平成18年 8 月 7 日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
 
高輝度陽電子ビームを用いて表面ナノ物質の原子立体配列の観測に成功
−陽電子で物質最表面の顕微技術が可能に−

 
 独立行政法人日本原子力研究開発機構【理事長 殿塚猷一】(以下、原子力機構という)は、従来よりも一桁以上高い輝度を持つ陽電子1)ビームの開発に成功しました。これにより、従来は輝度不足のため困難であった表面ナノ物質2)の原子の立体的配列が、精密に決定できるようになりました(補足説明1)。今後、本技術の表面ナノテクノロジー開発への貢献が期待されます。これは、原子力機構先端基礎研究センター「高輝度陽電子ビームによる最表面超構造の動的過程の解明グループ」の研究成果です。
 物質表面に形成される表面ナノ物質は、例えば、量子ドットや量子井戸3)などの開発に代表されるように、半導体産業等で将来の先端材料として期待されています。表面ナノ物質の性質を理解するためには、第一段階として原子の配列を知ることが必要不可欠であり、それを観測する顕微技術の開発は重要な要素となっています。
 原子力機構では、そのためのツールとして高輝度陽電子ビームの開発を行ってきました。電子の反粒子である陽電子は、電子とは逆に物質から反発力を受ける性質があります。このため、陽電子ビームは物質内部に進入しなくなり、表面で全て反射される特性(補足説明2)を示します。この特性を利用することで、他の方法では難しい表面ナノ物質の原子の立体的な配列が精度良く決定できます(補足説明3)。今回、陽電子ビーム発生方式においてビーム径を低減する改善を行うとともに、電子顕微鏡と類似のビーム収束原理を用いることで、ビーム輝度4)を従来よりも一桁向上させることに成功しました(補足説明4)。この陽電子ビームを未だ原子配列が分かっていないシリコン上の銀超薄膜(厚さ:約0.2ナノメートル)に照射し、その全反射パターンを解析した結果、原理的に可能な千通り以上の組み合わせの中から、唯一の原子の立体的な配列を決定することに成功しました(補足説明5)。
 今後、表面ナノ物質の研究分野における構造解析法として高輝度陽電子ビームの貢献が期待されます。本成果は、表面科学の国際誌Surface Science誌の9月号に掲載される予定です(電子版は6月16日に掲載)。


 ・高輝度なビームを用いて表面ナノ物質の原子立体配列の観測に成功
 ・写真1 各種の表面ナノ物質の陽電子全反射(回折)像。
 ・図面1 上の陽電子全反射(回折)像を解析することで得られたシリコン上の銀超薄膜の原子の立体的な配列。
 ・用語説明
以 上

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