平成21年11月30日
独立行政法人日本原子力研究開発機構

光速で進行する飛翔鏡からの反射光の強度を飛躍的に向上
−原子中の電子の観測・制御や超高強度場の実現へ弾み−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄。以下、「原子力機構」という。)の量子ビーム応用研究部門 レーザー電子加速研究グループの神門研究副主幹らによる研究チームは、高強度レーザー1)を用いて、ほぼ光速で進行する「飛翔鏡」(プラズマ波で形成される鏡。以下「鏡」という。)を作り出し、この「鏡」にもう1つのレーザー光を正面から反射させる新しい手法により、反射光の信号強度を従来に比べて飛躍的に向上させることに成功しました。

原子力機構では、高強度レーザーをヘリウムガス中に照射することで、ほぼ光速で進む電子のかたまりを作りだし、これを「鏡」として用いる「飛翔鏡法」を考案し、2007年に原理実証に成功していました。この「鏡」は、鏡自身がほぼ光速で進むため、相対論2)の効果により反射光の波長が入射光より短く、パルス幅も圧縮されるという特長を持ちます。しかしながら、2007年の原理実証で得られた反射光の信号強度は理論予測値よりはるかに低いものでした。

今回、原子力機構の研究チームは従来よりも強力なレーザー光で安定な「鏡」を作り、この「鏡」にもう1つのレーザー光を正面から反射させる新しい手法を開発して実験を行いました。その結果、入射した波長820 ナノメートルのレーザー光が、波長12.8ナノメートルから22.0ナノメートルの範囲の極端紫外光3)に変換されました。この反射光は、2007年の実証実験(レーザー光を斜めに衝突させる手法)に比べて約4000倍の信号強度となり、理論予測値をほぼ達成し、新しい手法による「飛翔鏡法」が高効率で機能することが実証されました。

「飛翔鏡法」では、「鏡」の速さを変えることで、アト秒(10の18乗分の1秒=1百京分の1秒)という非常に短いパルス4)の波長可変X線を作り出すことができるため、現在は不可能である原子や分子中の電子の運動の観測や制御を可能にする全く新しい手段となることが期待できます。また、この「鏡」を凹面鏡として用いれば集光強度5)を飛躍的に高めることもできるため、例えば、真空を破壊する6)といった超高強度場科学7)など物理学の新分野を切り拓く有力な手段となり得ます。本成果は、これらの夢の手段の実現へ向けた大きな一歩であるといえます。

なお、本研究成果は、米国物理学会誌「Physical Review Letters」 掲載に先立ち、同誌の電子版に2009年12月1日(現地時間)に掲載される予定です(M. Kando et al.)。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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