第11回 原子力機構報告会
「我が国の将来を担う原子力技術と人材」

全体概要 機構の概況と研究開発の取組 (テキスト版)

全体概要
機構の概況と研究開発の取組
事業計画統括部長兼戦略企画室長 大井川宏之

事業計画統括部の大井川と申します。よろしくお願いします。

それでは、「機構の概況と研究開発の取組」ということで御報告させていただきます。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P) 原子力機構は、平成27年4月から第3期の中長期計画を開始しております。

そのときに理事長の児玉から、児玉は民間出身の理事長ということで、ミッション、ビジョン、ストラテジー、MVSと呼ぶのですけれども、こういうものをしっかり組織の中で共有して組織的に研究開発を進めていこうということが提唱されまして、これをつくったわけです。ミッションとしましては、原子力の未来を切り拓き、人類社会の福祉と繁栄に貢献するという高いミッションを掲げまして、これを実現するために我々の組織はどうあるべきかという組織のビジョンを共有して、その組織のビジョンを達成するためにはどういう戦略をとっていくのか、こういうミッション、ビジョン、ストラテジーを共有することで成果を最大化していこうという取り組みを始めたわけです。このMVSは機構全体のものですけれども、これと同じようなものを各組織でもつくりまして、組織的に成果の最大化をしていくという取り組みを進めているところです。

P) 先ほど児玉理事長からの挨拶で紹介がありましたけれども、4月から一部業務の移管・統合を行っております。

詳細は省きますが、具体的には、量子ビーム応用研究のうち、レーザー・放射光の研究、関西の光科学研究所、それから放射線利用研究、高崎量子応用研究所、この量子ビーム応用研究の一部と、核融合研究開発全て、那珂研究所、六ヶ所研究所で行っている研究を全て移管しております。その結果、原子力機構が今保有している研究開発拠点はこういう形になりました。

この一部業務の移管というのは原子力機構改革の一環でやっているもので、原子力機構としては業務の重点化を図るということですけれども、量子ビームとか核融合の研究開発というのは、日本の国としても、また世界的にも非常に重要な研究開発テーマなわけですから、移管・統合によってこれがシュリンクするようでは困るということで、しっかりと量子科学技術研究開発機構と連携して進めていきたいと考えております。後年になってから、この分離・移管をやって本当によかったなと言ってもらえるように双方努力していきたいと考えています。

P) この業務の移管が行われた結果、中長期計画も変更しまして、ことしの7月から少し変更したものがこういう構成になっております。

大きな柱としましては、東京電力福島第一原子力発電所の対処に係る研究開発、原子力の安全規制行政への支援の安全研究、原子力の安全性向上のための研究開発、核セキュリティ・核不拡散に資する研究、核燃料サイクルとか放射性廃棄物の処理処分に係る研究、高速炉の研究開発、これらが大きな柱として立っています。

これらを支えるものとして原子力の基礎基盤研究と人材育成があるわけです。この基礎基盤研究では、これを支えるだけではなくて、次の柱を出していくシーズを生み出す機能も期待されています。

それから、ここにありますように、イノベーション創出に向けた取り組み、あるいは国際協力、原子力事業者支援、こういう共通的なことを行うことで全体の成果の最大化を図っていく。

こういう構造が第3期中長期計画になっているわけです。

それでは、この後は、それぞれ主なものについて、現在の研究開発の取り組みについて御説明したいと思いますが、私の発表の後、幾つか詳しい説明もありますので、そこは簡略化したいと思います。それから、今、原子力機構が抱えている大きな問題として、原子力の研究開発施設をどうマネージするかというのがありますので、それに関しての取り組みについても最後に若干触れたいと思います。

P) これが大きな柱の1つ、福島第一原子力発電所の対処に係る研究開発です。これについてはこの後発表がありますので省略したいと思いますが、廃止措置に向けた研究、環境回復に係る研究をやりながら研究開発の基盤を構築していくということに取り組んでいくわけですが、非常に重要なポイントは、この福島の対処というのは非常に長年かかるということで、ここにありますが、人材育成をしっかりと見据えた取り組みをやっていかないといけないということを強調しておきたいと思います。

