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第12回 原子力機構報告会
「原子力の未来 ―原子力機構の挑戦―」

高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減の実現に向けて ―照射済燃料からのMA分離技術への挑戦― (テキスト版)

高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減の実現に向けて
―照射済燃料からのMA分離技術への挑戦―
高速炉研究開発部門 次世代高速炉サイクル研究開発センター
燃料サイクル技術開発部
研究主席 竹内正行

ただいま御紹介いただきました、高速炉研究開発部門の竹内と申します。

私からは引き続き、「高レベル放射線廃棄物の減容化・有害度低減の実現に向けて」と題しまして、現在研究を進めているマイナーアクチノイド、通称これをMAと呼んでおりますが、このMAの分離技術開発を中心に報告させていただきます。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P) 本件ですが、こちらの項目に従いまして報告をさせていただきます。

P) まず、放射性核種の分離変換研究について簡単に御説明いたします。原子力発電所で使用された燃料の再処理に関しては、現行のプロセスでは製品として、エネルギーとして利用するため、ウランやプルトニウムを分離回収し、残ったFP、核分裂性生物とマイナーアクチノイド、これにはネプツニウム、アメリシウム、キュリウムという元素が該当しますが、これらは廃棄物として地層処分の対象となっております。

それに対して我々が開発しているプロセスでは、この廃棄物中のMAを分離変換することを目指しております。その主な理由としましては、こちらの図にありますように、黒で示したMAの核種の中には、幾つか100年以上の長寿命の核種が存在するとともに、またこちらの図にありますように、発熱性の核種も存在いたします。そのため、これら核種を減らしていくことにより、それぞれ放射線による長期リスクや発熱制限を有するガラス固化体の処分場の面積を削減することが可能になります。これがいわゆる放射線廃棄物の減容化、有害度低減を意味するところになります。

P) では、このMAの分離によって、廃棄物の減容化や有害度低減にどれほどの効果をもたらすのか。こちらについては、フランスの原子力新エネルギー庁、CEAのほうで報告された資料に基づきますと、高レベル放射線廃棄物の処分場の削減規模に関しては、MAの中でもアメリシウムやネプツニウム、キュリウム、これを全て除去した場合、除去しない場合に比べてその削減規模は約1/10になると評価されておりまして、また放射能レベルに関しては処分場の放射能が天然ウランレベルまで低減するまでの期間を尺度として考えますと、使用済燃料をそのまま再処理せずに直接処分した場合には、数十万年オーダーかかるに対しまして、再処理を行ってウランやプルトニウムを除去した場合には、それが数万年オーダーに短縮され、さらにそこからMAを99%程度まで除去いたしますと、一挙に数百年オーダーにまで短縮されると報告されております。このように、MAの分離変換によって、放射性廃棄物の減容化や有害度低減に大きな効果をもたらすということが知られております。

P) 続きまして、分離変換システムについて簡単に御説明いたします。原子力機構では、将来のニーズに柔軟に対応するため、発電とセットで核変換が可能な高速炉サイクルを利用した技術と、核変換のみを追求した技術、この両面から開発を進めております。それぞれ中性子を使ってMAを核分裂させるシステムでございますが、双方このような特長の違いがございます。

現在我々が研究をしているMA分離につきましては、このシステムによらず共通して必要不可欠な技術でございまして、現在の分離変換研究の中でも重要な役割を担っております。

P) 続きまして、MAの分離技術について御説明する前に、なぜこのMAが使用済燃料からきれいに分離することが難しいのか、その点について御説明をいたします。

こちらはおなじみの周期律表でございますが、その分離を困難にする要因としては、主に3つ挙げられます。

1つは、こちらの灰色で示した部分が核分裂性生物を含む元素になりますが、この照射済燃料あるいは高レベル放射性廃液には、このようなたくさんのFPが存在している複雑な溶液であるということが1つ。

それと2点目は量的な問題でございますが、こちらの図に示しますように、軽水炉の使用済みのウラン燃料を例にとりますと、照射条件にも多少差はありますが、含まれるFPの量は0.1%オーダーと極めて低い量であるいうこと。

そして3つ目は、このマイナーアクチノイドはランタノイド系列の下に属しておりますけれども、特にこのアメリシウムとキュリウムはランタノイド元素の多くと類似した化学挙動をとりやすいということで、相互分離が非常に困難であること。この3つが分離の困難さを伴う大きな要因となっております。

