第9回 原子力機構報告会
「変革の時~新たなる出発に向けて~」

原子力機構改革を踏まえた将来展望 (テキスト版)

原子力機構改革を踏まえた将来展望
戦略企画室長 田島保英

○田島室長 原子力研究開発機構戦略企画室の田島です。よろしくお願いします。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P1) 本日お話しするのは「原子力機構改革を踏まえた将来展望」ということですが、内容的には大きく2つに分かれています。それは、今、理事長から申し上げた原子力機構改革の概要と、その展開、推移について少し踏み込んで申し上げます。そこから見えてきたものを抽出し、さらに原子力を、あるいは我々の機関を取り巻く状況についての考察をいたし、第3期中長期計画以降にどういう課題に取り組むことが我々の使命かということを明らかにした上で、将来展望の考え方をここで述べたいと思います。
P2) まず原子力機構改革の概要です。
 これについては、先ほども紹介があったように、具体的にはもんじゅの保守管理上の不備とJ-PARCハドロン実験施設における放射性物質の漏えい事故の2つをきっかけに始まったものですが、実際のところは、原子力機構全体にわたる、全職員、全職場を巻き込んだ抜本的な改革となっております。
 経緯をさらっとおさらいいたしますと、昨年(平成25年)5月に文部科学省で原子力機構改革の本部が設置され、8月にはその基本的方向の取りまとめが行われ、我々に提示されました。これを受けて9月に原子力機構の改革計画を策定し、その後1年間の集中改革期間を実行したものです。その過程で、原子力機構全体の改革と、特にもんじゅの改革、2つのものを並行して進めたわけですが、そのそれぞれについて外部有識者による検証を得て、その状況をモニターしながら進めてまいったものです。
P3) 原子力機構改革の概要で、課題をどのように設定したかということですが、もんじゅにおいては、保全計画の策定等において、非常に不十分な点があったとか、J-PARCにおいては、緊急事態とか異常事態に対するハードウェア上の対策、あるいはそれに対して対応する体制上の対策、安全保安の対策が不十分であった、こういうことが直接原因とされておりますけれども、その両方にわたって、組織体制についての問題、それから安全意識に対する問題が指摘されておりまして、これに、過去の大きな変革である動燃改革、それから2法人の統合において指摘されながら持ち越してしまった課題がいまだに尾を引いている。それから、安全が原子力の基礎ですけれども、それについてさまざまな取り組みの施策が打たれ、キャンペーンが張られたわけですけれども、その中で有効性を失ったもの、あるいは形骸化したものが見られるという指摘もありました。こういったことから、我々の組織の安全文化の劣化が指摘されて、社会からの信頼を失うことになったわけです。
 これに対応する課題としては、こういう事態に立ち至った経営力の弱さを克服する、それから、今までいろいろな事案に対してその都度対症療法的に対応してきたことの反省から、対症療法の悪循環からの脱却、そして、言葉だけが上すべりした感もありますが、選択と集中を実際に徹底させるということが課題であろうと考えました。
P4) そこで、改革を進めるに当たって、その初期に、社会における我々の使命とは一体何であろうかということをもう一度確認したい、足元を見つめ直すということで検討を進めました。
 我々はこの国における唯一の原子力の総合的研究機関と位置づけられております。そして、原子力基本法で、原子力の利用、エネルギー利用、学術への貢献、産業の振興といったことを進めるようにということで、原子力という手法を用いて研究開発を行っているわけですけれども、国難であるところの東京電力福島第一(原子力発電所)の事故への対応を最優先で行う、そして環境回復と炉の廃止について我々のできる貢献を最大限に行っていく、これが1つの重点事項であろうと。
