用語解説

1)重い電子
ある種の金属化合物では、原子核近傍だけに存在して動き回らない性質の局在電子が、金属中を動き回って電気伝導を担う遍歴電子と相互作用して混じり合うことで、電気伝導を担うようになることがあります。これは、電気伝導を担う電子の中に動きにくい性質のものが現れることを意味し、その動きにくさにより電子の見かけ上の質量(有効質量)が通常の10〜1000倍に重くなったように観測されます。これを重い電子状態と呼びます。
2)フェルミ面
固体中の電子が取り得るエネルギーと運動量の間の固有の関係を表した曲線をバンド構造と呼びます。バンドの途中までしか電子に占有されない物質は金属となりますが、このとき、占有された部分と占有されない部分の境界(フェルミ準位)に存在する電子の運動量を運動量空間中に示すと3次元的な形状となります。これがフェルミ面です。フェルミ面は電気伝導の性質を特徴づけますが、金属ごとにその形状が異なるため、フェルミ面のことを「金属の顔」と呼ぶことができます。
3)磁性と共存する超伝導
超伝導とは、物質の電気抵抗がその物質固有の温度以下でゼロになる現象です。超伝導の発現は、格子振動による電子対形成を基本メカニズムと考えるBCS理論で説明できるというのが定説ですが、1986年の高温超伝導の発見以来、BCS理論では説明できない超伝導物質の探索が盛んに行われてきています。このような新しい超伝導体は、しばしば磁性が発現する領域の境界付近で見つかっていて、磁性と共存している可能性があります。超伝導のメカニズムの基礎である電子対形成は電子間に働く引力に由来し、磁性は逆に電子間に働く斥力に由来しますから、「磁性と共存する超伝導」というのはとても不思議な現象であり、伝導と磁性の絡み合う物理現象の最先端領域として注目を集めています。
4)共鳴角度分解光電子分光
物質に高いエネルギーを持つ光を照射すると、物質内部の電子が外部に飛び出てきます。放出される電子(光電子)の個数とエネルギーの関係を調べることにより物質内の電子状態を調べる実験手法が光電子分光です。さらに光電子の放出角度に対する分布も計測することにより、電子の運動量とエネルギーの関係(バンド構造)を観測する手法を角度分解光電子分光と呼びます。得られたバンド構造がフェルミ準位をよぎる点を運動量空間で描画すればフェルミ面が得られます。一方、光のエネルギーを特定の内殻準位への吸収が起こる値に合わせると、内殻吸収の遷移先として選択される一部の軌道からの光電子放出強度だけが選択的に増強されます。この特定のエネルギーの光を使って角度分解光電子分光を測定する手法が共鳴角度分解光電子分光であり、ある電子軌道だけが強く関与するバンド構造やフェルミ面を選択的に観測することができます。
5)f電子系化合物・f電子
f電子系化合物とは、外殻にf電子をもつ元素を含む化合物です。f電子とは、Laを除くランタノイド類(周期律表において、57番目のLaから71番目のLuまでの元素)が持つ4f電子と、Thを除くアクチノイド類(90番目のThから103番目のLrまでの元素)が持つ5f電子を合わせた総称です。f電子は本来局在電子的ですが、化合物を形成した際には遍歴性と局在性の中間的な性質を示すようになり、それが複雑で多様な物性を引き起こします。

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