用語解説

1) アジアフラックスネットワーク
アジアの陸域生態系(森林、草原、農耕地などを含む)と大気の間で交換されるCO2、水蒸気量、熱量などを長期モニタリングすることを目的とし、技術情報やデータの交換及び研究交流の促進をめざして1999年に設立された観測ネットワーク。
2) 有機炭素
炭素を含む有機化合物であり、植物遺体等を起源としています。これに対して、CO2や炭酸塩、重炭酸などは無機炭素に分類されます。森林土壌では、ほとんどの炭素が有機炭素として蓄積されています。
3) 宇宙線起源の放射性炭素
宇宙線起源の放射性炭素は、宇宙から降り注ぐ中性子と窒素原子との相互作用によって上層大気中で恒常的に生成されています。人為起源の擾乱がない時代では、放射性炭素の宇宙線による生成速度と放射壊変による壊変速度はほぼ平衡に達しており、大気中の放射性炭素同位体比はほぼ一定でした。植物は大気中の炭素を光合成によって取込み、枯死する際に土壌に有機物として供給されます。その後は、有機物への放射性炭素の供給が絶たれ、枯死後の土壌への蓄積時間に応じて半減期に従い放射性炭素同位体比が減少していきます。この減少の程度から、土壌有機物の数百年〜数千年程度の長い滞留時間を推定することが可能になります。
4) 核実験起源の放射性炭素
核実験起源の放射性炭素は、1950年〜1960年代前半の大気圏核実験によって断続的に生成されました。その後、この放射性炭素は海洋や陸域生態系に移行して現在も地球上に普遍的に存在しています。当時最大で2倍程度に上昇した大気中の放射性同位体比は、現在では核実験以前のレベルまで戻りつつあります。核実験の影響が残る大気を固定して放射性炭素同位体比が高められた植物体を出発物質とする有機物が、現在もなお極微量ながら土壌中に残っています。この放射性炭素同位体比を目印にすることによって、簡単なモデルを用いて、数年〜100年程度の滞留時間を推定することが可能になります。
5) 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)は国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)が1988年に、気候変動に関する科学的研究結果などの情報を各国の政策決定者に提供するために設立した国際組織です。科学、影響、緩和策を扱う3つの作業部会によって構成されています。
6) 土壌がもつ微生物分解特性の多様性
土壌微生物は、土壌に供給された植物遺体を分解し、その一部をCO2に変換してエネルギーを得るため、その分解残渣は様々な形態の土壌有機物となります。分解されやすい土壌有機物は、さらに微生物による分解を受けるため、より分解されにくい安定な構造の土壌有機物が残ります。結果として、土壌には分解程度や分解に対する安定性の大きく異なる有機物が混在することになります。気候、植生、土壌の物理的・化学的性質なども、土壌有機物の安定性を左右する要因となり、土壌有機物の微生物分解特性をより複雑かつ多様なものにしています。
7) 表層リター
地表面に集積した分解されていない落葉落枝や、植物組織が識別できる程度に分解を受けた落葉落枝のことを指します。
8) 加速器質量分析装置(AMS)
加速器質量分析装置(AMS:Accelerator Mass Spectrometer)は、イオン源、イオン入射部、タンデム型加速器部及び質量分析部から構成されています。この装置は、イオン源で試料を原子の負イオンの状態に変換し、それを高エネルギーに加速してエネルギー分析及び質量分析を行い、重イオン検出器などで目的とする原子イオンを計測し、同位体比を測定するものです。この装置は、少量の試料で極微量の同位体元素の検出及び同位体比(14C/12C、129I/127I等)を短時間で高精度に測定できる特長を有しています。

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