 そして、原子力の基礎をなすものに、安全の確保と、基礎体力であるところの基礎的研究及び応用研究をしっかりやる、そのための人材を持つ、研究を進めるための健全なインフラを維持する、あるいは保持することが必要なわけでして、原子力の安全向上に向けた研究が重点を置かれるべきであって、ここには核不拡散、核セキュリティ、それから原子力防災に関する事柄も含めて、全部を一体として進めていく。
 また、原子力基盤の維持・強化では、特に人材の育成が必要であるというのは、原子力を利用しようとするあらゆる社会において重要な問題であって、これに対して我々は、研究開発の水準と質と量と、それを実際に動かす人材の育成を心がけていく、また、それを支える施設、インフラについては戦略的に強化する、そして社会に対してその供用を図ると同時に、産業界に対する技術サポートを我々の側から発信していくということです。
 また、原子力のエネルギー利用の根幹をなしているのは核燃料サイクルの確立ということです。これは、もんじゅを中心として、もんじゅの一日も早い再稼働を実現して、そこから必要なデータを取り出し、実用化に至る道筋をつけていく。現在のところ、その実用化に至る研究開発については、国際協力を有効に利用して進めていこうと。こういう核燃料サイクルの研究開発をする。
 そして、原子力の利用あるいは研究開発でどうしても避けて通れない問題である放射性廃棄物の処理・処分、そして原子力施設の廃止措置について技術開発を進め、これを合理的なものに変えていくということです。
 この5つの重要事項を我々の使命と定めたわけです。
P5) 次に、原子力機構改革の概要の中で、先ほどの課題の裏返しになりますけれども、強い経営の確立、それから安全確保・安全文化醸成に真摯に取り組んでいく、事業の合理化を行うということを通じて人や組織文化の改革を行って、さらに、もんじゅについては改革をここで断行するということを理念に掲げて、改革内容としては、組織体制を抜本的に再編するとか、意識向上を図るという項目を並べて、もちろんJ-PARCともんじゅについては、それぞれ個々に具体的な改革を進めるというように内容を組んだわけです。
P6) まず組織改革ですが、これまでは、この絵の左側にありますように、研究テーマによる分類と研究開発を行う拠点の分類が複雑に組み合わされて進められてきたものを、目的的に大きくくくって、高速炉研究開発、バックエンド、福島、原子力科学、安全防災、核融合と、6つの大くくりにして、さらにその部門の責任者に役員である理事を当てるという体制をとることにいたしました。
 それから、理事長を初めとする経営をサポートする組織を強力に確立するために、ブレーンであるところの戦略企画室、それから安全・核セキュリティ統括部、またコンプライアンス等を行う法務監査部をつくりまして、これによって経営支援を行い、強い経営の確立に資そうというわけです。
P7) この6つの部門ですけれども、福島については1つの独立の部門といたしまして、ここでこれから本格化する炉の廃止に我々の全精力を傾けようというわけです。
 安全研究・防災は、先ほど見ましたように、規制行政の支援が安全研究の大きな眼目ですけれども、それに加えて、シビアアクシデント、その解明、それに対する対策・対応といったことも含めて安全研究を強化するとともに、防災支援部門もこれに繰り入れて1つのまとまりとしたわけです。
 原子力科学研究は、旧原子力研究所で行っていた原子力の基礎的研究及び応用の研究、量子ビームの研究、高温ガス炉や大強度陽子加速器J-PARCも含まれますけれども、こういったもの全てを網羅する部門で、非常に範囲が広うございますけれども、これを1つのまとまった形にいたしました。
 高速炉については、もんじゅ、常陽といった炉が存在しているわけですけれども、これを中心として、さらにその先の実用化をにらんだ研究開発を進めていくということで、これも1つの部門にいたしました。
 バックエンドについては、旧原子力研究所、旧サイクル機構ともにそれぞれのサイトあるいは施設においてバックエンドの部署があったわけですけれども、それを全部1つのところにまとめて、共通技術開発を行って、バックエンドとしてこれから原子力利用のリスクであるところの廃棄物対策について有用な技術開発を行っていこうと(しています)。
