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超深地層研究所計画

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トピックス

花崗岩中の地下水の年代測定に関する研究

ポイント
  • 岐阜県東濃地域に分布する花崗岩(土岐花崗岩)中の地下水について,地下水中のヘリウム同位体(4He)および炭素同位体(14C)を利用して算出された年代値を比較した結果,両者の年代値の間には相関関係があることが示されました。
  • 4Heと14Cのように複数の同位体を利用して地下水の年代測定を行うことにより,単一の同位体を用いた年代測定に比べて,年代値の信頼性を大きく向上させることができました。
概要

地下水中の安定・放射性同位体(3H, 4He, 14C, 36Cl, 81Kr, 85Krなど)や溶存ガス(フロン,SF6など)を利用した地下水の年代測定手法は,諸外国における地層処分のサイト調査だけではなく,地下水汚染調査や環境調査などの多くの分野で利用されています1)。しかし,地下水の年代測定では,「地下水に溶存しているヘリウムや炭素などの物質は移流で運ばれ,分散・拡散の影響を受けない。」,「異なる起源の地下水の混合がない。」などの仮定に基づいて年代が推定されており,これに起因する誤差が含まれています。そのため,精度良く年代を評価するためには,複数の方法でクロスチェックする必要があるとされています2)

そこで,本研究では,東濃地域に分布する土岐花崗岩中の地下水について,地下水中のヘリウム同位体(4He)および炭素同位体(14C)を測定し,地下水の年代測定を行いました。算出された各々の年代値を比較することにより,14C年代における炭酸塩鉱物の溶解の影響と,4Heの蓄積速度を評価できることがわかり,年代値の信頼性を大きく向上させることができました。

内容

土岐花崗岩に掘削された深度1000m級のボーリング孔(図1)を利用して地下水を採取し,地下水中のヘリウム同位体(4He)および炭素同位体(14C)を測定しました。ボーリング孔は,地下水の流動方向に沿って,涵養域から流出域を包含するように配置しました(図2)。

4He年代測定では,岩盤に含まれる放射性元素の放射壊変により,時間とともに地下水中に4Heが蓄積することに基づいて年代を推定します。14C年代測定では,14Cが放射壊変により半減期5730年で減少することに基づいて年代を推定します。

地下水中の14C濃度は,深度の増加と涵養域からの距離の増加に伴い低下することがわかりました(図3)。図3の横軸は,現代の大気中の14C濃度を100パーセントとして試料に含まれる14Cの量を表した単位(pMC:% Modern Carbon)で示しています。4He濃度も,深度の増加と涵養域からの距離の増加に伴い増加していました。このことは,深度が深いほど,涵養域からの距離が遠いほど地下水は年代が古くなっていることを示しています。4Heおよび14C濃度から地下水の年代を算出し,年代値を比較した結果, 4He年代に比べて14C年代は7200年ほど古いものの,4He年代と14C年代の増加率はほぼ同じであることが分かりました(図4)。14C年代では14Cを含まない炭酸塩鉱物の溶解によって,14C濃度が相対的に低くなるため,その影響の評価が課題となりますが,今回調査を行った地域では,炭酸塩鉱物の溶解は,主に浅層部で起こり,その後の変化が小さいことが,地下水中の炭酸濃度の変化から確認されています。この炭酸塩鉱物の溶解の影響で14C年代は4He年代に比べて7200年古くなっていると推定されました。4He年代では,特に花崗岩のような水の流れに寄与する間隙が不明確な場合,蓄積速度の推定が課題となりますが,4He年代と14C年代の増加率が比例することから,4Heの蓄積速度の算定値の妥当性が確認されたことになります。

このように,4He年代と14C年代を比較することにより, 14C年代に影響を及ぼす炭酸塩鉱物の溶解と4Heの蓄積速度を定量的に評価することができ,それぞれの手法で推定される地下水の年代値の信頼性を大きく向上させることが可能となりました3)

なお,本研究は,原子力機構と電力中央研究との共同研究(「瑞浪超深地層研究所周辺の水理・物質移動特性評価に関する研究」)として実施した研究の成果です。

ボーリング孔位置図
図1. ボーリング孔位置図
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地質断面図
図2. 地質断面図
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14C濃度の深度分布図
図3. 14C濃度の深度分布
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4Heと14Cによる年代値の比較図
図4. 4Heと14Cによる年代値の比較
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参考文献