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超深地層研究所計画

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トピックス

花崗岩中のモード組成の新たな評価手法の構築

ポイント
  • 花崗岩中の鉱物組合せとその量比(モード組成)を従来の手法よりも短時間に,簡易かつ客観的に評価できる新たな手法を構築した1)
  • 従来の手法では区別が困難であった,初生的に形成される鉱物(初生鉱物)と類似した元素からなる二次鉱物も含めて評価できる手法を検討した。
概要

花崗岩のモード組成は,岩石の基礎的な情報であり,多くの現場調査の初期段階で取得する情報です。また,モード組成は岩石の形成過程,局所的な割れ目の分布や岩石基質中の物質移動現象を検討する上でも重要な情報です。モード組成を定量的に把握する方法としては,岩石薄片中の鉱物を一定間隔で数千点計数し,構成鉱物の割合を把握する手法(ポイントカウンティング法)が一般的です。しかし,ポイントカウンティング法には測定者の鉱物判定能力に結果が左右されるといった点や,測定に数時間拘束されるといった難点があります。そのため,これまでにポイントカウンティング法に代わる手法として,岩石チップのスキャン画像,偏光顕微鏡画像や電子顕微鏡画像などを用いた画像解析手法,鉱物の多点分析結果を用いた解析手法などが提案されています2)-6)など(表-1)。しかし,いずれの手法も鉱物粒径の大きな花崗岩に適用する上では,表-1に示すような課題があります。そこで,本研究では,走査型X線分析顕微鏡(SXAM)で取得できる広範囲(数十cm×数十cm)の元素分布画像(元素分布図)に着目し,鉱物個々の化学組成の不均質性を考慮しつつ鉱物種を同定する手法を検討しました。その結果,二次鉱物の分布と量も評価可能な客観的かつ簡便に花崗岩のモード組成を評価できる新たな手法を構築できました。

内容

本研究では,以下を実施し,本手法の妥当性を検証しました。

  • モード組成を推定するための鉱物分布図を構築する手法の検討
  • 仮想の鉱物分布図を用いた手法の適用性の確認(数値実験)
  • 実試料への手法の適用結果とポイントカウンティング法との比較

なお,実試料としては,瑞浪超深地層研究所で取得した2つの岩石試料(肉眼観察で熱水変質を被っている試料と被っていない試料)を対象としました。

検討に用いた元素分布図は,SXAMを用いて表-2に示す仕様で取得しました。検討したモード組成の評価手法と各種計算のイメージを図-1に示します。具体的には,1)顕微鏡観察で把握した各鉱物からの元素ごとのX線強度の分布関数の推定,2)推定した分布関数に基づく各画素が鉱物iである確率(MPi)の算出,3)MPiの最も高い鉱物種をその画素の鉱物種として決定,といった流れで鉱物分布図を構築し,各鉱物の画素数によってモード組成を算出します。1)では,X線強度の分布を正規分布と仮定し,最小二乗法で分布関数を推定することで,バラつきを考慮できるようにしました。正規分布は標準偏差が大きいほど,期待値(中央値)での確率(確率密度)が低下します。MPiは,画素ごとに“ある元素”における“ある鉱物”である確率を掛け合わせた値として算出します(図-1)。そのため,各元素の標準偏差が大きいとMPiが小さな値となってしまい,適切に鉱物が同定されなくなります。そこで,本研究では,各元素における正規分布の期待値での確率密度を1にしてMPiを算出し,鉱物が適切に同定されるようにしました(具体的なイメージは図-1参照のこと)。

本手法を実試料に適用した結果,SXAMでの測定時間によって,測定ビーム径よりも小さな二次鉱物のモード組成が変動する傾向が確認できました(図-2)。これは,測定時間が長くなると,測定ビーム径よりも微細な鉱物の元素の分布範囲が,実際とは異なってしまうことに起因すると考えられます。図-3を例として示しますと,画素A周りには数十μm径の絹雲母と緑泥石が分布しますが,測定時間が長い場合(下段)では,前後約100m範囲の画素中に絹雲母中のKや緑泥石中のFeが分布する測定結果となり,画素Aは本来の斜長石ではなく黒雲母といった異なる鉱物と推定されてしまいます。このような測定上の問題も加味しますと,ポイントカウンティング法との比較の結果から,10,000秒程度(約3時間)の測定時間が最適であることが確認できました(図-4)。

SXAMを用いた既存の手法5)では,各元素のX線強度分布のバラつきを考慮することが困難だったことから,SXAMでの測定時間として48時間以上が必要とされていました。しかし,本研究では各鉱物からの元素ごとのX強度分布バラつきを考慮したことで約3時間程度にまで測定時間を短縮でました。なお,本手法は測定者の拘束時間としては,SXAMへの試料のセット,データ回収,データの解析を合わせても,解析コードを構築してしまえば数十分程度であり,簡易な手法であるといえます。

また,本手法は電子顕微鏡を用いて取得した元素分布図にも適用可能であると考えられ,今後の適用の拡大が期待できます。

既存のモード組成を推定する手法の例と花崗岩のモード組成把握にむけた課題の表の画像
表-1 既存のモード組成を推定する手法の例と花崗岩のモード組成把握にむけた課題
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SXAMの測定の仕様等の表の画像
表-2 SXAMの測定の仕様等
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鉱物分布図作成フローと具体的な推定方法のイメージ
図-1 鉱物分布図作成フローと具体的な推定方法のイメージ
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図-2本手法を適用した岩石薄片の偏光顕微鏡写真およびSXAMでの測定時間ごとの元素分布図に基づき構築した鉱物分布図
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単位測定時間ごとの元素分布の測定結果と鉱物分布図の構築結果の差の概念図
図-3 単位測定時間ごとの元素分布の測定結果と鉱物分布図の構築結果の差の概念図。Qtzは石英,Plは斜長石,Btは黒雲母,Chlは緑泥石,Serは絹雲母を示す。
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ポイントカウンティング法および鉱物分布図から推定したモード組成の比較結果
図-4 ポイントカウンティング法および鉱物分布図から推定したモード組成の比較結果
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参考文献