 こういった核分裂エネルギーの利用にかかわる項目と少し趣を異にしているのは核融合でありまして、これは、政府が参加しているITER計画、それからヨーロッパとの2極で進めている幅広いアプローチ、その2つの国際協力を軸として核融合炉の開発に向かおうというものですが、これは核分裂とは進展の度合いも異にしますし、進展の方式あるいは進め方についてもかなり性質を異にしているもので、これを1つのまとまりとしたものです。
P8) 次に、事業の重点化・合理化については、重点化すべき項目として、(東京電力)福島第一(原子力発電所事故)に対する対応を強化しました。これは、福島研究開発部門を独立に設置して、現在、兼務も含めて600人を超える人員がこれに携わっております。
 また、もんじゅへの資源投入では、昨年(平成25年)10月に改革が始まったときに、プロパー職員40名を他の拠点から人事異動させました。また、実務経験を持つ技術者を22名中途採用いたしまして、人的な補強を図りました。また、安全対策の追加予算措置として、年度途中に30億円規模の予算投入を行っております。
 反面、分離すべき事業を特定いたしました。これは、先ほど申し上げたような少し趣を異にする核融合、それから量子ビーム応用の一部、これは光量子、レーザー、また放射線利用といった部分について、これをより広いアリーナで、すなわち、一般産業界、一般学術といった分野でもってさらに発展が期待されるという考慮から、これを核融合とともに他法人に分離して統合するという方針を定めました。
 また、その他の全ての事業についても見直しを行いまして、再処理では、技術開発は継続するものの、廃止すべき施設については、その廃止を具体化するために廃止計画の申請を行おうという検討に入っています。
 また、深地層の研究施設は幌延と東濃と2つあるわけですが、それぞれの研究課題を必須のものに絞り込んで、それに見合った具体的な施設計画をこれから立てていこうという段階になっています。
 また、高速炉については、今申し上げましたように、もんじゅの取り組みを最優先とする、そして実用化への研究開発としては国際協力を有効に利用するという形で進める。
 先端基礎科学研究も行われておりますけれども、原子力科学に密着した形での、例えばアクチノイド科学、それから先端的な原子力材料の科学といったものに関係するものに集約化するようにいたしました。
P9) 次に、職員の意識あるいは業務の改善という問題ですが、これについての改革は、我々の全職場、全職員が今回の改革にかかわるわけでして、その業務のやり方、流れを分析すれば、課室単位での動きが一番重要性を帯びていると考えました。したがって、課室ごとに改革の趣旨の徹底を図ると同時に、それぞれの課室における職場での議論を督励し、業務改善活動を促進しました。この過程で、4月に開始したものですけれども、700件を超える改善提案が既に上がっており、順次実行に移しているところです。
 また、本部の事務管理組織については、業務の合理化・標準化に向けた取り組みを進め、人事制度についても、人事評価が処遇にメリハリをつけて反映されるような制度改革を4月に既に実施しております。
 また、役員と職員との意見交換ですが、理事長を筆頭に、あらゆる拠点でかなりの回数の意見交換会が実施されまして、これまでに1,300人を超える職員がこの活動に参加しています。それを通じて職員の意識改革、業務の質の向上が必要であるという自覚が大分広まったと考えておりまして―
P10) これは先ほど理事長の話に紹介されました意識調査で、3回行いましたけれども、その結果にあらわれていると考えます。先ほどの話にありましたように回答率がほぼ飽和しているということで、関心の高さがこれから推しはかられますし、また、改革が進んでいるか、あるいは改革を成功させる自信があるかといった項目についても、当初は低かった回答の内容が改善して、最終的には大きく上昇を見せて、改革の進捗が見られると考えております。
P11) こういった事柄で改革活動を進めて、1年間の改革期間を閲(けみ)し、その結果、かなりの変化が見られると総括したところですけれども、まとめてみれば、ほぼ最初に計画した施策については完了した、打つべき手は打った。
