平成18年11月27日
理事長外国出張報告
(11月19日〜25日、フランス・ベルギー)


1. 目的
 パリで開催されるITER協定署名式、及びブリュッセルのEU本部で開催されるBA協定の仮署名式に参列するとともに、ベルギー原子力センターを訪問して協力協定に署名する。また、その間に、OECD/NEAのエチャバリ事務局長及び仏原子力庁のプラデル局長を訪問して今後の協力について意見交換を行う。


2. 概要
1) ITER協定署名式
 11月21日、パリ・エリゼ宮(大統領府)でITER(国際熱核融合実験炉)機構設立協定の署名式が行われた。シラク大統領、バローゾ欧州委員会委員長、その他ITER加盟国(米、日本、中国、韓国、露、インド)の代表が出席して協定に署名した。日本からは、外務省から岩屋副大臣(他3名)、文科省から水落政務官(他2名)、在仏大使館からは飯村大使、JAEAからは殿塚理事長(他2名)が出席。式典は、シラク大統領の挨拶の後、各国がITER協定、特権免除、暫定発効取り決め本協定の署名。その結果、参加7極でのITERの建設と運転に関する国際協定が締結されたことになる。

ITER協定署名式の様子


2) BA協定仮署名及び共同宣言署名式
 11月22日、ブリュッセルの欧州委員会本部で核融合研究開発に関するBA協定(幅広いアプローチ)の仮署名、BA活動の実施に関する共同宣言の署名式が行われた。EUは、ポトチュニック科学研究担当委員が、日本は文科省の水落政務官が署名した。式典には、文科省からは政務官の他に4名、外務省から2名、EU代表部から河村大使他1名、JAEAからは殿塚理事長(他5名)が出席した。本署名により、日本でのIFMIF−EVEDA(国際核融合材料照射施設−工学実証設計活動)、国際核融合エネルギー研究センター、サテライトトカマク(JT-60 超伝導化)の三つの事業及び、BAでの日欧の貢献や役割分担、暫定スケジュールが定まった。

BA協定仮署名後のパーティの様子

3) ベルギー原子力センターとの協力協定署名式
 11月23日、ブリュッセルのベルギー原子力研究センター本部で、JAEAとベルギー原子力研究センターとの「原子力研究開発分野における協力のための取り決め」に関する署名式が行われた。本協定は、昨年ベルギーの皇太子が愛知万博で来日時に締結した覚書にもとづき締結され、加速器駆動システム(ADS)による核変換、廃止措置と解体、原子炉構造材料、高レベル放射性廃棄物処理処分、その他合意された事項からなる協定である。今後の協力の進め方について、各協力課題について担当者を設定して、各課題ごとに年1回程度、協力の運営会議開催の提案があり、その方向で進めることに合意した。
 ベルギーには7基のPWRがあり全出力560万 kWeで、電力需要の55%を担っている。ベルギー原子力研究センターには、4基の研究炉がありベルギーの原子力研究とエネルギー開発の拠点として1952年に発足。年間予算8,500万ユーロのうち50%が国から、50%が請負事業により賄われている。職員は現在630人で、1/3が学位を有している。本研究センターの目的は、現行発電炉の安全性、ADSを用いた核変換による燃料サイクルの開発、核融合研究、放射性廃棄物の地層処分、原子力施設のデコミッショニング、放射線化学、原子力災害の影響と安全確保、研修と教育、原子力産業・医療分野・原子力応用分野等への支援にある。

ベルギー原子力研究センターでの協定署名式の様子

4) OECD/NEAエチャバリ事務局長との会談
 11月21日、夕刻よりエチャバリ事務局長と会見し、最近の原子力情勢について意見交換を行った。理事長よりのGNEPとGIFに関する質問に対してエチャバリ事務局長より、以下の発言があった。GNEPは活動範囲が不明確であることが課題であり、NEAは政策的な課題には関与せず、技術面の支援に限定している。GNEPは非常に幅広い概念であり、分野毎にGIFと同様の枠組みが必要になると考えられる。全てのプロジェクトの同時進行は不可能なので、今後、整理がなされると考えている。
 天然ウランの埋蔵量は70〜80年分程度であり、FBRを導入すれば利用効率が理論的には100倍程度になるので比較的楽観的に考えている。NEAは最近ウラン資源について、2つの重要な出版物を出した。一つはウラン資源、生産及び需要の今後40年の見通しについてまとめたもので、原子力ルネッサンスの時代にあっても、ウラン資源は十分であると結論している。本出版物は世界に大きな影響を与えたと認識している。オープンサイクルはウランの効率的利用ではないので、高速炉の開発が大切である。30〜40年以内でのFBR商用化の目標を揚げることは、政策決定者への重要なメッセージである。
 最後に、エチャバリ事務局長より、以下の発言があった。最近、2年間で原子力に対する風向きが変化してきた。今後の原子力の利用拡大には、高レベル放射性廃棄物とFBRに関する研究開発協力と開発の見通しを政策決定者に伝えていくことが重要であるので、今後も緊密な協力をお願いしたい。


5) 仏原子力庁、プラデル原子力局長との会談
 11月20日、CEA本部のサックレーで今後の協力について意見交換がなされた。その中で、理事長より、以下の発言があった。グローバルスタンダードなFBRのプロトタイプを追求することが重要で、世界とも協力して開発を進めて行きたい。その開発では、できるだけ絞り込んで開発を進めることが重要。また、ジューロホロビッツについては、両国が所有する照射炉全体の協力については前向きに考えて行きたい。


4.まとめ
1)  本ITER協定の署名により、今後の核融合開発の中心となるITER計画を実質的に開始できることとなり、長年の懸案の課題が解決された。原子力機構は、極内機関に指定される予定であり、今後のITER計画の推進に向けて決意を新たにした。

2)  BA協定では、1年半の短期間に、これだけの協定を仕上げたことに、EUだけでなく、日本の関係者にも敬意を表する。日欧の長期にわたる核融合研究開発の確固たる協力の基礎が出来た。今後は、さらなる緊密な日欧協力により、BA計画を推進して核融合炉の実現に貢献して行きたい。

3)  ベルギー原子力研究センターは、EUでの加速器駆動による核変換実験施設に関する研究の中心機関であり、本協力協定により、この分野での効率的な研究協力の進展が期待される。また、廃止措置、解体、高レベル放射性廃棄物の地層処分、原子炉構造材料等の分野に関する協力の推進も期待できる。

4)  OECD/NEAは、技術基盤の同じレベルの先進国の集まりであり、多国間の協力の政策決定をIAEAより短時間にできる。今後は、これまで以上に原子力機構における事業目的の達成のために、長期的観点から計画的に人員を派遣したい。

5)  日仏は、世界の原子力開発の中心的な国であり、今後も、さらに密接な協力関係を構築して行くことを確認された。FBR開発では、各国とも協力しつつ開発を進め、開発項目を絞り込んで、グローバルスタンダードなFBRのプロトタイプを追求して行くことが重要である。ジューロホロビッツは、両国が所有する照射炉全体の協力については前向きに考えて行きたい。

以上

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