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海水からウランやバナジウムなどの有用希少金属を捕集できる技術を開発

−海水ウラン捕集材料の開発−

 高崎研究所では、放射線を利用して、産業界で実用化できる技術の開発を数多く行っています。 このほど、資源の宝庫である海からウランやバナジウムなどの有用希少金属を捕集できる技術を開発しました。 この技術が実用化されれば、100%輸入に頼っている有用希少金属が日本国内で産出できるようになります。

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海から有用希少金属を捕集できる魔法の布を開発しました

 日本は、原子力発電所の燃料であるウランを100%輸入しています。 このウランの陸地の埋蔵量は、500〜600万トンと推定されています。 これをすべて使ってしまうと、ウランはなくなって、原子力発電ができなくなってしまいます。
 しかし、日本近海を流れている黒潮には、1年間で520万トンのウランが含まれています。 つまり、陸地の推定埋蔵量と同じ量のウランが、黒潮の流れに乗って流れてきているということです。 しかも、世界の海全体のウランの含有量を合わせると45億トンとばく大な量になります。しかも、海の底の岩盤には、海水に溶けていない状態のウランが更に45億トン以上もあると推定されています。
 また、通産省が国内消費する6ヶ月分を備蓄しておくよう指定している希少金属のバナジウムは、年間使用量の300倍もの量が1年間で黒潮に乗って流れてきています。 さらに、同じように備蓄金属として指定されているコバルトも、年間使用量の400倍分が1年間の黒潮の中に含まれているのです。 つまり、黒潮に乗って流れてくるウランをはじめとした有用希少金属のうち、0.3%を捕集するだけでも国内使用量の全てをまかなえる計算になります。
 ウランやバナジウムなどの有用希少金属の100%を輸入に頼っている日本にとっては、まさに夢のような話です。

捕集材充填容器(吸着床)
写真1捕集材充填容器(吸着床)
どのようなしくみで海水から有用希少金属を捕集するのですか?

 ウランなどの重金属だけで選んで吸着する不織布(フェルト)を開発し、この布を海に沈めておくだけで捕集できるというものです。
 では、重金属を捕集する不織布のしくみを説明しましょう。 ウランは海水にたくさん溶けていると言っても、濃度は極めて薄いのです。 海水を蒸発させると塩が残りますが、この塩の粒3400万個の中に1個のウラン粒が含まれているといった薄さです。 3400万個の塩粒の中から1個のウランを1秒足らずの短い時間で捕まえるのは、非常に難しいことです。 この難しいことを可能にしてくれたのが、不織布というわけです。
 これは、重金属だけに敏感に反応する「アミドキシム基」という構造を不織布につけたものです。 「アミドキシム基」のもとになる薬液は水に溶けるため、そのままでは海水中で流れ出してしまいます。 そこで、次のような2段階の化学反応を起こさせることで、不織布に「アミドキシム基」をつけました。 まず、不織布に電子線を当てて分子の動きを活発にします。 次に、ここにアクリル繊維の原料を反応させて枝を作り、この枝に「アミドキシム基」をつけました。 このような化学反応を化学の接ぎ木という意味で「グラフト重合」と言います。 この化学反応は不織布のもともとの機能を損なうことなく、新しい機能を持たせられる方法として、最近開発されたものです。 こうして作った不織布130枚を並べて金属のカゴの中に入れたものを「吸着床」とよびます(写真1)。 直径4mの「吸着床」を100個並べて海に沈めておくと、1年間で1トンのウランが回収できます。 不織布は重金属だけを選んで吸着する特性を持っていますから、ウランだけでなく、ウランと同じくらい有用で希少な金属であるバナジウムやコバルトまで捕集してくれます。 むしろ、バナジウムやコバルトのほうがウランの倍も捕集できるのです。
 不織布で捕集した重金属は、濃度の違う塩酸で洗ってやれば、簡単に分離できます。 後は、今までのウランなどの精製法で燃料にすればいいだけです。 塩酸で洗った不織布は、何度でも使えます。
 この技術は、重金属を捕集するのに、ポンプで海水を汲み上げるなどの動力をいっさい使わず、自然の力、つまり海流を利用するだけというところに特徴があります。
 「吸着床」を使った実際の有用希少金属の捕集システムとしては、図1のように3つほど考えられます。 これは、養殖の技術そのものですから、この技術が実用化されれば有用希少金属は養殖できるようになるということです。と言うことは、海洋利用のあり方も変わる可能性があり、新しい産業の創成にもつながります。

捕集システムの概念図
捕集システムの概念図


これから、実用化の可能性を見極めるための実験をしていきます

 昭和60年ころ、不織布でウランが捕集できないかと考え出し、基礎実験を始めました。 その後、良好な感触が得られ、試作品を作って平成6年から実際の海流で試験を開始しました。 沖合6kmの海上に保留しておくだけで、平成8年度には1gのウランを捕集しました。 さらに平成9年にはスケールを大きくし、16gのウランと20gのバナジウム(写真2)を捕集しました。 捕集できた量は少ないですが、養殖技術を応用して有用希少金属を捕集してみせたのは、世界初のことです。
捕集したバナジウムとウラン
バナジウムV2O5 ウラン(イエローケーキ)

バナジウムV
ウラン(イエローケーキ)
写真2


今後どのように開発を進めていくのですか?

 「吸着床」の大きさを、少しずつ大きくして、実規模の20万分の1の実証試験をし、1kg程度のウラン捕集する予定です。この試験が成功すれば、経済性も含めた実用化の可能性が見極められるようになります。 この試験は、今後4年間かけて行う予定で、そのための準備を着々と進めている段階です。



(問い合わせ先:高崎研究所 庶務課 電話 029-346-9233)

須郷 高信
高崎研究所 材料開発部
照射利用開発室
室長
 須郷 高信

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