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研究者紹介

より信頼性の高い放射性廃棄物の処分のために
-カーボンナノカプセルを用いた放射性核種の処分と利用技術の研究-

量子ビーム応用研究センター 量子ビーム材料評価・構造制御技術研究ユニット 
ナノ構造制御研究グループ研究主幹 山本 和典

みなさんは、数千年前の縄文時代や、それよりさらに古い旧石器時代の遺跡の年代測定に、当時の焼け跡や焚火跡から見つかる“炭(すみ)”がよく利用されることを御存知でしょうか?炭素が主成分である炭は地下環境では大変に安定な物質なので、腐ったり地下水に溶けて流されたりせずにその場に残っているのです。また身近にある天然の炭素といえば石炭が思い浮かびますが、この石炭は数千万~数億年という長期間にわたり地下で安定に存在してきたものです。したがって石炭の存在そのものが、地下環境における炭素の高い安定性を示していると言えます。ところで耐食性が高い金属の代表として指輪やネックレスなどの宝飾品に使われる白金(プラチナ)があげられますが、実はその白金よりも炭素のほうが化学的に安定な場合があり、それが地下に代表される還元環境なのです。このような安定性に加え炭素は値段が安いこともあり、様々な電池に電極として使用されています。 

ところが炭素材料には、金属と異なり割れやすいという欠点があります。このような性質は脆性(ぜいせい)とよばれ、陶器(セトモノ)やガラスと同様に、一般の炭素材料は脆性材料に分類されるのです。地下では地圧がかかるので、材料に割れたり亀裂が入ったりすると、そこから水が自由に出入りします。放射性核種の主成分である金属の酸化物を溶かしたホウケイ酸ガラスの場合は、水に対して比較的高い溶出抵抗性があるのですが、金属と炭素の化合物には水に溶けやすいものも多く、炭素を使うと隔離機能が低下してしまう恐れがあります。この理由のため、炭素単体の水に対する安定性がホウケイ酸ガラスに比べてどんなに高くても、炭素材料を放射性廃棄物固化体の材料にするアイデアは長らく日の目を見ることはありませんでした。

ところがこの状況は、1990年代のかご状炭素の発見により大きく変わりました。かご状炭素の代表であるフラーレンC60は、炭素原子がサッカーボール表面の5角形と6角形の頂点60箇所にそれぞれ配置された構造を持つ分子で、その内部空洞に物質を閉じ込める性質があるのです。このかご状分子を数十倍ほど大きくしてカプセルを多重にした物質が“カーボンナノカプセル”であり、その内部空間に閉じ込めた物質を外部から隔離する働きが極めて高い特徴を持ちます。図に、ウランの核分裂により生成するランタニドという元素がカーボンナノカプセルに内包された様子を表す電子顕微鏡写真を示します。このカプセルは、グラフェンと呼ばれる炭素六角網目シートに12個の五角形が挿入され切れ目無く閉じたものから構成されていて、これが多重になって内包物を包みこんでいる様子が写真からわかります。カプセルの大きさは数十nm(nmはナノメートルと読む。1ナノメートルは1メートルの千分の一の千分の一の、そのまた千分の一の長さです。)と極めて小さいのが特徴です。このカプセル自体は煤状のものですが、これを固めて大きな塊にすることができますし、逆に塊を壊してもカプセルはそのまま残ることがわかりました。カーボンナノカプセルはナノという名称が付く通りサイズが十分に小さいので、通常の方法では壊すのが困難な物質であることがわかってきたのです。実はこのサイズが小さいことがカプセル自身の破壊強度を高めている可能性があり、その確認のための研究を現在進めています。

現在までに、ウランやトリウムのような核燃料元素や、核分裂により生成して使用済み核燃料に含まれる元素の大部分が、このカーボンナノカプセルの中に包み込まれることが確認されています。割れやすく脆性材料であることが原因で物質の隔離に不向きとされた炭素材料は、カーボンナノカプセルの発見によって可能性が復活したのです。また、この高い遮蔽性を利用して、医療への応用展開を図っていきたいと考えています。

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