平成20年6月13日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人 東京大学
国立大学法人 広島大学

半導体スピントロニクス材料実用化へのブレークスルー
−動作温度上昇への鍵を放射光が解明−

独立行政法人日本原子力研究開発機構【理事長 岡ア俊雄】量子ビーム応用研究部門の竹田幸治任期付研究員らは、国立大学法人東京大学【総長 小宮山宏】および国立大学法人広島大学【学長 浅原利正】と共同で、半導体スピントロニクス1)材料として注目されている希薄磁性半導体2)が、半導体結晶格子の隙間に入り込んでしまった磁性原子3)によって、その磁気特性が大きく低下する機構を解明しました。

電子のもつ「電気を流す性質(電荷)」と「磁石になる性質(スピン4))」を活用する半導体スピントロニクスは、DRAMに代わる次世代メモリMRAM5)や量子コンピュータ6)実現などのために必須であり21世紀の高度通信・情報社会構築への鍵と言われております。

半導体スピントロニクス材料の有力候補である希薄磁性半導体ガリウムマンガンヒ素(Ga1-xMnxAs)7)は、約マイナス93℃以下に冷やさないと強磁性になりません。実用化のためには室温以上でも強磁性になる必要があります。そのため、なぜ強磁性転移温度8)が上がらないのかを解明することが切望されていました。

今回、当研究グループは大型放射光施設SPring-8からの円偏光を用いた軟X線磁気円二色性の測定(補足説明参照)をガリウムマンガンヒ素に対して行い、磁性原子であるマンガン原子だけの磁気的性質を詳しく調べました。その結果、ガリウムと入れ替わったマンガンが強磁性になろうとする一方で、結晶格子の隙間に入り込んだマンガンは、同じマンガンであるにもかかわらず、強磁性を打ち消す働きをし、動作温度を下げていることが明らかになりました。

この結果は、ガリウムマンガンヒ素を用いた半導体スピントロニクス材料の実用化のためには、結晶格子の隙間に入り込むマンガンをなくすことが重要であることを意味しており、今後の半導体スピントロニクスを実現する材料開発に明確な指針を与えるものです。

本研究成果は、米国物理学会誌”Physical Review Letters”に平成20年6月16日(オンライン版)に掲載される予定です。

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

以上


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