用語解説
 
1「カドミウム-イッテルビウム(Cd-Yb)合金」
 Cd-Yb合金は組成比の僅かな違いで、準結晶にも近似結晶にもなる。特に、準結晶は2種類のみの元素からなる準結晶の初めての例である。また、準結晶と近似結晶との構造類似性が高いのもこの合金系の特徴である。

2「原子団」
 いくつかの原子が集団で1つの働きをするもの、化合物の分子の中にふくまれている特定の原子の集まりのことを言う。

3「準結晶」
 正二十面体型の原子団が組合さって更に大きな正二十面体型構造を作るという操作を次々と繰り返して得られるような無限の入れ子型構造を持つ物質。Cd-Yb合金準結晶は正二十面体型で立体的だが、他の合金では五角形型の平面的な準結晶も存在する。準結晶では、原子が規則的に配列しながらも、通常の結晶のような周期的構造は持たない。また、結晶では許されない五回対称性や正二十面体対称性を持つことも特徴である。

4「電子-格子相互作用」
 物質中の原子位置の変化、つまり、格子変形が起こったときに、電子系エネルギーの変化も引き起こす場合、電子-格子相互作用が存在すると呼ぶ。Cd-Yb合金中のCd四面体クラスターにおいては、クラスター間を移動する電子が各々のクラスターの配向の影響を受けることにより、結果的にクラスター配向同士に相互作用が生じていると考えられる。

5「結晶、アモルファス、準結晶 : 一般的な説明」
 地球上の固体は、結晶とアモルファス、準結晶に分類することが出来る。結晶は、3次元的に規則正しく原子が配列し、三次元的に点と線の集まりとして編み目模様で表すことが出来る。それを空間格子といい、各直線の交点を格子点、結晶に対する空間格子が結晶格子である。空間格子の概念に基づく並進対称性(単位胞を周期的にずらすことにより空間を埋める)が結晶の基本である。
 一方、アモルファスの構造は、結晶のような並進性が全くないので、格子と言う概念があまり役に立たない。アモルファス金属の場合は原子が不規則に配列しているために、その中には結晶に見られるような転位は見られないことから金属として変形を起こす機構はないが、原子集団が少しずつ位置をずらすことで変形をもたらし、大きく変形する。また、結晶でないために、物体の内部に働く力を分散することが出来るので粘り強くなり、強さと粘さを合わせ持つ優れた機械的性質を有している。
 準結晶は1984年Shechtmanらが液体急冷したMn合金中に、正20面体対称性を有する新しい相を発見したもので、並進対称性を有する結晶の回転対称性は2回、3回、4回および6回に限られており、準結晶のように正20面体のように 5回対称性を有する物質は従来の結晶学では考えることが出来なかった。準結晶は結晶学にまったく新しい概念を導入し、結晶学そのものの一般常識を覆すほどの発見と認識されている。

6「近似結晶」
 準結晶の一部を切出して、それを周期的に並べた構造を持つ物質。今回研究されたCd-Yb合金は、対応する準結晶に見られる正二十面体型原子団を、準結晶中に現れる隣接関係を取りながら周期配列させた構造を持つ。近似結晶の研究は準結晶の局所的性質の理解を進めるのみならず、準結晶との比較により、準結晶の特異な配列構造自体がもたらす性質を抽出させることができる。

7「X線回折実験」
 波長の短い電磁波であるX線が結晶格子によって回折される現象を利用して物質の結晶構造を調べ、結晶内部で原子がどのように配列しているかを決定する実験。
 (イメージングプレート(IP): 結晶にX線を当てると、散乱されたX線が波の干渉によって特定の方向に強め合い、反射として出てくる、その反射されたX線を特殊フイルム(イメージングプレート)に記録すると、反射は点となって見ることができる。)

8「準結晶の実用材料への応用」
 実用化されたものとして、微細なアルミニウム準結晶粒子を、アルミニウム結晶合金中に均一に分散させた高温での強度に優れかつ高延性で加工性に富む新合金がある。この合金は、耐摩耗性や耐衝撃性にも優れているなどこれまでのアルミニウム合金にない特徴を持ち合わせている。
 Al-Cu-Fe準結晶の触媒効果は、準周期構造故に細粒化しやすい利点、Al, Cu, Feの組成比とこれらの元素が原子レベルで均質に混ざっているなどから優れた触媒作用を生み出したもので、さらに準周期構造を活かしたもの、準結晶触媒の活性が触媒の本質的変化によることの利用、触媒活性機構の解明、低温活性や耐久性への対応など、新たな展開が期待されている。
 軽量材として現用のMg合金の耐久性、加工性、腐食性などターゲットにした準結晶分散Mg合金、今回の、Cd系近似結晶において観察された温度、圧力による様々な相転移現象から準結晶の多様性を利用する実用研究、ボロン系半導体準結晶、強磁性や超伝導準結晶などに研究者の期待が高まっている。

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