 それから、原子力機構が今回直面した状況は非常に危機的なものであるということについて、職員各層の認識が共有された。それをもとに職員間の相互理解、今までは自分の部署以外のところに対しての無理解があちこちに見られたのですが、それに対して、自発的に他の職場の内容を知ろうとか、自分たちのやっていることを知らせようという動きが出てまいったことは大きな前進だと思っております。
 また、J-PARCについては事態は非常にはっきりしていて、今まではマイクロアンペアで加速器を運転して実験をしていた。そういう物理実験がJ-PARCにおいてはミリアンペアと格段に大きなエネルギー、大きな電流値の加速器を動かすことになった。それに対する洞察が足りなかった。したがって、ハードウェアにおいて施設の改修を行い、それから、一朝事があったときの影響の大きさにかんがみて、それに対応する体制をつくり、訓練を施すといったことが考えられ、実行に移され、今はその効果があらわれていると考えます。
 しかしながら、他方、もんじゅではまだ残された課題があります。これに対する取り組みを早期に行い、再稼働に向けて、喫緊になすべきこととして保守管理体制と品質保証体制の再構築を急いでいるところです。この改革の延長は、今年度の最終、来年(平成27年)3月末までの間、集中改革を継続するということで、改革の総仕上げを行おうということになりました。
P12) この改革から見えてきたものは何か。
 1つは、安全に対する意識が大きく変わりました。安全というのは、1つの絶対的な指標があって、そこに到達すればいいというものではなくて、絶えず継続的な向上努力が必要であって、それによって休みなく高めていくものである、そういう概念が広まったことも1つの前進と考えます。
 それから、原子力機構の使命が社会的なニーズに対応しているか、それから我々がやるべきことなのかということを心底考えて、それに見合った使命に重点化していくということが今回図られたわけです。
 それから、どうしても避けて通れない問題であるところの活動から生ずる(放射性)廃棄物、これが大きな累積を見せています。また、既に老朽化した施設をかなりの数、我々は抱えているわけでありまして、これに対する適切な対処を行わない限り前に進むのは危ぶまれるという状況にあるのだという認識も非常に明らかになりました。
 したがって、こういったこと全てを、相矛盾するものも含めて進めていくに当たっては、経営資源のバランスのとれた投入が必要であるということになります。
P13) さて、原子力研究開発全体を取り巻く状況に目を転じようと思いますが、これは2011年3月の東電福島第一(東京電力福島第一原子力発電所)の事故によって大きく変わりました。今、最大の急務として挙げられているのは、廃炉対応、要するに事故からの復旧・復興を一日も早く行うこと、それから実際に炉心が溶融して、過酷事故対策をこれから強化しなければならない。非常に低い確率でしか起こらないけれども、一旦起こった場合には影響が極めて大きな事故への備えも必要であるということで、これに真剣に取り組むこと。そして、放射性廃棄物の処理・処分の取り組みを強化していって、(東京電力)福島(第一原子力発電所)事故からも大量の(放射性)廃棄物が出るでしょうから、そういったものも含めて、それから今後原子力の利用において廃炉といったものも目前にあるわけでして、(放射性)廃棄物対策が重要である。
 他方で、これも理事長の話に紹介されましたけれども、エネルギー基本計画が今年(平成26年)4月に閣議決定された。その中では、原子力はエネルギー需給上の重要なベースロード電源である、そして再処理、プルサーマル等を推進して核燃料サイクルを維持する、また原子力利用のリスクであるところの(放射性)廃棄物については、これを高速炉や加速器を使って核種転換をして負担を軽くしていこう、と。また、固有安全性を有する高温ガス炉のようなものについては技術開発を推進という方針が出されたわけです。
 原子力利用は、世界的に見れば、中国、インド、ロシアといったところでは相変わらず拡大の傾向にありますし、日本の高度な技術力に対しては各界からの期待も大きく、日本は足踏みをしていると見られていた、それが原子力の一線にまた復帰するのかということで、世界の関心は非常に高い。
