補足説明1 <中性粒子ビーム入射(NBI:Neutral Beam Injection)について>

核融合反応でエネルギーを持続的に取り出すには、プラズマ温度を1億度以上、密度を100兆個/cm3とし、さらに1秒間以上閉じ込めることが必要です。1億度以上のプラズマを実現するには、プラズマ自身に電流を流して加熱するジュール加熱(1000万度程度が限界)に加えて、外部からエネルギーを投入する「追加熱」が必要になります。この追加熱手法の1つが粒子ビームをプラズマに入射する中性粒子ビーム入射(NBI:Neutral Beam Injection)です。NBIは高エネルギーに加速した中性粒子ビームをプラズマ中に打ち込み、プラズマ全体の温度を上げる追加熱手法です。その原理は、ジュール加熱により“ぬるま湯”程度になったプラズマに、外部から“熱湯”のようなエネルギーの高い粒子ビームを入射してプラズマを1億度以上にまで加熱するというものです。

NBIのしくみを図1に示します。NBIでは、イオン源で粒子ビームの素になるイオンを作り、高電圧を用いて加速しイオンビームを発生させます。ITER[1] NBIでは重水素の原子に電子が2個付着した「負イオン」(D-)を加速して負イオンビームを用います。ITERではプラズマ中心部までビームを到達させるために、100万ボルト(1 メガボルト(MV))の高電圧で加速した高エネルギーの負イオンビームが必要です。また、プラズマ全体を十分に加熱するために、NBIにより33メガワット(MW)という非常に大きなパワーを注入する必要があります。そのために、NBIでは、40 Aという大電流ビームが求められています。この電流値は、素粒子実験や医療用の加速器におけるビーム電流に比べ2桁以上大きく、ITER NBIの特徴として挙げられるとともに重要な開発ポイントと言えます。

加速されて100万電子ボルト(1 メガ電子ボルト(MeV))のエネルギーをもった負イオンビームが発生しますが、このままではプラズマに入射することはできません。なぜなら、ターゲットとなるプラズマは磁力線でできた“かご”に閉じこめられており、ここに電荷を持ったイオンビームを入射すると、磁場により軌道が曲げられてビームがプラズマの中心部まで十分に到達しないからです。そこでNBIでは、負イオンビームを「中性化セル」と呼ばれる重水素ガスが充填された箱の中を通過させ、負イオンに付着する2個のうち1個の電子をはぎ取り、ビームを電気的に中性な粒子ビーム(D0)に変換します。図2は正または負イオンビームを中性粒子ビームに変換するときの効率を表します。ITER NBIで必要とされる100万電子ボルトのビームエネルギーでは、正イオンビームを用いた場合の変換効率がほぼ0 %であるのに対して、負イオンビームの場合は60%程度の変換効率であることがわかります。これが核融合炉用NBIの1次ビームに負イオンビームを用いる理由です。

図1 中性粒子ビーム入射装置のしくみ

図2 イオンビームの中性化効率


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