当コーナーの第4回では、原子力防災訓練がどのような法的枠組みで実施されているのか解説しました。この中で説明した災害予防責任者(指定行政機関の長、地方公共団体の長、指定公共機関、原子力事業者等)が共同して実施する訓練(原子力総合防災訓練)は、東日本大震災の影響により2年間開催されていませんでしたが、この災害の教訓等を反映した新たな法的枠組みを踏まえて平成25年10月11日及び12日に鹿児島県の九州電力㈱川内原子力発電所2号機を発災施設と想定して実施され、原子力機構も参加しましたのでその概要を簡単に紹介します。
原子力機構は災害対策基本法(災対法)に基づき、内閣総理大臣より指定公共機関に指定されています。このため、原子力機構は原子力防災における指定公共機関としての業務内容を記載した防災業務計画を作成し、災対法及びこの防災業務計画並びに原子力災害対策特別措置法(原災法)等に基づき、原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策を行います。原子力総合防災訓練への参加は、原子力災害予防対策の一環であるだけではなく、実効的な緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策を確認する上で重要となります。
なお、指定公共機関としての原子力機構の防災業務計画においては、緊急事態応急対策として以下の業務を行うこととしています。
1) 緊急時モニタリング(緊急時モニタリング実施計画の作成支援、モニタリング実施)
2) 現地事故対策連絡会議への派遣(政府の現地対策本部設置前の情報共有及び技術的支援)
3) 緊急時の公衆の被ばく線量の評価(内部被ばく線量及び外部被ばく線量の推計等の支援)
4) 原子力災害合同対策協議会への参加(関係者の情報共有及び相互協力のための調整)
5) 原子力災害対策本部事務局(原子力規制委員会の緊急時対応センター)への専門家の派遣
6) スクリーニングの実施(住民等へのスクリーニング及び除染の支援)
7) 周辺住民等への情報伝達活動(放射線安全に関する住民からの問合せ対応の支援)
8) 原子力被災者の生活支援活動(警戒区域が設定されたときの住民の一時立入の支援等)
このため、原子力機構は原子力総合防災訓練のみならず、道府県が実施する原子力防災訓練等にも参加し、また、自らも訓練を企画・実施し、職員等の防災能力の維持・向上を図るとともに、訓練で得られた課題への対応を行っています。
今回の原子力総合防災訓練には、原子力機構から合計32名の職員等が参加しました。その内訳としては、救護所が設置された鹿児島県姶良市の蒲生高校に8名を、緊急時モニタリングセンターが設置された鹿児島県原子力防災センターに4名を、原子力規制委員会の緊急時対応センター(ERC)に2名をそれぞれ派遣し、原子力機構の原子力緊急時支援・研修センター(NEAT)でも18名が参加しました。
ここでは、救護所において原子力機構が実施した訓練の概要について紹介します。この訓練は原子力機構の防災業務計画の3)で示した「緊急時の公衆の被ばく線量の評価」、及び6)で示した「スクリーニングの実施」を目的としています。具体的には、10月12日(土)の測定当日に先立ち、移動式体表面測定車1台及び移動式全身カウンター車1台を福井県のNEAT福井支所から事前に現地まで陸送し、それぞれ4名の操作要員を派遣しました。移動式体表面測定車は、体表面に付着した放射性物質に対する処置の要否を判断するスクリーニングのため、体表面の放射性物質による汚染(Bq/cm2)を測定します。また、移動式全身カウンター車は、体表面の放射性物質による汚染を除去した後に、体内に吸入・摂取した放射性物質による内部被ばくに対する治療の要否を判断するスクリーニングのため、又は内部被ばく線量(mSv)を推計するため、体内に含まれる放射性物質の量(Bq)を測定します。派遣した各車両の仕様は表1に示します。
表1 移動式体表面測定車及び移動式全身カウンター車の仕様
移動式体表面測定車 |
日野自動車 車両寸法:7.67(L)m×2.4(W)m×3.61(H)m 車両総重量:7.805t |
(1)
ゲート型体表面放射能測定装置:2式 β線検出器:プラスチックシンチレータ,検出器数:前面(β);3,
背面(β);3,側面(β)左右;各2, 頭部(β);1,手部(β)左右;各2,足部(β)左右;各1,靴(β);1,計18ch 高警報及び高々警報(いずれもBq/cm2)の設定が可能、警報発報時はゲート閉鎖 (2) 可搬型γ線モニタ:半導体検出器測定範囲:1〜999nGy/h |
|
移動式全身カウンター車 |
日野自動車 車両寸法:10(L)m×2.49(W)m×3.72(H)m 車両総重量:16.355t |
全身カウンター:1式 検出器:NaI(T)シンチレータ 検出器の寸法:約7cm×12cm×40cm, 個数:2個, 分解能:10%(6.62keV)以下, 検出限界放射能:60Co 200Bq以下, 137Cs 300Bq以下, 131I 200Bq以下,エネルギー範囲:60keV〜2MeV, 測定部位:全身,体幹部及び甲状腺 |
10月12日(土)の午後1時から4時までの約3時間で19名の住民・関係者の体表面の放射性物質による汚染を測定しました。測定器は2台搭載されており一度に2人の測定が可能で測定時間は15秒/回(入室から退出までで2分位)です。なお、測定の結果、有意値は認められませんでした。また、今回の測定はデモンストレーションの意味合いもありましたので、住民・関係者にこの測定の意味、車両の概要等についても説明しました。写真1に移動式体表面測定車の全景を、写真2に移動式体表面測定車の内部を示します。写真1の車両の内部後方に測定器が設置されています。訓練の結果、操作要員の習熟及び機器の性能とも良好であることが確認されました。また、体表面の汚染(Bq/cm2)の測定結果は、体表面モニタに付属のプリンターでレシートに印字され、そのレシートを住民・関係者にお渡しし、その意味を含めてNEATの専門家から説明しました。なお、当日は政府の原子力災害現地対策本部長(環境副大臣)も測定を体験されました。
写真1 移動式体表面測定車の全景
写真2 移動式体表面測定車の内部
10月12日(土)の同時刻に15名の住民・関係者の内部被ばく線量を測定しました。移動式全身カウンター車には、全身カウンターを1台搭載しており、1回の測定人数は1人で測定時間は2分(受付けからデータの説明までの測定全体で4分位)です。また、今回の測定はデモンストレーションの意味合いもありましたので、測定対象の放射性物質は人体内にあるカリウム40とし、住民・関係者にもその旨説明しました。なお、検出器の特性上、人体内の放射性物質として、ヨウ素131、セシウム137等も同時に検出されますが、これらの値に有意値は認められませんでした。写真3に移動式全身カウンター車の全景を、写真4に移動式全身カウンター車の内部を示します。写真4の中央奥に立っている英字ロゴの内部に検出器を設置しており、測定対象者はロゴの裏側へ入って、直立したままで測定します。訓練の結果、操作要員の習熟及び機器の性能とも良好であることが確認されました。また、体内に含まれているカリウム40の量(Bq)の測定結果は、専用の書式に記載して住民・関係者にお渡しし、その意味を含めてNEATの専門家から説明しました。
写真3 移動式全身カウンター車の全景
写真4 移動式全身カウンター車の内部