平成21年1月22日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所
国立大学法人東北大学金属材料研究所
国立大学法人東京大学大学院理学系研究科

フラーレン-コバルト薄膜の巨大な磁気抵抗効果の起源を解明
−有機分子のスピンが流れる電子のスピンを偏らせる−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」という)先端基礎研究センターの松本吉弘博士研究員と境誠司副主任研究員は、大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所(所長 中村宏樹、以下「分子研」という)の横山利彦教授、国立大学法人東北大学金属材料研究所(所長 中嶋一雄、以下「東北大金研」という)の高梨弘毅教授、三谷誠司准教授、及び国立大学法人東京大学大学院理学系研究科(以下、「東大」という)の島田敏宏准教授らと共同研究で、フラーレン(C60)1)-コバルト(Co)2)薄膜の巨大トンネル磁気抵抗(TMR)効果3)が、同薄膜中の磁性を持つC60-Co化合物に局在するスピンにより、電気伝導に関わる電子のスピン4)の向きに大きな偏り(スピン偏極)が生じるために発現することを明らかにしました。

近年、電子の持つ「電荷」に加えて「スピン」の向きを制御して輸送・識別することで革新的電子デバイスを実現しようとする研究が盛んに行なわれています。このような電子のスピンを活用する新しいエレクトロニクス技術は「スピントロニクス」と呼ばれ、21世紀の高度通信・情報社会構築のキー・テクノロジーとして期待されています。スピントロニクスに関する材料研究はこれまで主に無機材料について行われてきましたが、原子力機構と東北大金研は2006年以降、有機分子C60とCoを混合して作製した薄膜(C60-Co薄膜)が、低温で非常に大きな(巨大)TMR効果を示すことを発見し、有機分子を用いることで無機材料を超える磁気抵抗効果が得られることを初めて明らかにしました。(参考:http://www.jaea.go.jp/02/press2006/p06092201/index.html)

今回、原子力機構、分子研、東北大金研、東大は、放射光を用いたX線磁気円偏光二色性分光5)によるC60-Co薄膜の分析を行い、薄膜中のC60-Co化合物が、化合物に局在する電子のスピンによる磁性を示すことを発見しました。さらに、この局在スピンがCoナノ粒子間を移動する電子のスピン偏極率を著しく増大させることが、巨大TMR効果の起源であることを明らかにしました。これは、有機分子-遷移金属系材料のスピン輸送現象への有機分子の寄与を世界で初めて明らかにした結果となります。

本成果によりC60-Co薄膜の巨大TMR効果の起源が解明されたことで、有機分子-遷移金属系材料の磁気抵抗効果の更なる増大や、室温での巨大TMR効果の実現に繋がるものと考えられ、有機分子「分子スピントロニクス」研究に広く波及することが期待されます。

なお、本成果は、Elsevier社(欧州)のChemical Physics Letters誌に掲載予定です。

以上

参考部門・拠点:先端基礎研究センター

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