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第11回 原子力機構報告会
「我が国の将来を担う原子力技術と人材」

減容化と再利用を目指した粘土鉱物へのCs吸脱着機構解明 -異分野とのコラボレーションにより未解明だったセシウムの挙動解明による除染廃棄物の減容化への貢献- (テキスト版)

減容化と再利用を目指した粘土鉱物へのCs吸脱着機構解明
-異分野とのコラボレーションにより未解明だったセシウムの挙動解明による除染廃棄物の減容化への貢献-
原子力科学研究部門 物質科学研究センター
放射光エネルギー材料 研究ディビジョン長 矢板毅

御紹介ありがとうございました。

物質科学研究センターの矢板と申します。よろしくお願いいたします。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P) きょうはこのようなタイトルで御紹介させていただきたいと思います。

P) 副題にもございますように、この研究は、さまざまな分野の研究者がこのような形で協力して実施している研究でございます。大きく分けますと、物質地球科学的研究と除染化学プロセス開発という形になっております。

こちらに示しましたように、基礎的な研究からかなり応用的な研究、最近では社会学の研究者の方にも御意見を伺いながら研究を進めております。このような研究所とか大学といった垣根を取り払った研究をやることによって数多くのシナジー効果が生まれつつあり、我々としてはこういう研究系を通じて徐々に複雑系制御を通じた物質循環システムの研究開発へと進化しつつあるということでございます。こういう新分野の研究を積んでいくことによりまして人材育成等にも貢献しながら、福島第一原子力発電所の回復にも貢献していきたいと考えております。

P) 先ほど、物質循環システムの研究になってきているという話をさせていただきましたが、これは簡単に我々が研究している部分の模式的な絵を描いたものでございます。原発事故で放出されました放射性物質がこのように環境中の循環経路に一旦入ります。その中で沈殿・濃縮ということが起きながら、今現在は除染活動が行われて、環境の循環からは切り離されている形でございます。

我々の研究は、大きく分けまして、ここの自然環境中の材料、物質に対してどのようにどのような強さでどのような物質にくっついているかということを明らかにする研究と、もう一つは、この物質循環を完結させるための化学プロセスの研究になります。

最初に物質地球科学研究の内容に関して御紹介させていただきます。

P) その際に我々が用いたツールがございまして、これに関しましては先ほど分離・移管という話がございましたが、原子力機構にもビームラインが残りまして、それを使っております。

例えば、高輝度のX線に対して高感度の検出器を組み合わせることによりまして、これまで検出できなかった微小な物質を検出することが可能となります。

もう一つは、環境材料を扱いますと、例えばセシウムでもこのように赤と緑の化学系があるように、いろいろな状態があるわけでございまして、これを分けて理解することが必要になってまいります。

さらに、こういった知見をもとにしまして、時間分解測定ということで、シミュレーション実験を行いまして、こういう吸着状態の中間体等を理解するための時間分解測定を実施しております。

また、J-PARCを使えば、ある程度セシウムが凝集している過程をチェックすることができるわけでございます。

P) さて、実験の結果に移らせていただきますが、これは福島県の飯舘村に出向いていって土壌試料の分級をやった結果でございます。

土壌試料というのは、粒度によってこのように礫から粘土までいろいろな種類の形態があるわけでございますが、これは粒径に対する放射性セシウムの濃度でございます。この赤い折れ線グラフは、放射性セシウムが全体としてどこに分布しているか、どれぐらいの割合で分布しているかを示しているものでございますが、特に粒度の小さい粘土に放射性セシウムが蓄積していることが理解されます。ほかの部分にも半分ぐらいの放射性セシウムが存在していることになりますけれども、実際にほかの試料をとってみますと、もっと多い濃縮度が粘土鉱物に検出されるということがありますと同時に、粘土としてほかのフラクションにいるということも観測されております。

ということで、土壌を制するには粘土を制するということで、粘土鉱物に関する研究について紹介させていただきます。

P) 粘土鉱物の構造を、少し複雑な、カラフルな絵で示させていただきましたが、これをイメージしていただくには、お菓子のウェハースにクリームが挟まっているような状態を想像していただければいいかと思います。そこの特にクリームの部分にセシウムが接着剤みたいな形で存在している状態が一番安定にセシウムが吸着している状態と考えられます。さらに粘土の外側、いろいろなところに吸着するのですけれども、ここにくっついているものがほとんど環境中で認められる放射性セシウムの存在状態であろうと考えております。

それでは、この粘土に対して、この層間にどのように入っていくのかというのを実験した結果が―

P) これでございます。

これはSPring-8に設置してあります時間分解分散型XAFSという実験装置でございまして、白色のX線を照射することによりましてスナップショットのように電子状態と構造の変化を追いかけながら化学反応を追跡することが可能となります。

