平 成 18 年 8 月 1 日
独立行政法人
日本原子力研究開発機構
 
「単元素バルク金属ガラスの発見」はまぼろしだった
−高温高圧状態の金属で特異な結晶粒粗大化を発見−

 
 独立行政法人日本原子力研究開発機構【理事長 殿塚猷一】(以下、「原子力機構」と言う。)は、大型放射光施設SPring-8を用いたX線回折その場観察1)によって、高温高圧下でジルコニウム及びチタンがバルク金属ガラス2)を形成するという最近の報告を覆す新事実を発見した。これは、原子力機構量子ビーム応用研究部門、服部高典研究員らによる成果である。

 金属ガラスは、通常の金属とは異なり原子配列に周期性がないため、機械的強度、耐腐食性、磁気特性などに通常の金属にない優れた性質を持つ。これらの金属ガラスを作成するためには、冷却時の結晶化を阻害するために、原子サイズの異なる数種類の元素からなる合金をその構成材料とする必要があった。しかしながら、そのようにして作られた金属ガラスは、数種類の元素から構成されているために、加熱による分解が避けられなかった。そのため、単元素から成るバルク金属ガラスが切望されていた。
 最近、数万〜10万気圧、700〜1000℃における高温高圧下で、ジルコニウムなどの単元素金属においてもバルク金属ガラスが得られるという報告が権威ある国際誌において立て続けになされ、ホットな成果として世界中で注目を集めている。

 原子力機構では、これらの報告における現象を確認するため、高温高圧下で正確な構造情報を得るためのX線回折法3)を開発し、ジルコニウム及びチタンの構造を常温〜1000℃、常圧〜10万気圧の広い温度圧力範囲にわたって詳細に調べた。本方法は、試料の情報の一部しか得ることができなかった従来法に比べ、より広い角度範囲で情報を収集できるところに特徴がある。その結果、加熱の過程において、融点の半分以下という低い温度で急激に粒成長が起こり粗大な結晶粒が形成されることを示す高温高圧結晶相のX線回折パターンが得られた。これらの物質における結晶粒の粗大化は大変稀な現象であり、試料の一部を観察すると、あたかもガラス相が形成されたように見えることがわかった。

 今回の結果は、これまで報告されている「単元素バルク金属ガラスの形成」を覆すものであり、単元素バルク金属ガラスという夢の実現にはさらなるブレイクスルーが必要であることを再認識させたものである。

 本成果は、米国物理学会の学術誌"Physical Review Letters"の6月30日の電子版に掲載された。


 ・「単元素バルク金属ガラスの発見」はまぼろしだった 〜高温高圧状態の金属で特異な結晶粒粗大化を発見〜
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