日仏原子力研究開発協力ワークショップ(2022.10.05)

2022年10月5日に、当機構パリ事務所主催による「日仏原子力研究開発協力ワークショップ~日仏原子力研究開発協力の成果と今後の展開~」を開催しました。新型コロナウイルス感染症の影響により約3年振り、今回で4回目となる本ワークショップは、パリ事務所主催イベントとしては初のハイブリッド形式となりました。

フランス側からは、共催機関である原子力・代替エネルギー庁(CEA)、放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)の他、駐日フランス大使館等政府関係者、原子力産業関係者、日本側からは当機構役職員の他、政府関係者(在フランス日本国大使館(後援)、文部科学省、経済産業省等)、パリ駐在も含めた日本の電力、メーカー等の関係者等、現地パリ会場、オンラインを合わせ150名以上が参加しました。

冒頭挨拶として、小口正範理事長から、世界が気候変動とエネルギー安全保障という2つの課題に直面している中、低炭素でかつ安定的なエネルギー供給が可能な原子力の役割は不可欠であり、とりわけ小型モジュール炉(SMR)や先進炉の導入、水素製造等非電力利用など、原子力の新たな展望を開く必要性について言及しました。続いて、原子力の持続可能性を確保する研究開発とその国際協力は以前にも増して重要となっており、このワークショップのテーマとした革新炉について、当機構はCEAとの間で高速炉研究開発分野での長期的な協力関係にあり、加えて統合エネルギーシステムに係る新たな協力の可能性について議論を開始したところである旨紹介しました。もう一つのテーマとした原子力安全研究については、当機構の安全研究・防災支援部門とIRSNとの間で、日仏両国の規制当局に対する技術支援機関(TSO)として、互恵的な協力を実施していることを紹介しつつ、今後、研究施設の利用を通じてそれぞれの機関における研究を補完する協力の深化・拡大についての議論が行われることへの期待を示しました。

CEAフィリップ・ストー エネルギー局長から、2年間のパンデミックを経て対面で会合が開催できたことへの喜びを述べつつ、CEAと当機構は従来から、新型炉、廃止措置・廃棄物管理、燃料サイクル、安全などの多くの分野で協力してきていること、2021年12月に取り決めを更新し、再生可能エネルギーと共存するエネルギーシステムを新たな協力項目として盛り込んだことを紹介し、2050年までにネットゼロ目標を達成するには原子力と再生可能エネルギーの両方を活用していく必要性を訴えました。また、本ワークショップに関して、両国の政策や研究開発の方向性に関する共通点だけでなく、互いの状況や考え方の相違点とその背景についても意見交換することに対する期待が示されました。

IRSNシュリル・ピネル欧州・国際部長から、IRSNはフランスの原子力規制のTSOとして、原子力安全と放射線防護に関する決定や活動に技術的・科学的根拠を提供する役割を果たしていること、予算の40%を原子力安全や放射線防護研究に充てていることを紹介しました。2019年G7の原子力安全セキュリティ・グループ(NSSG)において原子力安全研究やそのための国際協力の重要性が確認されたことに触れ、本セミナーはその趣旨にかなうものであることを強調しました。また、IRSNはカダラッシュに「PASTIS*」という実験設備を設置し、SMRの受動的安全性の効果を実証していく予定であることに言及し、引き続き、研究施設、若い研究者育成に投資を行い、高い技術的専門性を維持していくコミットメントを示しました。

* PAssive Systems Thermalhydraulic Investigations for Safety

在フランス日本国大使館安東義雄次席公使から、今次ワークショップの開催への祝辞を述べた上で、日仏二国間協力は幅広いが、その中でも例えば、高速炉開発や東京電力福島第一原子力発電所(以下、1F)の廃炉等の協力は重要である旨述べました。また、本年6月にふげん使用済燃料に関する政府間合意(IGA)が締結されるなど、日仏は互いに代えがたいパートナーであると位置付けました。本年8月、岸田総理が、カーボンニュートラルや中長期的な経済成長、エネルギー安全保障の観点から、原子力はグリーン・トランスフォーメーション(GX)に不可欠であることを踏まえつつ、次世代革新炉の開発等に関する検討の加速を表明したことにも触れ、日仏の共通点は多いことから、更なる協力は有意義である旨強調しました。来年のG7広島サミットの機会も捉え、日本は脱炭素化を含む国際的な取組みに貢献したいと考えており、このような対面のイベントが日仏二国間協力の更なる深化につながることへの期待を寄せました。

