第12回 原子力機構報告会
「原子力の未来 ―原子力機構の挑戦―」

年代測定手法の高度化への挑戦 ―加速器質量分析装置における新検出手法の開発― (テキスト版)

年代測定手法の高度化への挑戦
―加速器質量分析装置における新検出手法の開発―
バックエンド研究開発部門 東濃地科学センター 地層科学研究部
年代測定技能開発グループ
研究員 藤田奈津子

東濃地科学センターの藤田と申します。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P) 本日は、このようなタイトルで発表させていただきます。

まず最初に、本研究の背景について紹介させていただきます。加速器質量分析(AMS)の高度化を行うに当たり、測定の高精度化及び装置の小型化を行うということを目標として研究を行っております。測定の高精度化とは、測定したい核種の検出を邪魔するこのような同重体を排除することになります。また装置の小型化とは、現在ある世界最小のものを、さらにテーブルトップ型のサイズに縮小するという目標を掲げています。これらの高精度化及び小型化には、同重体分別技術が必須であると考えられます。

これにより、AMSで測定可能核種が増加し、また小型化によりAMS普及率の増加ができると考えております。そのため、我々はコヒーレント共鳴励起(RCE)というものをもとにした同重体分別技術であるチャネリングコヒーレント電離による同重体分別を発案いたしました。

現在はこの内容の実証試験を行っている最中になりますので、こちらについて紹介させていただきます。

P) 最初に、私が所属している東濃地科学センターについて御紹介させていただきます。東濃地科学センターは、岐阜県の瑞浪市にあります瑞浪超深地層研究所という研究所と、岐阜県土岐市にあります土岐地球年代学研究所という2カ所の研究所で構成されております。

私が所属していますのが、こちらの土岐地球年代学研究所で、本研究で用いているタンデム型加速器質量分析装置を初めとした、年代測定を行う分析装置が各種取りそろえられた研究所になっております。

P) なぜそのような年代測定の装置があるかといいますと、地層処分において考慮すべき自然現象に、このような断層活動や火成活動の時期、また隆起・浸食などの傾向・速度を精度よく把握することが必要であると考えられます。そのため、我々のところでは年代測定技術の開発を行っています。

技術の高度化・標準化は極めて重要かつ基盤的な要素技術となりますので、最先端の機器分析装置の導入を行って、核種の放射年代測定手法の整備を行っている最中です。

ここで出てきました放射年代測定なのですけれども、原子核の崩壊を利用しまして、年代測定を行う手法となっています。この年代が、それぞれの核種によってさまざまなので、これを利用したものとなっています。

P) 我々のところでは、この表に示されたようなさまざまな分析装置がありまして、目的や対象物質に応じた核種年代測定法の開発整備を行っています。

こちらの年代測定の装置を利用しまして、もんじゅの敷地内の破砕帯の年代測定等にも活用いたしました。

本研究では、この赤で示しましたタンデム型加速器を利用しています。タンデム型加速器では、このようにさまざまな核種を1つの装置で年代測定を行えるというメリットがある装置になります。

P) それでは、AMSについて紹介させていただきます。AMSとは、ごく微量の放射性同位体を超高感度で検出し、定量する方法となっています。AMSは、ここに示したようなさまざまな分野で測定ができるものとなっています。

こちらに示しましたのが、東濃地科学センターにあります加速器になっておりまして、最大電圧が5MVのAMSの専用機となっております。

P) この表で示したものが、AMSで代表的な分析核種と同重体になっています。青で示したものが、東濃地科学センターで測定ができる核種になっており、点線で示したものが現在開発中の核種となっています。

また、この分析核種には、赤丸で示したような同重体と呼ばれる核種が存在します。この核種の原子番号が大きくなると、大型の加速器が必要であると言われています。例えば塩素ですと、最低でも6MVの加速器が必要であると言われています。

その理由を紹介しますと、このようにベリリウムの測定では、ベリリウムの同重体であるボロンが同じように測定されます。このベリリウムであると測定のスペクトルが分かれるので問題はないのですけれども、例えば塩素の測定をしますと、同重体である硫黄がスペクトルが重なってきてしまいます。そのためこの問題を解決するために、同重体をほとんど検出できなくするようにしますと、測定の精度が上がると考えています。そこで我々が持っている5MV以下の小型の加速器でも使用できる新しい同重体分別技術が必須であると考えています。