 その中で我々の組織がなすべきことも非常に大きな役割を担うことになるだろうと思います。
P14) 他方で、原子力機構そのものを取り巻く状況はどうかといえば、今回1年間の改革を終えた、しかしながらもんじゅについてはさらに半年延長するということで進めているところですが、原子力機構は、独立行政法人制度が変わりまして、来年度(平成27年度)、第3期中期計画が開始されると同時に、国立研究開発法人として、これまでの効率を最重視するというやり方から、研究開発成果の最大化が求められるというように変わります。これは、これからの我々の事業を考える上で常に念頭に置くべき事柄と考えます。
P15) さて、第3期中期計画以降に実際に取り組む課題あるいは事業としてどのようなものがあるかというのをここに挙げています。
 当然のことながら、我々の使命の再確認、それからそれに沿った組織の再編が起きたのですけれども、それに対応して、東電福島第一(東京電力福島第一原子力発電所)に対する対処に取り組んでいく。
 それから、高速炉の研究開発、核燃料サイクル、バックエンドの課題解決といったものがセットで、これからの原子力利用、核燃料サイクルに依拠した原子力利用を進めていくための事業である。
 こういったもの全体を横断的に支えるものとして、安全、基礎基盤といったものが正しく維持され、必要な研究開発行為がなされなければならない。その中で人材を育成していって、これは我々にとどまらず、原子力利用に要求されるさまざまな各界での人材養成に対して応えていくということをやっている。
 そして、核利用については、先ほど言いましたように、ITER、それから幅広いアプローチ、といった具体的には国際協力を進めていく。
 こういう課題を我々は事業として立てていくことになる。
P16) そのそれぞれの事業が必要なリソースを単純に積み上げていくと、理想形としてはかなり大きな研究開発支援が必要となると考えます。これがあれば所期のものがかなりの確率でうまくいくであろうと。
 施設的に申し上げれば、例えばビーム利用も照射利用もできるような非常に多機能な、そして高性能の中性子のビームや中性子の定量的な照射ができるような原子炉を持つことが望まれるわけです。それによって産業創造にも貢献できるし、軽水炉の安全の向上とか基礎基盤研究、それから医療用のRI製造もこれから出てくる。
 もう一つ大きな仕事として、原子力のリスク低減、(放射性)廃棄物対策ということで、(放射性)廃棄物を減らしていく、有害度を低減していくということもやる必要があるわけですけれども、そこで必要な技術として、群分離の技術あるいは核変換の技術が必要になる。そうすると、加速器施設として、今、パルス中性子源として持っているJ-PARCに加速器駆動システムを併設して、これをもって核変換の研究開発を進める。
 また、群分離等の研究開発には、照射後試験、核種分離、燃料製造、(放射性)廃棄物処理・廃棄体化、分析といった行為が必要なわけですが、それをする場としてホット施設が必要である。それも機能を集約して、あるいは幾つもの機能が連携してこういう目的解決に当てられるようなものを持つことが望ましかろうと(考えています)。
 人員的には、原子力研究所とサイクル機構が統合したときには、研究者・技術者の数が3,600人で、事務系800人が他にいました。その後に、福島のようなその当時考えられていなかった事業にも我々は関与しているわけですけれども、少なくとも統合時の3,600人規模が最低限望ましい規模ではないかと我々は考えるわけです。
P17) 他方で、現状はどうかと考えますと、複数の研究炉・試験炉を持っておりますし、ホット施設もさまざまな目的に応じていろいろと保有しているわけですが、そのいずれもが老朽化していて、中には昭和30年代に建設されたような非常に古い施設も含まれております。また、機能的に見ても最先端の機能とは申しかねるような、そして将来的には我々が非常に劣後するようなことが懸念される状況にある。当初からのテーマが変遷し、進展すると考えますと、必要な機能が分散してしまって非常に使い勝手の悪いものになっている。