当機構小口理事長
CEAストー エネルギー局長
IRSNピネル欧州・国際部長
在フランス日本国大使館安東次席公使

基調講演では、文部科学省 嶋崎政一研究開発戦略官(核燃料サイクル・廃止措置担当)から、日本の原子力研究開発の政策とプログラムを紹介しました(以下要点)。

  • 2021年10月に閣議決定された現行の第6次エネルギー基本計画では、「原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」としている。しかしながら、今年になり、原子力の役割の重要性に対する認識が高まっている。
  • 日本では原子力研究開発は主に当機構が行っている。常陽は2025年再稼働を目指して準備を進めている。再稼働後は、高速中性子束による照射場の提供や、医療用放射性同位元素の製造などが期待されている。
  • もんじゅでは、炉心からの燃料取り出しが完了し、廃止措置が順調に進んでいる。今年3月文科省は地元に対して、もんじゅの使用済燃料の取扱いについては、フランスでの再処理を基本としつつ、その他の選択肢についても排除せずに検討中であると説明した。
  • 1Fの廃炉支援のため、当機構内に廃炉環境国際共同研究センター(CLADS)を設置し、国際協力の下、 研究開発を進めている。
  • 2011年の東日本大震災後、日本で再稼働した研究炉は6基のみであり、研究開発並びに人材育成の場が失われつつある。そこで、もんじゅ跡地に、産業界も学界も広く利用可能な新たな研究炉を作るべく、目下設計を行っている。日本も含めて革新炉の規制の経験がないことからこのような研究炉も含め、適切な規制基準を確立すべく、関係機関との間でコミュニケーションを深める必要がある。また、近年の大学生の原子力離れに懸念を有しており、文科省では大学、産業界、当機構などと協力して、将来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム(ANEC)を立ち上げるなどして、人材育成活動を始めたところである。

続いて、経済産業省資源エネルギー庁 植松健原子力国際協力推進室長から、GXに向けた日本のエネルギー・原子力政策とサプライチェーンにおける日本の強みについて紹介しました(以下要点)。

<GXに向けた日本のエネルギー・原子力政策>

  • 2011年の東日本大震災後、安全規制が強化され、現在までに再稼働したのは10基である。 これに加えて7基が審査に合格しているが、再稼働するためには、更なる手続きが必要。
  • エネルギー危機を克服し、GXを推進するため、原子力発電所の再稼働に向けた総力の結集、安全確保を大前提とした運転期間延長を含む既設の原子力発電所の最大限の活用、次世代革新炉の開発・建設、再処理・廃止措置・最終処分のプロセス加速化を、岸田総理の指示に従って関係者や専門家の意見を聞きつつ、具体的な検討を行っていく。

<サプライチェーンにおける日本の強み>

  • 日本は、信頼性の高い企業が高品質な原子力関連機器の製造能力を有しており、加えて、原子力にかかる研究開発基盤がある。エネルギーの安定供給をはじめとするエネルギー安全保障とカーボンニュートラルを実現するために、原子力は不可欠な存在。その原子力を今後活用するためにも、サプライチェーンの維持・強化と人材育成にも取り組んでいく必要がある。
  • 日本が持つ原子力にかかるサプライチェーンの観点からの強みについて、日本は、33基のBWR、24基のPWRに加えて、高速炉、高温ガス炉など、原子炉の建設経験が豊富であり、信頼性が高く、強固なサプライチェーンを日本国内に有している。この強みは、フランスにおけるEPR建設にも貢献した。
  • こうした実績に基づき、日本が有する強みを活かし、今後は国際的な革新炉プロジェクトにも貢献したい。日本は原子力サプライヤーの宝庫であり、「フランス2030」の推進にあたっては、納期や品質で信頼できる原子力機器に対するニーズを満たすことができる日本企業のことを思い出してほしい。

<まとめ>

  • 今後、短期的にはエネルギーの安定供給を再構築すべく、足元のエネルギー危機を克服するとともに、中長期的にはエネルギー安全保障の確保と、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、GX を推進する。フランスをはじめ有志国と連携し、強固なサプライチェーンと研究開発インフラを構築する。引き続き、日仏両国で連携した取組みを行っていきたい。

最後に、CEAストー エネルギー局長から、フランスのエネルギー・原子力政策、2050年までのネットゼロへの道筋とCEAの関与について紹介しました(以下要点)。

  • 今夏、フランス及び欧州は森林火災や干ばつを経験し、改めて気候変動が深刻な問題であることを実感した。
  • 2021年、EUは天然ガス輸入の45.3%をロシアに依存していたが、2022年ロシアによるウクライナ侵攻に伴い天然ガス供給の危機が起き、供給源を多様化しようとしている。2030年までにロシアからの石油とガスの供給を3分の1に減らす予定である。こうした状況を踏まえ、フランスにおける原子力の優先度が高まっている。現行の複数年エネルギー計画(PPE)では、2030年までに再生可能エネルギーを40%、原子力発電容量の上限は63.2GWとして、2035年までに原子力を50%にする、などの目標が示されているが、2023年に予定されている見直しに向け議論が進んでいる。
  • コロナ禍の影響からの回復を支援するための「フランス再興計画」においては、原子力セクターに4億7千万ユーロが投じられており、うち研究開発予算として2億ユーロが含まれる。(この中には、New Tamarisという地震の下での構造物の挙動に関する実験施設の建設とカダラッシュにおけるシビアアクシデント研究施設の建設が含まれている。)
  • フランスは2021年10月に「フランス2030」として10の目標を掲げ、300億ユーロを投じることとした。これにはSMR、水素製造などが含まれる。2022年2月には大統領の演説により原子力政策の新たな方向性が示された。本演説には既存の原子力発電所の寿命延長、EPR2 の建設(6基)、検討(8基)、SMR/先進モジュール炉(AMR)プログラムが含まれている。AMRプログラムは2030年までの原型炉の導入を目指してスタートアップ企業を支援するもの。2030年までに3億9千万ユーロを投じて3段階で公募プロセスを進める。CEAはSMRの地域活用と大規模水素製造の主導的な役割を担う。また溶融塩炉を用いたアクチナイドの変換(ISACプロジェクト)にも取り組む。原子力は、「2050年Net Zero」に向けて、変動する再生可能エネルギーの補完、地域におけるエネルギーの統合、水素製造、循環炭素経済などで、重要な役割を果たす。
文部科学省 嶋崎研究開発戦略官
経済産業省資源エネルギー庁
植松原子力国際協力推進室長
CEAストー エネルギー局長