P) 次に、原子力安全規制への技術的支援と安全研究ですけれども、大きく分けますと2つの取り組みがありまして、1つは、原子力規制を支援するという安全研究です。もう一つは、災害対策基本法等に基づく指定公共機関として原子力の災害時等における人的・技術的支援をするということです。この2つに大きく分けて取り組んでいるところです。

安全研究のほうは、ここにありますようなさまざまな実験施設、これは原子炉安全性研究炉NSRR、それから熱水力のためのLSTF、それから核燃料サイクル工学の安全を研究するNUCEF、こういった施設を使って特徴ある研究をしているところです。このうち、NSRRについては現在新規制基準への対応に取り組んでおりまして、まだ再稼働できていないのですけれども、これを早く再稼働させるべく努力しているところです。それから、NUCEFの中にあります定常臨界実験装置STACY、これはずっと液体燃料を使って臨界実験をしてきたのですけれども、それを固体燃料、ピン状の燃料で使えるように改造することに取り組んでおりまして、その工事がまだ済んでいませんので、それが終わり次第再稼働するということで取り組んでいるところです。

災害対策のほうは、原子力緊急時支援・研修センター、我々はNEATと呼んでいるのですが、そこを中心に活動しているところです。

最近の成果といたしましては、大型格納容器試験装置CIGMAというものをつくりまして、これの試験を開始しています。それから、シビアアクシデントの総合解析コードを開発しまして、炉心への海水注入とかB4Cの制御棒の影響を考慮したヨウ素の放出挙動を世界で初めて評価するというように、福島での事故を受けまして、シビアアクシデントに関する研究を重点的に進めているところでございます。それから、航空機モニタリング体制を整備して、緊急時のモニタリング技術として初めての実用化にこぎ着けているというような成果を出しています。

今後は、OECD等を活用して国際的なプロジェクトにも貢献していきたいと考えております。

P) 次の取り組みですが、再処理、燃料製造、放射性廃棄物の処理処分等の技術開発になります。

まず書きましたのは、放射性廃棄物の減容化・有害度低減、分離変換技術というような言い方もされますが、高速炉とか加速器を用いて長寿命核種を核変換していくような技術開発になります。今は幅広い選択肢を確保しようということで、比較的基盤的な研究開発を進めています。

最近の成果としましては、マイナーアクチノイド、非常に長寿命の核種ですけれども、これを分離抽出するための抽出剤HONTAというものを開発しまして、トレーサーレベルで抽出がうまくいくということを実証しております。今後は実廃液を用いた研究開発段階に移行していこうと考えています。

今後の取り組みとして、既存施設を用いてマイナーアクチノイドを小規模にリサイクルする実証試験の準備を進めていきたい。それから、加速器施設のJ-PARCに建設を予定している核変換実験施設というのがあるのですが、その建設に向けて必要な要素技術開発とか施設の検討、安全評価を行っていきたいと考えております。

次に、高レベル放射性廃棄物の処分技術に関しましては、技術基盤をしっかり整備して、実施主体による処分事業あるいは国による安全規制上の施策に貢献してまいりたいと考えております。

最近の成果としましては、室内の拡散実験を行いまして、花崗岩中の鉱物が物質の移動を遅延させる効果を持っていること、これは瑞浪での成果ですけれども、そういう基盤的なデータを取得しているということです。

今後は、こういう基盤的なデータを積み重ねて、地層処分技術の信頼性向上を図ってまいりたいと考えております。もう一つ重要なポイントとして、地下の研究施設を持っていますので、その地下環境の体験等を通じて地層処分に対する国民の理解を醸成していくということにも貢献していきたいと考えております。

P) それから、使用済燃料の再処理、燃料製造に係る取り組みですけれども、最近、東海の再処理工場においてプルトニウム溶液の混合転換処理を完了しました。これは比較的大きな成果だと考えております。

