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「常陽」は、次世代の原子炉で使用する新たな燃料・材料の開発や、安全性に関する実験などを行うことができる世界的にも貴重な高速実験炉です。2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略においても「常陽」での照射試験による検証が不可欠とされ、その期待は大きいものです。今回は、運転再開に向けて準備を進めている「常陽」の今を紹介します。

図1 高速増殖炉での核分裂と高速中性子の利用

高速炉サイクルとは何ですか?

「高速炉」は、エネルギーの高い高速中性子を扱う原子炉です。使用済燃料を再処理し、もう一度燃料として使うことで、資源の有効利用に役立てるのが「核燃料サイクル」ですが、一方、それを高速炉で行うことを「高速炉サイクル」といいます。「高速炉サイクル」は、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減の観点でも有効です。

高速炉サイクルのメリットを教えてください。

原子炉から出た使用済燃料には、再利用できるウランやプルトニウムのほかに、マイナーアクチノイドと呼ばれる半減期の長い放射性物質が含まれています。軽水炉で核分裂させにくいマイナーアクチノイドを燃料に一定量混合し、高速炉で核分裂させれば、半減期の短い放射性物質に変換することができます。使用済燃料をそのまま廃棄物として地中に埋める処分方法では、放射能レベルが地中に元々ある天然ウラン並みに下がるまで約10万年を要しますが、この処理により約300年にまで短縮できます。

また、高速中性子を利用できることから、がん治療に用いられる医療用ラジオアイソトープ(医療用RI)の製造も可能になると注目されています。

「常陽」は、現在、図1に示す高速中性子を使って、燃料や材料の開発などに利用していますが、過去には、燃料の増殖を可能とする増殖炉の機能を実証しました。使用済燃料中に新たに生み出されたプルトニウムを回収し、新しい燃料の原料として原子炉で使用できるため、消費した以上の燃料を生成することができます。

Beyond Design Basis Accidentの頭文字を取ったもの

図2 設計基準事故を超える事故(BDBA※)を想定した試験研究炉の厳しい設置許可基準規則

「常陽」の名前の由来は?

茨城県の旧国名である「常陸」を中国風に呼んだ名称です。「常陽」が設置されている大洗町には、幕末~明治期の志士ゆかりの品々を多数収蔵する常陽明治記念館(現・幕末と明治の博物館)があり、教学と科学の調和両立を念願して「常陽」という名が付けられました。

現在の「常陽」の状況を教えてください。

2024年度末の運転再開を目指して準備を進めており、下の図3のような新規制基準に適合するための許認可手続を行っています。許可に係る審査から、次は工事のフェーズになります。工事を進めるには、立地自治体の事前了解も必要です。引き続き丁寧な説明を心掛け、ご理解を得たいと思います。

新規制基準に対応する上で難しい点はありますか?

新規制基準では、安全設計上想定すべき設計基準事故に加えて、BDBAが新設されました。BDBAでは、設計基準事故への対策が機能せず、さらに深刻な状態となっても、多量の放射性物質の放出を防止することが要求されています。ナトリウム冷却の高速炉の安全上の特徴を踏まえた上で、設計基準の範囲を超えた事故への対策及び安全評価を行う必要があり、これらは技術的に難易度が高く、量も膨大でした。また、自然現象や火災などへの対策も大幅に強化することが必要でした。

非常にハードルの高い課題でしたが、原子力規制庁には専用のチームを編成していただき、高い頻度で審査会合の機会を提供いただけたため、丁寧に説明し、課題をひとつひとつクリアすることができました。長い期間となりましたが、合理的かつ効率的に取り組むことができたと感じています。

運転再開後、どのような貢献が期待されますか?

図3のように、「常陽」は、研究プラットフォームとして幅広い貢献が期待されています。日本の「戦略ロードマップ」に定められた実証炉の開発、カーボンニュートラル実現のための照射試験、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減及び医療用RI製造の実証などが期待されており、運転再開後はこれらの重要な役割を果たすことにより、社会に貢献していきます。

図3 社会に貢献するための多様な研究プラットフォーム

【日本原子力研究開発機構広報誌「未来へげんき No.67」掲載】

※掲載内容は2023年7月時点のものです。