 他方で、活動から生じる(放射性)廃棄物も非常な量に上りまして、この蓄積がいつの日か研究開発活動そのものを阻害する危惧も生まれています。
 人員的には、研究者・技術者は統合時から500人減っており、事務系では100人減っている。さらに、これから技術系のベテランが大量に退職することが見込まれます。こうなりますと、今我々が既に持っていて維持しているような施設の維持そのものに限界が来ることが見込まれます。
P18) 要するに、我々のなすべきこととそれをするための基礎的な体力との間に大きなギャップが生じつつある、あるいは既に生じてしまっている。そのときに、単純に必要なリソースを積み上げて要求するのではなく、我々の任務のもう一つの側面は、そういう場にあってどのような工夫を提案できるかということもあるわけでして、今考えているところでは、大きな「横軸」を投入して、それぞれの事業を有機的に連関させ、横断的・融合的な取り組みをし、その過程で研究インフラも集約して効率化を図っていこうということです。
 今考えている軸は3つあります。1つは、福島への貢献として、福島第一(東京電力福島第一原子力発電所)の廃炉を加速するための研究開発を進める。次に、安全研究、基礎基盤といった全体横断的に、言ってみれば原子力を進めるに当たっての国力に相当するような部分を強化する。3つ目がバックエンドフロンティア。一見言語矛盾に聞こえますけれども、核燃料サイクルとバックエンド対策を融合させ、核燃料サイクルの研究開発を着実に全面的に進めるための全体像を示して、それをバックエンドの視点から捉えていくという話です。適切なリソースは必要ですけれども、この3つがルブリケーション(潤滑油、潤滑剤)になって、うまく回転すれば、ここから(放射性)廃棄物対策、老朽施設対策の解決の糸口が見つかるでしょうし、我々の抱えている老朽施設のスクラップ・アンド・ビルドも進むだろうと。また、この過程でさまざまな専門性を備えた人材の育成もできるであろうと考えるわけです。
 この結果は我々の機関にとどまらず、日本の原子力利用、そして世界の原子力利用に有用な貢献となると信ずるものです。
P19) 具体的には、福島への貢献では、既に福島県内に遠隔技術開発のセンターを着工しています。これに加えて、今設計中の分析施設、それから研究開発を行う国際的な拠点、この3つを福島県内に建設することが予定されています。
 これを、茨城で我々が既に運営しています3つの大きな研究所が東海村と大洗町にあるわけですが、それらが全面的にバックアップして、この全体を進めていく。これによって、バックエンド部門、原子力科学部門、安全研究部門がこれを連携して進めることになろうと。
P20) 2つ目が、安全研究、原子力の基礎基盤といった、まさに基礎体力をなす部分の強化です。これは、量子ビーム、先端研究といったものも含めて原子力の基礎基盤研究を強化していく。他方で、(東京電力)福島第一(原子力発電所)の教訓をもとに安全研究の再構築を図って、これと健全な研究インフラを整備することによってこれがうまく回って、この過程で先見的な知の蓄積、知の創生が可能になると同時に、ここで育てられた人材が各所で有効に働けるという人材育成の効果もあるだろうと。
P21) 3つ目の軸がバックエンドフロンティア構想で、これは、商用発電から再処理に至る1つのサイクルが、使用済み燃料を再処理することによって有用なウラン、プルトニウムを軽水炉あるいは将来の高速増殖炉で燃料として用いる。しかしながら、このサイクルがこれで閉じるわけではなく、有用な核燃料物質を取り除いた残りの残渣の溶液の中からさらに高度な分離を行って、有用な白金族、核分裂生成物、そして非常に扱いの困難な超長寿命の放射性核種、あるいは非常に強烈な放射能を持つ核種を分離して、それを燃料として高速増殖炉で燃やす、あるいは専用の加速器で核変換するという、こちら側のサイクルが完成されないと、この全体像は成立しないわけです。原子力利用にとって、この全体像をどのように開発していくかということが1つのポイントになる。こういったサイクルが有機的に連関して回ることによって最終的に最終処分に回される物質の危険度を下げ、量的にも非常に負担を軽減するということが実現されるわけです。
