平成21年10月20日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人東京大学

赤外吸収測定実験で強誘電体の氷の識別方法を確立
−宇宙進化の謎解明に前進−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」という)量子ビーム応用研究部門の深澤裕研究副主幹ならびに国立大学法人東京大学(総長 濱田純一)大学院理学系研究科の大学院生荒川雅氏と鍵裕之准教授のグループは、実験室で合成した強誘電性を有する氷(強誘電体氷、氷XI)1)の赤外吸収スペクトル2)を測定することに初めて成功し、スペクトル中の特定ピークが通常の氷より鋭くなることを発見しました。この事実は、赤外スペクトルから通常の氷と強誘電体氷を識別することが可能であることを意味しており、天体望遠鏡や探査機を用いた赤外スペクトル観測によって、宇宙における強誘電性氷の存在を直接探索する道を開くものです。

本研究グループは低温条件下(約マイナス200℃)で、氷結晶中の水分子の水素が自発的に揃うことにより、氷XIが形成されることを中性子回折実験3)によって明らかにし、このような強誘電体の氷が宇宙にも存在するはずであるとの仮説を提案しています。しかしながら、どのようにしてこの仮説を実証するのか、その具体的方向性は明確ではありませんでした。

今回、氷XIを実験室で生成し、その赤外吸収のスペクトルを測定することに成功しました。その結果、通常の氷から強誘電体氷への転移に伴って、スペクトル中の850 cm-1(11.7μm)付近に観測されるピークが明瞭に鋭くなることが明らかとなりました。宇宙の至る所に氷が存在することはすでに確認されていますので、天体望遠鏡や探査機によって赤外線観測を行い、これらの氷の赤外スペクトルを測定すれば、宇宙における強誘電体氷の存在を直接検証できることになります。

強誘電体は電気的に強い力で結合するので、宇宙にそのような氷が存在すれば、惑星の形成や生命起源物質の発生の過程で、氷の電気的な力が大きく寄与することになり、これらのシナリオに決定的な影響を与えます。例えば、強誘電体の氷が電気的な力で合体したり、周りの塵を強い力で引きつけたりすることで惑星の形成が大きく促進された可能性があります。今後、実験と観測の双方から宇宙での強誘電体氷の存在を明らかにすることで、惑星形成の謎といった宇宙進化の研究がより進展することが期待されます。

この研究は,科学研究費補助金学術創成研究「強力パルス中性子源を活用した超高圧物質科学の開拓」における課題の一部として実施されました。なお、本研究成果は、米国天文学会誌(Astrophysical Journal)の10月号第2巻(2009年10月20日)に「Laboratory measurements of infrared absorption spectra of hydrogen-ordered ice: a step to the exploration of ice XI in space, M.Arakawa, H.Kagi and H.Fukazawa」として掲載予定です。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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