P) この技術的な難しさを持ったMA分離技術につきましては、こちらに示す国々や機関がさまざまなプロセスを提案しながら積極的に研究開発を進めておりまして、この中で我々はアメリカとは抽出剤の分子設計やその性能評価にかかわる研究について協力を進めているところでありまして、またフランス等につきましても、このMA分離技術の協力の合意に向けて現在手続を進めているところでございます。このように、本開発そのものについては積極的に国際協力を活用しながら進めているところでございます。

P) 続きまして、MA分離技術について御説明をいたします。

まず1つは溶媒抽出法という方法です。こちらは水や油といった2つのまじり合わない2相を用いまして、油側に特性の化学物質を抽出分離する試薬、抽出剤を加えまして、その性能によって分離する方法でございます。

こちらの図は、その溶媒抽出法で用いられる機器の一例としまして、ミキサセトラの例を示しておりますが、このように水と油、2相を混合する部分と、それを静止させて相分離させる部分から構成されております。

P) もう少し具体的に、この溶媒抽出法のイメージについて御説明いたしますと、このように分離したい物質を含む水の相と、抽出剤を含む油の相を用意しまして、これをこのような形で混合いたします。そしてこれを静止いたしますと、先ほど混合の中で分離したい物質が抽出剤のほうに結合されまして、静止させますとそれが抽出剤に伴われて油の相に移行する。こういった形で分離が行われます。

続きまして、この溶媒抽出法のイメージを動画におさめておりますので、ここで紹介させていただきたいと思います。

(動画映写)

こちらは小型のミキサセトラの装置を使った抽出の状況でございまして、MAではなくウランの抽出状況を示したものであります。見にくいですけれども、こちらがインペラが回りますけれども、これが2相を攪拌する部分で、その隣の部分が静止させて2相を分離する部分になります。

実際のプロセスでは、こういう形で抽出装置を多段に組み合わせて、抽出と分離というものを繰り返して操作することによって、分離の性能を上げていく。そういうことで使用しております。こちらの黄色い部分は、実際水から油の部分に移ったウランの色を示しております。

P) この溶媒抽出法における研究開発の状況でございますけれども。現在原子力機構では、こちらのプロセスを一案として提案しておりまして、使用済燃料を溶解した液から、まず溶媒抽出法によってウランやプルトニウム、場合によってはネプツニウムをここで回収しまして、そこで得られた高レベル廃液、この中にはアメリシウムやキュリウムが存在いたしますが、それを分離していきます。先ほど御説明させていただいたように、希土類元素とこのアメリシウム、キュリウムは非常に化学的挙動が類似しているということですので、我々が検討しているプロセスでは、まずMAとランタノイドを一括で回収した後に、それぞれを相互分離する2段階のプロセスを検討しております。

この分離プロセスを実現するために重要なポイントが、この抽出剤でございます。現在原子力機構では、この安全性や分離性能、そして経済性や廃棄物低減といった観点から研究を進めておりまして、こちらに示しますような世界に誇れる抽出剤の開発を実績として上げております。

P) 続きましてもう一つの方法が、抽出クロマトグラフィという方法です。これは、こちらに示しますように、直径数十µmの多孔質シリカの上に有機ポリマーや抽出剤を直接くっつけまして、それを吸着剤としてこのカラムの中に充填させます。この中に溶液を通すことによって、吸着、溶離という操作を経て特定の物質を分離・回収いたします。

利点としましては、先ほどの溶媒抽出法に比べて、その抽出剤を希釈する希釈剤が不要であるということや、装置自身がコンパクトに構成できるといった点がありますが、一方で課題としては、原子力、再処理の分野で工業的経験が少なく、またそれに伴って遠隔操作や保守性の問題があるといった点が課題としてあります。こういった利点、欠点というものを踏まえながら、先ほどの溶媒抽出法や抽出クロマトグラフィ法の研究開発を並行して進めております。

P) その抽出クロマトグラフィについても、分離イメージについて簡単に御説明いたします。溶媒抽出法と同じように2段階でMAを単独で分離をいたします。まずこのような形で、吸着剤を入れたカラムの中に高レベル廃液を通します。そうしますと、この赤の部分がMAで、青の部分がランタノイド元素になりますが、これらが吸着されて、吸着されないFPが下に溶出されます。こちらはクロマトグラムという図でございまして、カラムから溶出した成分を経時的にプロットしているグラフになってございます。

そしてこの吸着したものに、このように特定の溶離液を加えますと、このような形でMAとランタノイド元素がそれぞれ溶液として回収されます。そしてこの回収した溶液に対しまして、今度は別の抽出剤を含浸させた吸着剤をカラムの中に詰めたもの、これに通しますと、このような形で一度残留したFPが取り除かれて、再びそのMAとランタノイドが吸着された後に、特定の溶液をもってこれを溶離させますと、MAだけが単独で回収される。こういうシステムの構成になっております。

