原子力災害のような頻度の低い事故等への対応が難しい理由の一つが、常設の災害対応組織ではなく、普段は別の機関で仕事をしている人々が協力して災害対応にあたらなければならないという点です。特に、今回のテーマである「緊急時モニタリング」については、放射線の測定や分析等の専門的な知識や技術が求められるため、普段はそれぞれ別の研究、分析機関で仕事を行う人々が、原子力災害の時にのみ集まって災害対応にあたることになります。そこで重要になるのが、緊急時における指揮系統や役割分担といった事前の取り決めや体制作りです。
我が国の緊急時モニタリングも、第3回の原子力防災情報で紹介したとおり、国が統括し、国、地方自治体や事業者だけでなく、我々原子力機構を含む指定公共機関等の様々な機関が支援して、測定等を実施していくこととなっています。
一方、海外でも各国の実情に合わせた体制作りが行われています。そこで、ポイントとなるのが普段別の機関で仕事をしている人々が集まってスムーズに緊急時対応に当たれるようにする方法です。今回から3回にわたり米国とフランスの事例を紹介します。特に米国は国(連邦)の緊急時モニタリング組織である連邦放射線モニタリング評価センター(FRMAC:
Federal Radiological Monitoring and Assessment
Center)に特徴がありますので、2回に分けて紹介します。
一方、連邦の役割については、NRFの原子力・放射線分野[3]に定められています。その中で原子力発電所の事故の際には米国規制委員会が主管省庁となることや各省庁が果たすべき責務が定められています。さらに、それぞれの責務を果たすため、航空機モニタリングや被ばく医療など支援可能な能力や派遣チームが具体的に記載されています。特に緊急時モニタリングについては、米国エネルギー省が主導してFRMACが現地に設置され、関係省庁の代表も参加した上で、連邦の環境や農地に係る放射線モニタリングや影響評価に関する活動のすべてを調整することになっています。
ここまで紹介した緊急時モニタリングに係る活動をまとめると図1のようになります。
この図1のとおり、各機関から得られたモニタリングデータ等をもとにEOCで防護措置を決定することになっています。これらのモニタリングチーム間では、リエゾンや毎日のモニタリング計画の打合せを通じた調整は行うものの、それぞれ独自にモニタリング計画を立案し、測定や評価等のモニタリング活動は統合せずに活動している点が特徴です[9]。
次回は、FRMACを中心とした連邦の緊急時モニタリング活動を紹介致します。
参考資料
[1] U.S.DHS: “National
Response Framework Second Edition May 2013”, 2013
[2] U.S.DHS: “National Incident
Management System December 2008”, 2008
[3] U.S.DHS: “National Response
Framework: Nuclear/Radiological Incident Annex”,
2008
[4] U.S.NRC/FEMA: “Criteria for
Preparation of Radiological Emergency Response Plans and Preparedness
in Support of Nuclear Power Plants”, NUREG-0654, FEMA-REP-1 Rev.1,
1980
[5] U.S.NRC/FEMA: “Criteria for
Preparation and Evaluation of Radiological Emergency Response Plans
and Preparedness in Support of Nuclear Power Plants”, NUREG-0654,
FEMA-REP-1 Rev.1 Supp.1, 1988
[6] New York State: “New York
State Radiological Emergency Preparedness Plan for Commercial Nuclear
Power Plants Revised March 2011”, 2011
[7] Maryland Emergency Management
Agency: “Maryland Emergency Operations Plan Annex Q: Radiological
Emergency Plan Fixed Nuclear Facilities”, 2007
[8] The State of Texas: “Texas
Emergency Management Plan Annex D Radiological Emergency Management
Updated February 2013”, 2013
[9] U.S.DOE: “Federal
Radiological Monitoring and Assessment Center Monitoring Manual
Volume 1 Operations July 2012”, DOE/NV/25946-1554,
2012