今回は、粘土に対して塩化セシウムを接触させまして、水をたらすことによって、それがトリガーになって反応が進むという研究でございます。

その結果がこれですが、これの見方は、細かいことは別としまして、セシウムを中心0に置きまして、そこからどのように元素が分布しているのかということと、それから時間に対応します。水を注入したところがタイムゼロという形になります。特にセシウム、シリコンのピークに注目していただきますと、粘土の中にセシウムが入ってぴったりと口を閉じてしまっているような状態がセシウム、シリコンのピークが存在する状態となります。それで観測してみますと、水を入れてからしばらくの間はこのピークが見えないという状態がありまして、これは何に相当するのかということですが、要はセシウムとシリコンのピークが離れた状態にあるということですので、これが出現したところで初めてぱっと閉じたような状態になる。つまり、セシウムが一定量入るまでこれが閉じないという形で、急にぱっと閉じるという現象を観測することができました。

P) 次に、これは第一原理分子動力学シミュレーションで、何でセシウムが粘土に濃縮するのかということですが、これは先ほどのウェハース、粘土とその間に相当するところでございます。こちらがカリウム、こちらがセシウムでございまして、これをぱっと見てみますと、一番最初の印象としましては、セシウムが上下方向の粘土に非常によくくっつくということがシミュレーション結果からわかると思います。

さらにこれを詳細に解析しまして、マグネシウム、カリウム、セシウムを比較しますと、セシウムの拡散が非常に強いということが解析の結果からわかります。これは何を意味しているのかと申しますと、この真ん中の層は、氷というのは言い過ぎかもしれませんが、氷のような構造を持った水の状態になっているのですけれども、一旦セシウムが入りますとその構造が破壊します。一旦破壊するとセシウムのような金属がどんどん連続的に中に入るようになるという結果がありまして、その結果、粘土鉱物に集中してくるということが言えるわけでございます。

P) さて、それでは、実際の土壌試料ではどうなのかということです。

これは、福島の飯舘村で採取した0.75µm以下の粒子を2万粒、イメージングプレートにメッシュを切って載せた図でございます。この2万粒ですけれども、放射性セシウムがあればこのように感光いたします。実際に2万粒を置いたのですけれども、驚いたことに、15粒にしか放射性セシウムが存在しませんでした。すなわち、セシウムというのは均一に分布しているのではなくて、特定の粒子にくっついているのだということがわかります。このことは、もう一つ考えてみれば、原理的には、これをお箸でつまんで取ってしまえば、それは膨大な土壌に対しては無理なのですけれども、1/1,000程度の減容は可能だということにもつながるわけでございます。

P) そのピックアップした粒子がどういうものなのかというのを見た電顕の写真がこれでございます。大きく分けますと2つに分けられまして、1つは風化黒雲母という単一の鉱物です。これは粘土鉱物の一種でございまして、セシウムを非常によく吸着する。もう一つは単一ではなくていろいろな鉱物がまざっているものでございますが、さらにこれをイオンビームでカットしてイメージングプレートに置いてみると、例えばこのAのところが光っています。ここに放射性セシウムがあるわけですが、調べてみますと、ここにも風化黒雲母がある。有機物を成分とする団粒構造のものに関してもAのところに放射性セシウムがあるということで、この風化黒雲母というのは非常にキーになる化合物であるということがわかります。

P) 福島で採取されるいろいろな鉱物、これまでチェルノブイリとかで吸着するであろうと考えられていた鉱物を並べまして、例えばこういう形で載せてみますと、風化黒雲母にだけ集中的に吸着するということも観察されました。

P) なぜ風化黒雲母にこのように安定的に吸着してくるのかというのは、我々がアクチノイドという重い元素の研究をやった研究結果をリンクさせるとよくわかる結果でございます。

これはX線顕微鏡という手法で、微粒子のレントゲン写真みたいなものです。これが全体像ですけれども、セシウムはここに分布しております。ここの電子状態をさらに解析しますと、ミッキーマウスの耳みたいになっているところは共有結合という結合をしています。今までセシウムのようなアルカリ金属はこういった結合をしないと考えられていたのですけれども、共有結合をする。これは、よくよく考えてみますと、相対論に基づく結果なのですけれども、イオンの外側が広がる傾向にあるわけです。そうすると、その広がった部分が酸素と手をつないで結合しやすい状態になる。こうなってしまうとセシウムをはがすのは至難の業であるということがわかるわけでございます。

