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超深地層研究所計画

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トピックス

地下水の14C年代測定のための微量試料回収技術の開発

ポイント
  • 従来の方法では不可能であった、地下水中に溶存しているごく微量の無機炭素を直接ガス化・回収する技術を確立しました。
  • 地下水の14C年代測定に関して、従来の回収方法の誤差や適用限界と比較検討し、本技術の優位性を提示しました。
概要

地下水の年代は、地下水の動きを理解する上で重要な情報となります。考古学等でよく利用される炭素の放射性同位体(14C)による年代測定は、約5万年前までの試料に適用できるため、古い地下水の動きを推定する手段として大変有効です。

地下水中の無機炭素は主に炭酸塩の形態で溶存しています。従来は炭酸塩を化学的な処理により沈殿させ、分離・回収した後にガス化・精製(この一連の操作を沈殿法と呼びます)し、年代測定用試料(グラファイト)を作製していました。沈殿法は回収までに多くの処理が必要であり、地下水の性状によって沈殿物が生成しない場合や、処理中の汚染により測定誤差が大きい等の問題がありました。そこで、沈殿法に代わる手法として地下水中の無機炭素をガス化して回収する技術(ガス化回収法と呼びます)に着目し、地下水試料への適用を検討しました。

その結果、本手法を用いることにより、沈殿法では不可能であったごく微量の無機炭素も回収可能になりました。また、作業時間や試薬使用量が減り、作業効率も向上しました。加えて、沈殿法における試料汚染の原因や、その結果生じる年代誤差を定量的に評価し、補正できるようにしました。

内容
1.ガス化回収法

ガス化回収法を確立するために図1のような装置を製作しました。

この装置では、ガラス容器に採取した地下水にリン酸を加えて酸性にし、地下水に溶けている炭酸塩を炭酸ガス化します。その後、窒素ガスなどの不活性ガスを微細な気泡にして吹き込むと、地下水から炭酸ガスが追い出されます。

追い出された炭酸ガスは、「CO2トラップ」で回収されます。これは、炭酸ガスを液体窒素で-196℃まで冷やして固体(ドライアイス)に変化させ、不活性ガスから分離・回収するものです。その後に装置内を真空にして固体になった炭酸ガス以外の不純物をとり除きます。この操作で不純物を除去して精製した炭酸ガスは、ガラス管内に封入して回収します。

精製・回収した炭酸ガスに水素ガスを適量混合し、鉄粉とともに高温で反応させると固体の炭素(高純度のグラファイト)が得られます。この炭素を加速器質量分析装置に入れ、炭素同位体の濃度を測定することにより年代が算出できます。

2.従来の回収方法との比較

①作業効率について

1試料あたりの回収作業時間は沈殿法と較べて約50分短縮されました。また、沈殿が生成しなかった試料からも回収が可能となり、炭素同位体分析の適用範囲が拡がりました。

②分析精度について

従来の沈殿法とガス化回収法のそれぞれの方法で得られた14C濃度を比較した結果を図2に示します。この図の横軸は、瑞浪超深地層研究所の研究坑道内の地下水の採取場所(図3参照)を、縦軸は、14C濃度を現代の大気中の14C濃度を100パーセントとして試料に含まれる14Cの量を表した単位(pMC:% Modern Carbon)で示しています。

沈殿法は、ガス化回収法よりも14C濃度が高い値となりました。詳細に調べた結果、これは沈殿生成のために添加するアルカリ溶液の中に混入した微量の炭素が原因であることが判りました。また、沈殿法の操作でアルカリ溶液から試料に混入する炭素量は約1㎎であること、その炭素の14C濃度はほぼ100p MCであることも判りました。一方、ガス化回収法の場合には、作業工程で炭素の混入はほとんど生じておらず14C濃度への影響はほとんどないことが確認できました。

3.沈殿法における14C濃度の補正

アルカリ溶液に混入する炭素の量や14C濃度の値をもとに、沈殿法の14C濃度を補正した所、図4で示したようにほぼ一致することが確認できました。このため、これまでに沈殿法によって取得したデータとの整合性を持たせることができ、データの信頼性も担保できます。なお、本図では炭素年代に換算した値で示しており、確認に用いた地下水試料の年代はおよそ1万年~2万数千年でした。

製作したガス化回収装置の画像
図1. 製作したガス化回収装置
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沈殿法とガス化回収法の比較画像
図2. 沈殿法とガス化回収法の比較
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地下水試料の採取場所の図
図3. 地下水試料の採取場所
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実際の地下水の14C年代の例の図
図4. 実際の地下水の14C年代の例
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参考文献