用語解説
 
中性子と水分子
 水分子H2Oは2個の水素原子Hと1個の酸素原子Oで構成されています。中性子を用いると右図の赤丸のように水素原子が見えますが、X線では見えません。また、水素は正、酸素は負の電荷を帯びているので、水分子は矢印のように正負に分極(電荷が偏ること)しています。このことは、磁石がN極とS極を持つことと似ています。

 
氷(コオリ)Ih(イチエッチ)と氷(コオリ)XI(ジュウイチ)
(a) 通常私達が目にする雪や氷の結晶構造を氷I(イチ)といいます。地球上の氷Iの酸素原子は多くの場合六角形を形作りますが、雲の中などでまれに立方体を形成します。この氷と区別するために、通常の氷は六角形の英語の頭文字hを添えて氷Ihと表記されます。この氷の酸素原子は水色で示した位置に固定して存在しますが、水素原子は酸素原子間の赤色で示す2つの位置に各々1/2の確率で存在します。この状態を、水素原子は無秩序に配置するといいます。

 
(b) 水素原子の配置が秩序化した氷の結晶構造で、氷の構造として11番目に存在が知られたので氷XIといいます。水色で示した酸素原子は氷Ihと同様の配置をとりますが、赤色で示した水素原子は酸素原子間の1つの位置のみに存在しています。この状態を水素原子の秩序配置といいます。ここで、水色の酸素原子1個とそれに近接する赤色の水素原子2個の計3点を頂点とした三角形をつくり、その酸素原子から底辺に引いた垂線を考えると、どの垂線も右図の上方を向いており決して下を向きません(図中で水素原子は必ず酸素原子の上の方に存在しています)。この垂線は個々の水分子の分極(電荷の偏り)の方向を示すので、それが全体として上方に偏っていることは結晶全体としても分極することを意味します。この様に、全体的に分極した氷XIは強誘電体となります。

 


中性子回折
 物質を構成する原子核と中性子との相互作用で発生する干渉性の弾性散乱。散乱角度と強度から、物質を構成する原子の配置等に関する情報を得ることが出来ます。散乱強度は原子核と中性子との相互作用の強さで決まるので、X線の場合と異なり水素のように軽い原子でも強い回折線が得られます。このため、中性子回折は水素や重水素の位置の決定に重要な役割を果たすのです。粉末試料の中性子回折では、回折パターンから原子の配置を求める結晶構造解析の方法の一つとしてリートベルト解析が用いられます。結晶構造解析において、解析の信頼性の目安をR因子(測定値と計算値の差を測定値で割った値)と呼び、この値が低い場合に正確な原子の配置が得られたと判断されます。今回の研究では、Ice XIの構造解析としては最も低いR因子(約5%)で水素原子の配置が得られました。

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