P22) 具体的には、まず分離変換の技術開発を行うわけですが、これこそ、分離という点では、プロセス研究を行ってきた旧原子力研究所と実際にホット施設を多数稼働させてきた旧サイクル機構のシナジー効果が見込まれるところです。今、それに向けた活動が始まろうとしています。そして、そのうちの核変換については、加速器による核変換、高速炉を用いた核変換、それぞれの特性に応じた研究開発が進められようとしています。具体的には、後ほど講演がありますけれども、今、その研究開発のロードマップを作成しようというところになります。
P23) また、もう一つのバックエンドフロンティアの側面である(放射性)廃棄物の問題、それから施設の廃止措置ですが、特に廃止措置については、これは旧原子力研究所が建設し、運転し、廃止措置を行ったJPDRという炉ですが、最終的にはこのように更地にするということがこれまで考えられていたのですが、限られたリソースの中でどこまで廃止措置を行うかということをもう一回考え直してみようと。完全に安全が確保される状態まで持っていったら、それを中間措置として、例えば密封する、立ち入り制限区域にする等、さまざまな方策が考えられると思うのです。今、そういう方策について真剣に考えるべきときに来ているのではないかと考えるわけです。これによって、原子力利用に伴う負の側面あるいはリスクの側面が大幅に軽減されることになれば、我が国あるいは世界の原子力利用に対する大きな貢献であろうと考えます。
P24) 今申し上げたのは、要するに、やるべきことは示されている。それをやるに当たって、そのそれぞれを有機的に融合させて、いくつかの軸をここで投入して、その軸に沿った開発をやっていこうと。そういう工夫をすることによってリソースのショートをカバーしていく、あるいは全体の効率を上げるということをやるわけですが、研究開発機関として目指すものは何か。これは少し抽象的な話になりますけれども、偶然から必然への回帰と申し上げたい。研究開発というのは、いかなる研究開発も、そのスタートにおいては、それに必要な人員とか予算とかしつらえが手当てされるものです。ここにおいて目的とそれを進める体制が必然の関係にある。ところが、そのうちテーマは変遷し、または進展し、あるいは変化する。状況もまた同様に変化する。そのときに与えられた課題とそれを進める体制の間にはギャップが生ずる。どうしても現状を踏まえた手直しに終わる。このときにその関係は偶然の体制であると私は名づけているわけです。
 原子力政策も立案者がいて、決定者がいる。我々はそれに対して実施機関として実施していくわけですが、「科学的真理と技術的妥当性」と書きましたが、それを追求することを通じて我々からも先見的な選択肢を考案し、提案し、そして実行していくということがあろうと思います。
 そのためには適切なリソースが必要で、それを得るためには、粘り強く社会の納得を得るような努力を我々の側からして、良質の研究開発成果を創造するということが我々のなすべきことであろうと。
 すなわち、状況の変化等に対して常に柔軟に、レジリエントに(弾力的に)、しかも強靱に対応できるような必然の研究開発機関を目指したいと考えるわけです。
P25) まとめますと、原子力機構改革の全般に関しては、集中改革期間中に計画した施策はほぼ完了し、次になすべきことも明らかになりました。
 さらに、原子力や機構を取り巻く状況を確認した上で、真に実施すべき研究開発を我々なりに取り出し、それに対して体制をつくっていこうと。
 それから、今後の原子力機構の研究開発について、現状では十全な遂行が危ぶまれる状況があると認識して、リソースと任務の乖離解消が急務である。
 全体を見たときに、研究開発資源を有効に活用できる方法あるいは構想は、我々の側の努力としてこれを提示し、具体化していくとともに、社会からの理解を得て所要のリソースの獲得に最大限の努力を払っていくということだと思います。
 以上で私のプレゼンテーションは終わりですが、話を聞いていただいてありがとうございました。