それから、9年ぶりにガラス固化体の製造を再開したということも大きなトピックスなのですが、残念ながら、これに関しては、現在装置がトラブルでとまっておりまして、原子力規制委員会からもこれをしっかりとやるようにということで、11月30日までにこのガラス固化の作業を短縮する計画を報告するようにと言われていまして、それに取り組んでいるところでございます。

今後の取り組みとしましては、新型ガラス溶融炉の設計・開発とかMOX燃料の再処理・燃料製造に向けた技術開発を実施していくということ、それから東海再処理施設について廃止措置計画の策定等を計画的に行っていくというようなことに取り組んでまいりたいと考えております。

その下の原子力施設の廃止措置、放射性廃棄物の処理処分ですけれども、これは計画的かつ効率的に行うということが非常に重要だと考えておりまして、最近の成果としましては、ドラム缶中のウラン量を非破壊で定量化する測定技術を実用化しております。ここにありますように、アクティブ中性子法というのですけれども、中性子をドラム缶に当てて、そこから核分裂で出てくる中性子を検出する手法で、非破壊で短時間で中にあるウランの量を測定するという技術を開発しております。

今後の取り組みとしましては、まず低レベル廃棄物につきまして、データ管理とか減容化、安定化に係る処理、あるいは廃棄体化の処理の手法、こういうものをしっかりと開発していきたいと考えております。それから、埋設処分についても、国の基本方針に基づき、具体的に工程を策定していきたいと考えております。

P) 高速炉に関しましては、この後報告がありますので割愛したいと思いますが、もんじゅにつきましては、保安措置命令の対応結果を報告書にまとめて原子力規制委員会に提出しました。もんじゅ以外でも、高速炉の安全設計の基準を国際的に主導的に取り組んで、ガイドラインを策定するという成果を出しているところでございます。

P) 基礎基盤研究ですけれども、基礎基盤研究では、原子力分野に共通する基礎的研究とか基盤技術の開発を実施して、原子力利用技術の創出とか科学技術基盤の維持・強化に貢献していきたいと考えております。

最近の成果のところに書いてあります中性子共鳴分光法の大幅な革新に関しましては、この後発表がありますので省略したいと思いますが、今後の取り組みのところにもありますように、廃炉とか廃棄物処理処分に貢献していきたい、あるいは福島の支援とか環境回復、こういう原子力の非常に大きな問題となっているところに重点的に取り組んでいくということで研究開発を進めていきたいと考えております。

それから、高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発につきましては、非常に高い安全性を有する高温ガス炉に対しまして、実用化に向けて研究開発をしております。それから、発電だけではなく、水素製造なんかも含めて、原子力利用のさらなる多様化・高度化に貢献していきたいと考えております。

ただ、高温工学試験研究炉HTTRにつきましては現在再稼働のために新規制基準対応を行っているところで、早期の再稼働を目指して頑張っているところでございます。

最近の成果としましては、ISプロセスによりまして8時間の水素製造に成功しているということでのプレス発表をしているということが挙げられます。

今後は、HTTRと熱利用試験施設の結合なんかも考えていきたいと考えております。

P) それから、先端原子力科学研究ですけれども、これは世界最先端の先導的な基礎研究を行うことで次のシーズを生み出していくような取り組みでございます。特にアクチノイド先端基礎科学と原子力先端材料科学という2つの柱を立てまして、これは原子力機構が得意とする分野で、そういうところに特化してブレークスルーを図ろうという取り組みを行っております。

最近の成果としては、シングルアトム分析法の開発によって超重元素の化学的な特性を明らかにするといった取り組みがあります。超重元素というのは寿命が非常に短いので、化学的な性質を測定するのが難しいのですけれども、ほんの1個だけの元素の挙動を見ることで、その元素の酸化還元状態を測定する手法を開発して、取り組んでいます。

今後の取り組みとしては、耐放射線性電子デバイスの開発とか核変換なんかにも貢献していきたいということです。

それから、先端大型施設を用いた中性子・放射光応用研究ということで、これは、量研機構に移管した以外の中性子を使ったJ-PARC、JRR-3、SPring-8のビームライン2本、これらが原子力機構に残って、原子力機構特有の研究をしているわけですけれども、そういうところを使いまして利用技術の高度化とか世界最高レベルの研究開発環境を広く社会へ提供するという取り組みを行っているわけです。