P) こちらは現在我々が研究を進めている結果の一例でございまして、左側が実際の照射済み燃料から得た高レベル廃液を使ってやった第1段階の結果、右側が第2段階の結果でございます。グラフの中ではこの赤の線で示した部分がマイナーアクチノイドでございまして、青がランタノイド元素。それと黒の線で示している部分がその他のFPということになっております。

この第1段階の結果を見ますと、MAとランタノイドの回収部分がこちらの分画になってございまして、このように選択的に青と赤の部分が溶出されてきております。この中のMAの回収率については99%程度と評価しておりまして、非常に高い性能を得ております。

一方右側のMAとランタノイドの共回収物からのMAの単独回収の工程でございますが、こちらについてはMAの回収部分がこちらになってございまして、本来であればこちらの赤い部分まで回収をいたしますと99%程度の回収が見込めるのですが、ごらんいただくとわかりますように、青の部分と非常に干渉しておりますので、MAを単独で取り出すということになりますと、この部分に制限されまして、結果的に現状回収率は80%程度となっております。

現在この第2段階の工程につきましては、吸着剤自身の構造の改良でありますとか、分離条件の最適化を進めておりまして、この分離性能の改善に向けて取り組んでいるところでございます。

P) 続きまして、高速炉システムを利用したMAの分離変換研究について御説明いたします。SmART研究と呼ぶ本研究につきましては、照射済燃料中の少量MAを出発原料とした一連のサイクル研究でございまして、こちらに示しますように既存のJAEAが持つ施設を最大限に利用しまして照射済燃料からのMA原料の分離、そしてその分離した原料を用いた燃料の製造、そしてそのつくられた燃料を用いた炉内での照射。そして分離変換挙動を評価するための照射後試験という一連のサイクルになっております。

その中で我々が担当するこの分離の工程につきましては、照射済燃料から合計1g程度のMAを回収することを目標として進めてきておりまして、全体のこの研究としましてはMAを中心とした分離変換の取得でありますとか、この分離変換サイクル全体の技術的成立性の検証、こういったところを大きな狙いとして進めてきております。

また、本研究を通して得られるこの照射済燃料中の種々のMAの核種を対象とした照射変換挙動にかかわるデータにつきましては、まだ世界でもほとんど取得されておらず、この分離変換研究の中でも非常に貴重な知見として期待されているところでございます。

P) 続きまして、本研究の進捗状況でございますが、現在MAの回収工程を進めておりまして、茨城県東海村にあります高レベル放射性廃棄物研究施設にてMAの分離作業を行っております。現在のところ、先ほど御説明した抽出クロマトグラフィを用いた技術によりまして、実際の照射済の高速炉燃料の実廃液からgオーダー、具体的に言いますと2g程度ですけれども、MAの回収に成功しておりまして、今後これを燃料製造そして炉内照射に向けて作業を進めようとしているところでございます。

最後に、この分離技術のこれからということでございますが、現在のこの技術開発段階のレベルということで言いますと、まだ基礎的段階にあると考えておりまして、またその中でも経済性や安全性やその廃棄物低減といった観点から、さまざまなプロセスの改良が必要であると考えております。

また、この先この規則的段階を超えてさらにステップアップを図るためには、実際のプラント規模を想定した光学的な研究に移行していく必要があると考えております。ただそのためには、大量のMAの取り扱いが必要になるのですが、ただ今現状持っている施設ではなかなか設備の能力としてそこまでできる施設がないというのが現状でございます。

そのため、研究施設のスクラップアンドビルドという観点から、既存の施設を有効活用しつつも、さらにその技術の実用化に向けては新たな施設の構想というのも重要な視点であると考えております。

P) 最後に、以上の報告をまとめさせていただきます。この分離変換研究につきましては、引き続き今後我が国が原子力を利用していく上で、将来世代の負担を低減させていくために重要な技術であると考えております。

ただ、この技術を実用化させていくためには、我々が担当する分離だけではなく、変換も含めた横断的な研究が必要でありまして、これを進めていく過程で幅広い人材育成にも貢献できるものと考えております。

また、このMA分離技術そのものは、先ほど申し上げたように世界でも注目されている技術でございまして、非常にチャレンジングな要素を持っております。その中で、我々は今後も国内外の関係機関や研究者と幅広く連携しながら、信頼性にすぐれたこのMA分離技術の確立を目指して、放射性廃棄物に対する将来世代の負担低減という大きな目標に向かって貢献していきたいと考えております。

以上で私の報告を終わります。御清聴ありがとうございました。