平成21年3月10日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
学校法人京都薬科大学
国立大学法人大阪大学
株式会社創晶

中性子によるHIV-1プロテアーゼの全原子構造決定に成功
−より治療効果の高いエイズ治療薬の創製をめざして−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」という)量子ビーム応用研究部門 中性子生命科学研究ユニット 生体分子構造機能研究グループ、国立大学法人大阪大学(総長 鷲田清一)、学校法人京都薬科大学(学長 西野武志)及び株式会社創晶(代表取締役社長 安達宏昭)の研究グループは共同で、エイズ治療薬の標的となるHIV-1プロテアーゼ1)(タンパク質)とその機能を阻害するKNI-2722)(化合物)の複合体結晶を作製し、水素原子を含む全原子の構造解析(中性子結晶構造解析3))に世界で初めて成功しました。HIV-1プロテアーゼの機能に重要な役割を果たしている水素原子の配置情報を初めて明確に捉えたものであり、より治療効果の高いエイズ治療薬開発への貢献が期待されます。

現在、推定4000万人以上のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染者を救うため、世界中の研究者はエイズ撲滅を目指して治療薬の開発を活発に行っています。より治療効果の高い薬の設計には、HIVの増殖に必須なHIV-1プロテアーゼを制御する水素原子の立体的な配置情報の決定が不可欠であり、観測が難しい水素原子の構造解析が治療薬の開発を加速度的に進める大きな鍵になるものと期待されています。そこで今回研究グループは、水素原子の観測を得意とする原子力機構の生体高分子用中性子回折装置(BIX-44))を用いて構造解析を行い、医薬品の候補となるKNI-272と結合したHIV-1プロテアーゼの全原子構造の決定に世界で初めて成功しました。

また、中性子を用いたタンパク質構造の観測には大型結晶が必要となりますが、これに対しても、研究グループは共同で作製することに成功しています。このようにHIV-1プロテアーゼの働きに中心的役割を担う水素原子や、その働きを阻害する分子との結合に関わる水素原子の位置を明らかにし、HIV-1プロテアーゼの機能や阻害する分子の働きについて多くの知見を得ることができました。

これは、薬剤が直接作用するタンパク質の立体構造を詳細に捉えたものであり、さらに効果的なエイズ治療薬の設計・開発段階で、この構造的特徴が大いに貢献すると考えられています。

また、中性子で様々な疾病原因のタンパク質を構造解析して活性残基の水素原子構造を詳細に観測すれば、種々の既存治療薬の改良や新規治療薬の開発など、薬剤設計の要となる重要な情報を得ることができます。

この研究の一部は、茨城県中性子利用促進研究会の生命物質構造解析研究会において重点化テーマとして実施した成果です。なお、本研究成果は、平成21年3月9〜10日にテクノ交流館リコッティ(茨城県東海村)で開催される「ATI International Forum 2009 Protein Structure Determination and Applications」で公表、また、3月9日(月)の週にアメリカ科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences、 U. S. A.)のオンライン版に掲載されます。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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