平成18年1月20日
 
ウラン残土撤去土地明渡等請求控訴事件・原子力機構「準備書面」(平成18年1月20日付け)の概要
 
独立行政法人 日本原子力研究開発機構
 
 本準備書面は、一審原告(方面区民[個人])が提出した、@同人の平成17年10月27日付け陳述書(甲第88号証)及びA元京大原子炉実験所助手作成の平成17年11月28日付け「再々意見書」(甲第89号証)に対する原子力機構の反論の主張を述べたものである。

 1. 一審原告の「陳述書」について
(1) 一審原告の「陳述書」は、原子力機構作成の図面から、土地の位置関係に係る一審原告の主張が正当であるとする。
(2) しかし、フレコンバッグ詰めウラン残土約290m3は、平成17年9月17日までに撤去されているのであるから、本件訴訟において、一審原告所有土地の位置関係を云々する実益はない。
(3) 仮にその点をおくとしても、上記図面は、そもそも土地の位置関係を正確に示しているとは思われないし、また、重要な点において一審原告の主張と矛盾・齟齬する部分も見受けられるのであるから、これを的確に裏付けるものとはいえない。

 2. 元京大原子炉実験所助手作成の「再々意見書」について
(1) 「再々意見書」は、低線量放射線による人体影響について、「どのように低いレベルの被曝であっても必ず影響はある。・・・放射線に被ばくしても何の影響もないなどという主張は科学的にあり得ない。」とする。
(2) しかし、本件訴訟は、妨害排除請求権の行使が認められるか否かを争点とする訴訟であり、妨害排除請求権の行使が認められるためには、@既に撤去済みのフレコンバッグ詰めウラン残土約290m3を除く、その他のウラン残土約2,710m3に起因する放射線の被ばくによって人体にがんが発症する等の影響が生じる高度の蓋然性(具体的可能性)が、病理学的ないし疫学的に認められることが必要であり、また、Aこの高度の蓋然性の立証責任は一審原告が負担すべきであるというのが判例理論である。
(3) しかし、上記ウラン残土に起因する放射線のような低線量放射線による人体影響については、病理学上はもとより、疫学上も、発がん等の影響が高度の蓋然性をもって生じるというような因果関係の存在が確証されていると言いうる知見は得られていない。
 なお、「再々意見書」は、あたかも、低線量放射線による人体影響について疫学的因果関係が論証されているかのごとき論述をしているが、「しきい値なしの直線仮説」(LNT仮説)が放射線防護上採用されているとしても、そのことが、現実に、低線量放射線によって人体影響が生じる蓋然性が論証されていることを示すものではないことは、原子力安全委員会放射線障害防止基本専門部会低線量影響分科会の報告書が、「LNT仮説が現実の低線量の放射線影響の実態とどこまで一致しているかについては、世界的にも多くの議論がある。」等としていることから明らかである。
 また、「再々意見書」は、「どのように低いレベルの被曝であっても必ず影響がある」理由として、「放射線に被曝すれば、生命体の細胞に傷が付くことは・・・明白であり、仮に修復機構が働いたとしても100%有効であることはありえない」ことを挙げるが、そのような影響発生の抽象的な可能性をもって、疫学的因果関係が論証されたということはできないし、判例理論がいう「高度の蓋然性」が証明されたということはできない。
(4) 低線量放射線による人体影響の有無、程度については、既に一審原告及び一審被告の双方が主張立証を尽くしているのであるから、本件訴訟については、速やかに弁論を終結し、一審原告の控訴を棄却するとともに、鳥取地裁判決を取り消し、一審原告の請求を棄却するとの判決を言い渡されるべきである。
以 上

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