平成21年12月21日
埼玉県農林総合研究センター園芸研究所
独立行政法人日本原子力研究開発機構
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構花き研究所

新しい色素を持つ芳香シクラメンをイオンビームで創成

埼玉県農林総合研究センター(所長 金本伸郎)、独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄)、及び独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(理事長 堀江 武)は、芳香シクラメン1)品種にイオンビーム2)を照射し、その後代においてシクラメン属に存在しなかった、デルフィニジン3)を主要色素とする赤紫色の芳香シクラメンを世界で初めて作出することに成功致しました。これにより、芳香シクラメンの新品種として生産が可能になるとともに、新しい遺伝資源としての応用が期待されます。

これまでに、シクラメンの園芸品種は香りがほとんどないため、良い香りを持つ野生種と交配させて、3つの芳香シクラメン品種が作り出されてきました。しかし、これらの品種の花の色は、紫色かピンク色に限られており、赤色や青色などの新しい花色をもつ新品種が待ち望まれていました。3つの品種のうち、「香りの舞い」という品種は、その色素の分析から、突然変異によって青紫色や白色などへの花色変化が期待できると考え、その葉片にイオンビームを照射しました。照射した数多くの葉片から植物体を再生させたところ、予想に反して、赤紫色の突然変異体が得られました。そのシクラメンは、花の形、大きさ、香りは変化していませんでしたが、今までにない赤紫色を示していました。花色を調べたところ、色素の主成分は、青いバラなどで有名なデルフィニジンという色素であることがわかりました。これまでに、デルフィニジンを主要色素とするシクラメンの野生種や園芸品種はなく、シクラメン属でも初めての色素であることがわかりました。

今回創り出した品種は、今までになかった新しい花色を持つ芳香シクラメンとして直接実用が可能であるばかりでなく、交雑によって他のシクラメンに本色素を導入したり、さらには、この品種に突然変異をもう一度起こして青色の芳香シクラメンを作出することも夢ではなく、新しい遺伝資源として極めて有用なものです。

この研究は、農林水産省の先端技術高度化事業(平成14〜18年)および生物系特定産業技術研究支援センターの異分野融合研究支援事業(平成19〜23年)の受託研究として実施されました。なお、本研究成果の一部は、日本植物細胞分子生物学会の学会誌(プラントバイオテクノロジー)に掲載される予定です。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

戻る