P) 今まで、こちらの環境の物質にどのようにくっついていくか、特に粘土鉱物に集中しますと御紹介いたしました。

さて、今度は、この膨大に生じた土壌をどうやって処理するかということについての研究結果を御紹介いたします。

それに関しましては、最終的には再利用を通じて二次廃棄物を出さないでやることで初めて物質循環が完結するわけで、こういったホールシステムを研究する分野は、最近、持続型社会ということがよく言われて、そのパーツパーツの研究はやられているのですけれども、福島においてこういったホールシステムを研究できるということは、いわゆる福島モデルとしてこういった研究分野を発展させることにつながるであろうと考えております。

次にこの部分を簡単に紹介させていただきます。

P) シナリオとしましては、まず低濃度のもの、基準に引っかからないものに関しては再生利用という形で使えるのではないかと考えられます。

一方、放射能濃度が高いものでございますが、これはワンススルーで行くか、あるいは化学処理をすることによってセシウムを分離し、さらに二次廃棄物を再利用していくというようなことが考えられるであろうと考えております。その意味で、我々は、こういった1つのプロセス、分級とか化学処理、熱処理を改めて見直してみることにしました。

P) 分級に関してはきょうはお話ししませんが、その予備実験で出てきた結果で、こういったボールミルみたいなものでピュアな粘土鉱物にくっついたセシウムをごりごりやってみました。そうしますと、このピークが立っている状態というのは、粘土鉱物がかろうじてセシウムを保持する構造をキープしている。48時間まではキープしているわけです。ところが、字が小さくて恐縮ですが、1週間ごりごりやってみると構造が全く見えなくなります。この状態で溶出してみると意外に簡単に取れてくるということがわかります。だから、ピュアな粘土鉱物に関してはミリングという前処理が非常に重要であると考えております。

P) もう一つ、化学除染に関しましては、先ほどセシウムが濃縮し、なおかつ内部に拡散して入って安定化するというお話をしました。これの逆反応をたどってみたらどうだろうということで、逆にこの中の水を構造化させるのに強い溶液を接触させます。そうしますと、このように局所的に入っているセシウムの層間が、これはX線回折の結果ですが、閉じている状態が開いている状態に変化しまして、ぱっと口をあけてセシウムを放り出します。この結果から、今まで酸処理で5%、6%だったものも90%まで取り出せるということを確認できまして、こういった化学処理でもピュアなものに関しては非常に有効に働くということが明らかとなりました。

P) 最後に溶融法ですが、これは、途中で団粒構造と粘土のピュアな鉱物に関する微粒子があるというお話をさせていただいたのですが、団粒構造とかも含め、全てのセシウムを取り出す方法であると考えています。

現在検討されている方法は、土壌を1,200~2,000℃ぐらいまで高温溶融し、セシウムを揮発させて回収するという方法でございます。この方法ですと、高い温度をかけますので非常にコストがかかる。それから、揮発させるということは系内をある程度拡散するというリスクを伴うわけです。

そこで我々は、何とかこれを打開する方法を考えているところでございます。

P) まずは温度を下げるということですけれども、低温溶融をやる必要があると考えております。それには、固体で混ざり合わない2成分系による共融点降下という関係を使えばいいだろうということでございます。その場合には、2成分の塩、A塩、B塩を混ぜると、もともとの融点より下がったところで溶融するということが見えるわけです。それを使って実際に700℃ぐらいまでで反応させることが可能であるということが理解されています。その際にSPring-8でその場観察というのをやりまして、低温溶融を実現させるべく検討しております。

P) そのときに、問題は除染です。我々は、溶融して飛ばすのではなく、むしろ冷やす過程で取ってやろうということを今検討しております。これは、地球のマグマが上昇する過程で結晶化するところで大きな金属を吐き出すという原理を使っています。それは、こういった徐冷の過程でくっついているものが結晶化して外れてくる。そうすると、きれいな結晶ができた上にセシウムが塩析的に出てくるということでございます。

実際の結果を御紹介しますと、塩化カルシウムと塩化ナトリウムを混ぜた溶液で700℃で処理した溶融塩に対して、セシウムはほぼ100%取れているということがわかります。

さらに、この方法を使いますと、こういったピュアな鉱物を取り出すことができます。これは物質循環を完結させるための再利用につながるということで、経済コストと環境負荷低減を図れる技術につながるのではなかろうかと考えております。

P) 最後にまとめますけれども、物質地球科学研究におきましては、メカニズム解明を実施しました。特に、福島は花崗岩帯で、そこに含まれる風化黒雲母という粘土鉱物は非常にセシウムを吸着するということを明らかにしました。それから、安定化するメカニズムについても明らかにしました。

最後に除染プロセスにおきましては、低温溶融で塩析的にセシウムを取り出すという方法などを新たに検討している次第でございます。

以上です。御清聴ありがとうございました。