用語説明
 
1)DNA光補修酵素(I型)
 紫外線があたることで損傷したDNAを修復する働きをするタンパク質の名称。DNAを壊す紫外線が降り注ぐなかで働くことができるように、このタンパク質は紫外線を駆動力にして、DNAの傷を修復する。I型とII型の2種類存在する。


2)ラン藻
 酸素を発生する生物。その特異的な進化と、あつかいやすさから分子生物学の研究対象として広く用いられている単細胞生物。赤潮の原因にもなる。オーストラリア沖合のグレートバリアリーフは、古代に存在した膨大な数のラン藻の化石と考えられている。


3)コンピュータシミュレーション
 実際の時空間では、その大きさや速度のために観測困難な現象をコンピュータの中で再現し、その現象がどのように起こっているかを調べる実験手段。タンパク質がDNAを修復する現象は、とても小さくて高速であるため、コンピュータシミュレーションによる研究に適した対象である。


4)353番目のアミノ酸
 タンパク質はアミノ酸が鎖状につながった分子である。ラン藻のDNA光補修酵素は、474個のアミノ酸がつながってできているタンパク質。普通の鎖とは異なりアミノ酸の鎖には方向があるため、アミノ酸に1番から順番に番号付けができる。この中の353番目のアミノ酸が電子が流れる経路になっていることをはじめて見出した。


5)ゲノム情報データベース
 ゲノムとはひとつの細胞に存在する全DNAであり、4種類の分子がある決まった並び方をしている。4種類の分子はATGCのいずれかの文字で表されることから、ゲノムはATGCの文字列(ヒトの場合は、約30億文字)情報としてコンピュータに蓄えることができる。ゲノム情報データベースとは、この文字列情報のどこにどういうことが書き込まれているかを細かく記述したデータベースである。


6)従来の定説
 DNA光補修酵素(I型)がDNAを修復するときに、電子はタンパク質の中を流れないと考えられていた。タンパク質は主体的な役割をすることなくDNA補修の際には補助的な役割をするのみだと考えられていた。2001年にカリフォルニア州立大学デイビス校の ストゥチェブルコフ教授らによって提唱され、学会の定説となっていた。本研究では、同教授らが指摘していた電子の流れ道に加えて、新たにタンパク質の中を通る流れ道を見出した。


7)理論計算と生物情報学を組み合わせた研究
 理論計算(コンピュータシミュレーション)では、物理法則にしたがってタンパク質の動作を研究することができる。その結果、試験管による実験では判明していないタンパク質が働くしくみを見出すことができる。生命情報学では、多くの生物がもつ類縁のタンパク質を比較することで、タンパク質のどの部分が重要かを見出す研究をすることができる。タンパク質が働くために必要な部分は、すべての生物がもつ類縁タンパク質で共通に存在するからである。つまり、コンピュータシミュレーションと生物情報学とは研究のやり方が異なる。両方の研究手段から同じ結果が得られることで、その結果の信頼性を高めることができる。

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