平成21年10月13日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人大阪大学
国立大学法人神戸大学

ナノ粒子ターゲットを用いた新しいレーザー駆動イオン加速手法を世界で初めて実証
−小型で低価格の粒子線がん治療装置の開発につながるブレークスルー−

独立行政法人 日本原子力研究開発機構【理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」という】量子ビーム応用研究部門(光医療研究連携センター兼務)の福田祐仁研究副主幹らは、国立大学法人大阪大学【総長、鷲田清一】、国立大学法人神戸大学【学長、福田秀樹】、ロシア科学アカデミーに属する研究所の協力のもと、クラスター1)と呼ばれるナノ粒子ターゲット(以下「クラスターターゲット」という)を用いてレーザーのエネルギーを極めて効率的に吸収する状態(サブ臨界密度プラズマ2))を作り出すことにより、従来手法による同規模クラスのレーザー装置を用いた場合よりも、約10倍高いエネルギーまでイオンを加速することが出来る画期的な手法を世界で初めて実証しました。この手法はレーザー駆動粒子線を用いた粒子線がん治療装置3)のブレークスルーとなり、小型で低価格の治療装置の開発につながることが期待されます。

現在、高度ながん治療の手法として「粒子線がん治療」が注目されています。現存する治療に必要な粒子線を発生させる装置をいっそう小型化する技術として、近年になり、レーザー加速手法による粒子線(レーザー駆動粒子線)を用いる研究が国内外で活発になっています。しかし、従来の一般的な加速手法では、がん治療に必要な80-200メガ電子ボルトにもおよぶイオンを加速するには超大型のレーザー装置による巨大なエネルギーが必要であり、レーザーを含めた治療装置全体を小型化するためには新たなイオン加速手法の開発が必須でした。

今回、原子力機構を中心とした研究チームは、高強度のレーザーをクラスターターゲットに照射して生成したサブ臨界密度プラズマ中において、そのエネルギーが物質の中に長時間伝送される状況(レーザー光のガイディング4))を作りだしました。さらに、レーザーエネルギーを受け取った電子がターゲット裏面に生みだす磁気渦5)によって強力な加速が生じることを発見し、その強力な加速電界によるイオンの加速が従来手法の約10倍になる(核子あたりのエネルギーで最大20メガ電子ボルト)ことを確認しました。この手法は、医療応用に必要とされるエネルギーのイオンを発生させるための有力な手段となりうるだけでなく、ターゲットの連続供給6)で粒子線量を増加させ治療時間を短縮することが可能、発散角も小さく照射系の小型化が可能7)という特徴も併せ持っており、今後のレーザー駆動の超小型粒子線がん治療装置開発の進展を一気に加速させることが期待されます。

本研究は、文部科学省科学技術振興調整費先端融合領域イノベーション創出拠点の形成「光医療産業バレー拠点創出」の一環として実施しました。

なお、本研究成果は、2009年10月16日に発行される米国物理学会誌Physical Review Letters (Y. Fukuda et al.)の電子版(2009年10月13日(現地時間))に掲載予定です。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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