P) そこで我々は、RCEという、コヒーレント共鳴励起という物理現象を利用した同重体分別法を発案いたしました。RCEとは、このイオンのように原子核の間をすり抜ける際に、この原子から力を受けてこのイオンの周りの電子がはがされて電荷が変わるという物理現象です。この物理現象を初めてAMSに応用するということを行いました。

具体的に言いますと、例えばベリリウムをはかりたいときに、妨害核種のホウ素が一緒にイオン源に入ってきます。これらを加速させまして、この加速器の部分でRCEに適した電荷に変えてやります。そして、この検出器にあります薄膜に通しますと、RCEを発生させます。すると、それぞれの電荷が変わりますので、電荷の違いで分別を偏向器で行って、目的核種のみを検出器で検出するという手法になります。

こちらの内容について特許を取得いたしました。

P) 現在はこのアイデアを現実化させるために、技術基盤の整備を行っている最中です。具体的に言いますと、最初チェンバーの製作を行いました。このイオン源のところにつけたチェンバーなのですけれども、実験領域である薄膜や偏向器を設置できるものといたしました。

続きまして、単結晶薄膜の膜厚の検討を行いました。RCEを起こさせるために、単結晶薄膜の膜厚を考えなければいけないのですけれども、膜厚が厚くなるとどうしても中でイオンが通りにくくなりまして、ランダム過程によってRCEが不鮮明となります。また、膜厚が薄いと、我々が持っている加速器の5MVでもRCEを発生することが可能となります。そこでその兼ね合いを見て、世界最薄の30nmの薄膜で実験をするということを検討いたしました。こちらの実験については、今後行っていく予定をしています。

また並行して、既存で持っていました200nmの単結晶薄膜を使用して技術基盤の整備も行いました。具体的には、チャネリング技術の構築及び荷電分布取得技術の構築を行いました。

この整備を行っている際に、新しい現象を発見しましたので、こちらについて御紹介させていただきます。

P) 先ほど紹介したベリリウムとボロンを単結晶薄膜に通してやります。すると、この単結晶薄膜との相互作用で電子がはがれて2価と3価と4価の3種類の電荷を持つイオンに分かれるということがわかりました。これらの電場を変えてやることによって、それぞれの価数のスペクトルをとってやったものがこちらになります。

まず単結晶薄膜を非チャネリングというこのイオンが通りにくい状態にして通してやると、このようなスペクトルになり、ベリリウムとボロンではほとんど差がないことがわかります。ところがこの単結晶薄膜をこのイオンが通りやすいチャネリング状態にしてやって通してやりますと、ボロンについては4価にピークを持つ荷電分布が、そしてベリリウムについては4価と3価にピークを持つ荷電分布を得ることができました。

この3価のところに注目していただきますと、3価でベリリウムは山を持っていますが、ボロンでは山を持っていないため、チャネリング状態で分別能力が高いということがわかりました。

この技術を国内特許の出願を3月に行いまして、現在国際会議の発表や外国出願に向けた準備を行っている最中です。

そしてこの技術を利用してやりますと、現在ある世界最小のAMS装置が3.4m×2.6mの装置になるのですけれども、これを1m×1m級のテーブルトップ型の装置にすることができると期待しております。

P) では、本研究についてまとめます。

最初にRCEによるAMSの同重体分別を考案し、特許を取得いたしました。

そして、この特許の内容を実証するために技術基盤の整備を行っている最中です。30nmの薄膜を用いた実証試験は、今後行っていく予定をしています。

また、これと並行して新たな特許の出願を行うことができました。タイトルは「イオンビーム透過膜の透過率改善方法及びその装置」というタイトルになっておりまして、現在外国出願に向けての準備も行っている最中です。引き続き、測定の高精度化、装置の小型化の実現に向けて実証試験を行っていきたいと考えております。

P) 最後に、本研究ですが、奈良女子大学との共同研究及び寄附金を利用しました機構内の萌芽研究開発制度という制度を利用して研究を行わせていただきました。

以上になります。御清聴ありがとうございました。