セシウムに関する研究開発成果は、この後発表があります。

そのほか、タイヤの材料と開発に貢献するなどの成果を上げているところです。

P) それから、きょうはこの後パネルディスカッションがありますが、原子力人材育成に関しましては、人材育成センターというところがありまして、そこを中心にここに書かれているような取り組みを行っております。国内研修を行ったり、産官学による人材育成のネットワークの共同事務局を務めて、ここに書いてあるようなさまざまな取り組みを主導的に行っている。それから、大学との連携によって、例えば連携講座に80名の講師を派遣したり、あるいは学生を毎年400名超を受け入れたり、こういう取り組みも行っています。それから、アジアを中心とした国際研究にも取り組んでいるところです。

P) 最後に、先ほど少し言いましたけれども、施設中長期計画、これは原子力機構が保有する原子力研究開発施設のマネジメントに関する計画ですけれども、我々が保有している施設は多くが老朽化しておりまして、高経年化対策をやらないといけない、それから廃棄物がたまってきているバックエンド対策が必要であるということ、それから、新規制基準が非常に厳しいものができ上がってきていますので、それへの対応、耐震化対応等、資源投入をたくさんしないといけないという状況になってきています。

限られた資源を重点的に投入するための当面の計画、平成40年ぐらいまでと考えていますが、そういうのをつくりました。それが施設中長期計画です。今回、これは案ということで、ことしの10月18日に公表して、原子力機構のホームページに載せています。

その内容ですけれども、施設の集約化・重点化の取り組み。集約化・重点化した上で、残すものについて重点的に施設の安全確保をしていく。それから、廃止措置に移行するものについてバックエンド対策をしっかりととっていくということで、この3つについて三位一体で動かそうという取り組みになっています。ただし、この計画案は、現在、平成29年の概算要求ベースのものになっていますので、今後の予算状況とかステークホルダーの皆さんとの調整状況を踏まえて見直しを行って、それを年度末までには策定したいと考えております。

中味ですけれども、施設の集約化・重点化に関しましては、現在原子力機構が持っています88の施設のうち46を継続利用に、42を廃止に移行する施設と位置づけました。ただ、42というと非常に多く聞こえるのですけれども、既に廃止措置に位置づけられているものもたくさんありまして、今回新たに廃止措置に移行するべきと考えているものは10個の施設になります。ただ、この10個の中には、大洗研にあります照射試験炉JMTRとか、東海研にあります高速炉臨界実験装置FCAとか、そういう炉施設が2つ含まれております。そのほか、核燃料の使用施設として、核サ研にありますCPFとか、大洗にありますMMF、AGF、それからJMTRのホットラボ等も含まれているということです。ただ、ホットラボのほうは、この先まだニーズがあるところはそれに応えた上で廃止措置に移行していくということで考えております。

そのほか、施設の安全確保とかバックエンド対策も、施設ごとにどのように進めるのだというのが書いてございますので、ぜひホームページ、あるいは、先週11月4日に原子力委員会にこの施設中長期計画案を報告していますので、原子力委員会のホームページからも見ていただけると思います。

P) 以上をまとめさせていただきますと、我が国における原子力に関する唯一の総合的な研究開発機関ということで、安全を最優先とした上で、社会からの信頼確保に努めつつ、研究開発成果の最大化を目指すということで取り組んでおります。

その出口としては、原子力科学技術を活用したイノベーションの創出とエネルギー資源の確保ということになります。

それと並行して、先ほど申し上げました施設の集約化・重点化とバックエンド対策をしっかり進めていきたいと考えております。

こういう取り組みによって今後のさまざまな局面に柔軟性を持って対応する。それから、そのために我々は組織として持続可能性とか多様性、それと弾力性(レジリアンス)も兼ね備えた研究開発機関として原子力科学技術を追求してまいりたいと思っております。

御清聴ありがとうございました。