補足説明

【背景】

核燃料物質のPuなどの超ウラン元素からはα線とともに微量のLX線が放出されています。現在のPuの分析ではα線測定や質量分析法で測定していますが、α線は物質中の透過力(15)が弱いため、試料を化学的に処理する必要があります。また質量分析法においてもPuなどを分離する必要があります。

一方、LX線はα線に比べ物質を透過しやすいため、物質の外側からLX線を測定することができます。しかしながら、半導体検出器(16)などの従来の放射線測定器ではエネルギー分解能が十分ではないため、PuのX線や核燃料物質中にPuと同時に存在する241AmからのLX線との識別ができませんでした。このため、LX線によるPuの測定は肺モニタ(17)などの限られた用途の測定にしか利用されていませんでした。また、PuのLX線に関する高分解能の実測データがないことから、LX測定での精度向上のために必要なLX線放出率のデータが不足していました。

このように、化学処理などで時間と手間のかかるα線測定や質量分析に代わって、LX線などの測定による非破壊・非接触のPuの分析法が望まれていますが、そのためにはエネルギー分解能の優れた放射線測定器とともに、高精度のLX線放出率のデータ整備が必要です。

【研究内容】

超伝導を利用したTES型マイクロカロリーメーターは、従来の半導体検出器よりもエネルギー分解能に優れた放射線検出器で、X線望遠鏡(18)などへの適用のために世界で研究開発が進められています。

TES型マイクロカロリーメーターは、特定の温度範囲においてわずかな温度上昇で電気抵抗が急激に変化する現象を利用し、微少なX線などのエネルギーを測定します(図1)。TES型カロリーメーターのセンサー部は約150mK(19)(-273.0℃)の超低温に冷却され、センサー部に光子が入射すると温度が上昇し、電気抵抗が急激に変化します。この急激な電気抵抗の変化のために電流の流れが変化し、この微少な電流の変化を検出することによって光子のエネルギーを測定することができます。

図1 TES型マイクロカロリーメーターの原理

今回、超ウラン元素から放出されるLX線測定のために、10〜20 keV(20)のエネルギーのLX線測定に最適化したTES型マイクロカロリーメーター(図2)を設計・試作しました。これまでのTES型マイクロカロリーメーターの研究は10keV以下や100keV付近のエネルギーの光子の測定についてなされており、100 keV付近のPuのγ線測定に係る研究(21)はありましたが、本研究でのLX線のエネルギー(10〜20 keV)の測定に着目した研究開発はなされていませんでした。

図2  試作したTES型マイクロカロリーメーター

本研究では、開発したTES型マイクロカロリーメーターを使ってPu(238Pu、239Pu)及び241Amの線源から放射されるLX線の測定実験を実施しました。測定実験の結果、半値幅約50 eVのエネルギー分解能でスペクトルを測定し、それぞれのLX線を分離測定することができました(図3a)。従来の半導体検出器のエネルギー分解能は最高でも約250eV(図3b)ですので、約1/5の高精細なLX線のスペクトルを測定できたことになります。このような高分解能でのPuのLX線の測定は世界でも例がありません。

図3 プルトニウム等の測定試験結果

【成果の波及効果】

本研究の成果により超ウラン元素のLX線の放出率に関する物理学的データの充実及び精度の向上が期待できます。また、本測定システムをスケールアップすることにより、従来の半導体検出器では困難であったLX線の分析による非破壊かつ遠隔の測定によって、Puの分析作業の簡便化、迅速化、被ばく線量の低減が期待できます。更に、237Np、244Cm(22)の測定にも対応でき、TRUの非破壊かつ非接触の分析測定への適用も可能となるものと期待されます。

【成果のポイント】

(1)Puなどの超ウラン元素のLX線測定用のTES型マイクロカロリーメーターを開発

(2)測定実験の結果、従来の測定器の約1/5である約50eVの高分解能で測定

(3)従来の放射線測定器では不可能だったPuと241Amを識別できることを確認

(4)本研究成果によりPuの基礎物性データの充実や簡便かつ迅速な測定システムなどへの発展が期待できます。

【共同研究機関の役割】

本研究は、原子力機構の先行基礎工学研究として、原子力機構及び九州大学の2機関が共同して実施しました。九州大学はTES型マイクロカロリーメーターの設計製作及び試験調整を、原子力機構は開発したTES型マイクロカロリーメーターによるPu測定実験を担当しました。また、Puの測定実験においては、TES型マイクロカロリーメーターのメーカであるSIIナノテクが協力しました。


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