を解明しようとする研究が盛んになってきています。
2) タンパク質の水和
タンパク質表面には、表面のアミノ酸と水素結合などを介して相互作用している水があります。この水はタンパク質との相互作用で動きが束縛されていて、通常の液体の水とは異なった性質を持っています。水和水は生体分子の構造変化とダイナミックに応答し、生体分子の揺らぎや分子間相互作用に影響を与え、代謝や情報伝達などの生理現象に密接に関わります。
3) 核酸分解酵素スタフィロコッカルヌクレアーゼ(SNase)
黄色ブドウ球菌が体外に分泌する核酸分解酵素で、タンパク質ダイナミクス研究のモデルタンパク質の一つです。アミノ酸配列をわずか1残基変化させるだけで様々な立体構造を取る変異体を人工的に作成できるため、中性子散乱によって水和水も含めたタンパク質の立体構造とダイナミックスの関係を調べるのに適しています。
4) 研究用原子炉JRR-3
茨城県東海村の日本原子力研究開発機構原子力科学研究所内にある日本最大級の研究用原子炉で、熱出力20MW、炉心付近における最大熱中性子束は3×1014 n/(cm2sec)。照射設備及び数多くの中性子ビーム実験装置を有しており、種々の中性子散乱実験、原子炉燃料・材料の照射試験、医療用ラジオアイソトープや核変換ドーピングによるシリコン半導体の製造などが行われ、基礎研究から産業利用に至る幅広い分野に利用されています。
5) タンパク質の動力学転移
水和したタンパク質を極低温から温度を上げていくと、240K近傍で構造の揺らぎが急激に大きくなることが知られており、タンパク質の動力学転移と呼ばれています。これにより、ある立体構造状態から別の状態へ構造変化することが可能となり、このような構造の揺らぎがタンパク質の機能発現に必要であるとされています。

戻る