補足説明


背景: ウラン化合物は、超伝導、強磁性、反強磁性およびそれらの共存など、他の物質系では見られない多様な物性を示すことが知られている。これらの性質は、ウラン化合物内で電気的・磁気的な性質を決定している5f電子が、お互いに相互作用を持って避けあいながらも、結晶中をある程度自由に移動していることに起因している。5f電子は非常に複雑な振る舞いを示し、その統一的な理解は非常に困難であると同時に、現代の物性物理学の挑戦的な課題である。また、ウラン化合物における超伝導は、銅酸化物高温超伝導と共通のメカニズムを持つという指摘もあり、その解明は非常に重要である。
 ウラン化合物において、5f電子がどのようなバンド構造やフェルミ面を形成しているかを知れば、ウラン化合物の物理的性質の起源を理解することが可能である。軟X線放射光を用いた角度分解光電子分光(SX-ARPES)を行うことにより、最も重要な化合物内部の5f電子が作るバンド構造やフェルミ面を調べることが可能である。しかしながら、放射性のためにウラン化合物は実験的な取り扱いが難しく、さらに軟X線角度分解光電子分光法は非常に高い実験精度が必要になるため、その実現は非常に困難であった。


実験:今回、世界トップクラスの光強度とエネルギー分解能を持ち、さらに放射性物質の取り扱いが可能な原子力機構専用ビームラインSPring-8 BL23SU(図1左)において、角度分解光電子分光装置(図1右)を用いて、UFeGa5高品位単結晶に対してSX-ARPES実験を行った。





図2(a)(b)に実験結果から得られたバンド構造を示す。今までの実験手法では5f電子は観測されず、理論との詳細な比較は不可能であった。得られた実験結果は、5f電子を遍歴電子とした相対論的バンド理論によるバンド構造(図2(c)(d))と比較的良い一致を示している。





図3(a)に実験的に得られたフェルミ面を示す。図において、強度の強い部分(明るい部分)と強度の弱い部分(暗い部分)の境界がフェルミ面に対応している。バンド計算によるフェルミ面(図3(b))と比較すると、大きなドーナツ状の構造など、特徴的な構造が非常に良く再現されていることが分かる。これらの結果を総合すると、UFeGa5の電子状態は、このバンド理論によって非常に良く記述されることが明らかとなった。ウラン化合物のバンド構造とフェルミ面が直接観測され、バンド理論によって説明されたのは、今回が世界で最初のケースである。また同時に、この実験手法がウラン化合物の電子状態を調べる上で、非常に有力な実験手法であることが明らかとなった。






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