東日本大震災発生後1年を迎えて

平成24年3月11日

日本原子力研究開発機構 理事長 鈴木 篤之

3月11日という日は、日本国民にとって決して忘れることができない日になりました。
 大震災一周年を迎えるに当たって、被災されたすべての方々に対し、心からのお見舞いとお悔やみをあらためて申し上げます。ご遺族の皆様、今なお避難生活を余儀なくされている多くの方々をはじめ、被災された方々のご心痛はいかばかりかと、拝察します。
 天災は忘れた頃にやってくる、と言われますが、この災厄の恐ろしさを記憶にとどめ、後世に確実に伝えて行く責任が我々の世代にはあります。
 とくに、原子力に係る科学技術開発に携わる機構は、震災によって惹き起こされた重大な原子炉事故が社会に極めて深刻な影響を及ぼしている事実に真摯に向き合うことが強く求められています。
 何よりも、原子力の専門家集団として、我が国においてこのような大事故の発生を防止できなかったことを猛省するとともに、将来に向け、日本はもとより全世界に対して、これを教訓とした貢献を進める責務が当機構にはあると考えています。
 長年、原子力に関わって来た私自身にとって、一生の不覚ともいうべき出来事と受け止めており、このために社会に多大なご不安やご迷惑をおかけしている現実を想えば、お詫びの言葉もみつかりません。
 今、私どもに出来ることは限られていますが、汚染地域の除染やモニタリングなど、環境の修復に向けた、国を挙げた取組みに率先して協力するとともに、毀損した原子炉の廃止措置など、発電所サイト内の課題解決に向けた政府の取組みに積極的に協力する姿勢を、今後とも当機構の基本方針として貫いて行きたいと考えています。
 起きてはならない大事故が起きたのですから、原子力という科学技術に対する社会の皆さまの見方は、当然のことながら、非常に厳しいものがあります。失った信頼を取り戻すことは、並大抵の努力では叶わないと思います。私は、このことを零からの再出発ではなく、マイナスからの再興が必要と表現したことがあります。
 事故の影響は、日本の国内に留まっていません。今後の世界の原子力の帰趨は、事故による安全性への不安の増大とともに、国際エネルギー情勢をはじめとする世界の政治経済社会動向の下、世界各国のエネルギー政策や科学技術政策、さらにいえば国家安全保障政策の如何にかかっているという印象を抱かざるを得ません。
 日本の原子力政策は、現在、政府をはじめとしてさまざまの場で議論されており、機構の今後の取り組みは、その検討の結果を待たなければならないところが少なくありませんが、国際的な観点からの役割が機構にもあるとすれば、国際的動向を踏まえつつ、安全性の革新的向上や医療や産業への先進的応用など、世界的に共通する原子力基盤技術の構築に少しでも貢献できるよう、着実に研究開発に取り組んでいくことだと信じるものです。
 有り難いことに、日本に対して世界からいろいろな形で応援の手が差し伸べられています。多くの国の人たちが、未曾有の国難にあっても辛抱強く立ち上がろうとしている日本人の心意気に感銘してくれているようです。
 このような善意に応えるためにも、当機構として出来るだけのことはしなければならないと考えています。国民のみなさまのご理解とご鞭撻をお願いする次第です。

以上


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