超深地層研究所計画
トピックス
過去に活動した断層の影響はどこまで及ぶか? -断層活動が地質環境に及ぼす影響に関する検討-
ポイント
- 断層活動によって、断層周辺では割れ目が形成されるとともに、その割れ目が地下水の通路になったと推定されたが、その範囲は断層から数十mの範囲に限られることを明らかにした。
概要
日本列島には数多くの断層が分布します。地層処分場の建設にあたっては、断層が活動して地層がずれると、地下に埋設した人工バリアやガラス固化体を破壊する可能性があるため、断層の影響が及ぶ範囲を除外する必要があります。また、断層の活動に伴って、断層の主要部では粘土が形成されたり、周囲では岩盤の破壊に伴って割れ目が形成されたりするため、地下水の流れ方や物質移動の特徴などに影響を及ぼすと考えられます。
瑞浪超深地層研究所では、今から1200万年前よりも古い時代に活動した断層が主立坑に沿って分布しています。本研究では、この断層を事例として、割れ目の分布とその特徴に着目して、断層活動によって影響を受ける範囲を検討しました。
この断層の周辺では、これまでにボーリング調査や坑道の壁面調査などが行われてきました。これらの調査で取得されたデータのうち、ボーリング調査で取得された割れ目の情報を利用して、①1mあたりの割れ目の数(割れ目頻度)、②割れ目沿いの岩盤の変質、③割れ目充填鉱物の有無とその種類、の3つについて検討しました。その結果、割れ目頻度は多い部分と少ない部分が繰り返し出現するものの、断層に近い部分で多いことがわかりました。また、割れ目沿いの岩盤の変質と充填鉱物を伴う割れ目は、断層から約40mまでの範囲で多く認められることがわかりました。
内容
瑞浪超深地層研究所では、主立坑に沿って、1200万年前よりも古い時代に活動した断層(主立坑断層と呼びます)が分布します。主立坑断層は、立坑の壁面調査から、今から2000万~1500万年前に堆積した瑞浪層群をずらしていますが、今から1200万~150万年前に堆積した瀬戸層群をずらしていません。主立坑断層は、瑞浪層群中では幅0.2m以下で、ほぼ垂直に1m程度のずれを有しますが、花崗岩中ではずれは不明ながら、幅10mにも及ぶ断層として識別されます。花崗岩中でのずれの方向や大きさは不明ですが、幅10mにもわたって花崗岩が破砕され、そこに熱水が浸透して粘土化していることから、瑞浪層群堆積前には活発に活動していた可能性があります。そこで、本研究では、主立坑断層を事例の一つとして、断層の影響範囲の検討を行いました。
断層の影響は岩盤の破壊だけではなく、地下水流動や地球化学環境への影響なども考えられますが、本研究ではそれら影響範囲の指標として、割れ目の特徴に注目しました。具体的には、深度300mと500mでほぼ水平に掘削されたボーリング調査のデータを用いて、①割れ目頻度、②割れ目沿いの岩盤の変質、③割れ目を埋める充填鉱物の有無とその種類、の3つの特徴が断層から離れるにつれて、どのように変化するかを調べました。
その結果は以下の通りでした。
(割れ目頻度)
- 深度300mでも500mでも主立坑断層周辺では割れ目頻度が周囲に比べて高い(1m当たりの割れ目本数は最大25~31本)。
- 割れ目頻度には粗密があり、割れ目の多い部分(割れ目密集部)と少ない部分が繰り返し出現する。
- 割れ目密集部での密集の度合いは、断層から離れるにつれて減少する。
(割れ目沿いの変質と割れ目充填物)
- 母岩の変質と割れ目充填物は主立坑断層から約40mの範囲内で卓越する。
- 深度別には、深度300mの方が変質は強く、割れ目充填物も多い。
この結果、主立坑断層の周辺では割れ目頻度が高いことがわかりました。また、割れ目沿いの岩盤の変質や割れ目充填鉱物の種類として粘土鉱物が多いことから、周囲の岩盤よりも高い温度の水(熱水と呼びます)が流入した可能性が考えられました。ただし、熱水が主に流入した範囲は、変質や充填鉱物の分布に基づくと、主立坑断層から40m程度の範囲と推定されます。このことは、断層によって岩盤が破砕され、そうした脆弱部に熱水が流入したと考えられるものの、その影響は一定の範囲に限られることを示しています。
割れ目は断層活動以外の要因によっても形成されますので、主立坑断層周辺の割れ目が断層活動に伴って形成されたものであることを示していく必要があります。したがって、今後は割れ目がどのような成因で形成されたかを明らかにしつつ、岩盤の破砕だけではなく、酸化還元といった地球化学特性などの変化の範囲についても検討していく予定です。
- 図1. 主立坑で観察された主立坑断層の性状
- 瑞浪層群中では、主立坑断層によって地層が1m程度ずれています。
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- 図2. 深度300mにおける主立坑断層周辺の割れ目頻度の分布
- 割れ目頻度には粗密があり、割れ目の多い部分(割れ目密集部)と少ない部分が繰り返し出現しますが、割れ目が密集する部分は、主立坑断層に近い部分に多く分布します。
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- 図3. 深度500mにおける主立坑断層周辺の割れ目頻度の分布
- 深度300mと同様に、割れ目頻度には粗密があり、割れ目の多い部分(割れ目密集部)と少ない部分が繰り返し出現しますが、割れ目が密集する部分は、主立坑断層に近い部分に多く分布します。なお、図中の黄色の矢印は、小規模な断層が確認された場所を示していますが、この断層の周辺でも割れ目頻度が高くなっています。
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- 図4. 深度300mにおける主立坑断層(水色の矢印)周辺の割れ目頻度、割れ目周辺の岩盤の変質、および割れ目充填物の種類を示した図
- 主立坑断層周辺では、割れ目頻度だけではなく、割れ目周辺の岩盤の変質と充填物として粘土を伴う割れ目も多いことがわかります。
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- 図5. 深度500mにおける主立坑断層(水色の矢印)周辺の割れ目頻度、割れ目周辺の岩盤の変質、および割れ目充填物の種類を示した図
- 深度300mと同様に、主立坑断層周辺では、割れ目頻度だけではなく、割れ目周辺の岩盤の変質と充填物として粘土を伴う割れ目も多いことがわかります。なお、図中の黄色の矢印は、小規模な断層が確認された場所を示していますが、この断層の周辺でも割れ目頻度などが高くなっています。
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参考文献
- 笹尾英嗣, 石橋正祐紀, 窪島光志, 村上裕晃, 断層が地質環境に及ぼす影響に関する検討-瑞浪超深地層研究所における事例-, 日本地質学会第121年学術大会講演要旨, p.179, 2014