セッション-I 「JAEA、CEAの活動の現状と日仏協力の意義」では、山村司当機構国際部長から、当機構の取組みとして、高温ガス炉及び高速炉の研究開発、J-PARCやJRR-3などの当機構の施設を利用した中性子利用等の研究開発、人材育成活動、1F事故対応に貢献する研究開発の促進、幌延等での高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究、自らの施設における原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物管理等を説明しました。また、フランスは当機構の国際連携の重要なパートナーであることを指摘し、当機構とCEAとの主な協力分野として、高速炉分野での研究開発や教育、研修を目的としたセミナー等の開催、廃止措置・廃棄物管理分野での情報交換・共同研究、原子力科学分野の共同研究や1F事故の燃料デブリ等に関する共同研究等を挙げました。最後に、これまでの協力により培ってきた人的ネットワーク等を基に、昨今の両国における新たな原子力の展開を踏まえ、協力が更に深化、拡大していくことへの期待を表明しました。

つぎに、CEAヴァレリー・ヴァンデンベルグ国際・コミュニケーション・広報担当室長から、冒頭、日仏間で新しい協力の可能性を探りたいと考えている旨発言がありました。同室長からは、風力や原子力などのエネルギーを生み出す仕組みは複雑であり、事業者、ネットワークや出力規模等が異なっているため、様々な要素を考慮に入れてエネルギーを確保する仕組みを考えなければならないことが述べられました。また、再生可能エネルギーと原子力エネルギーの柔軟な組み合わせによる利用は重要であり、SMRを(太陽光発電等の)地方でのエネルギー源にバランスを持って組み合わせることや、原子力を通じた水素製造等についての説明がありました。また、同室長としては、今後、様々な分野に利用できる水素の製造はCEAと当機構との間で協力できる新たな分野となる可能性がある旨発言がありました。

当機構山村国際部長
CEAヴァンデンベルグ
国際・コミュニケーション・広報担当室長

セッション-II 「原子力研究開発における日仏協力:現在進行中のプログラムと今後の協力の可能性」では、まずパネル-1 「新型炉に関するCEA、JAEAの取組みと日仏協力」において、CEAヴァンデンベルグ室長のモデレートにより、高速炉・新型炉研究開発部門大野修司炉設計部長から「JAEAにおける高速炉及び先進炉に関する研究開発活動(Fast Reactor and Advanced Reactor R&D Activities in JAEA)」と題した報告が、またCEAジャン=クロード・ガルニエ第4世代原子炉プログラムマネージャーから「先進モジュール炉とその活用例(Advanced Modular Reactors & Use Case)」と題した報告がなされ、質疑応答が行われました。

大野部長の報告の中で、高速炉開発に関しては試験研究や解析コード開発、常陽の再稼働の重要性、進行中の日仏協力項目について説明がありました。また高温ガス炉の熱利用・水素製造試験のプロジェクト、原子力と再生可能エネルギーの統合システムに係る研究状況について説明しました。

ガルニエ プログラムマネージャーの報告の中では、フランスで行われているAMR(炉型はNa冷却高速炉(SFR)と溶融塩炉(MSR))の研究について説明しました。AMR-SFRのサイズについては、臨界や燃料サイクルの観点、製作のし易さや経済性の観点から400MWthをターゲットと考えており、原子炉容器を運搬できる大きさにすることが課題であること、またMSRの課題は耐腐食性を持たせることとの説明がありました。

質疑応答では、日本のSFRの大型炉・小型炉の経済性、高温ガス炉プロジェクトの製造コストターゲット、SFRと高温ガス炉を選択した理由、フランスにおける開発タイムラインなどについて活発な議論が交わされました。

当機構大野炉設計部長
CEAガルニエ第4世代原子炉
プログラムマネージャー

続いて、パネル-2 「原子力安全研究に関するIRSN、JAEAの取組みと日仏協力」では、須田一則ウィーン事務所長のモデレートにより、安全研究センター天谷政樹副センター長から「JAEAにおける原子力安全研究と緊急事態への準備の現状とIRSN-JAEA協力の将来への期待(Current Status of Research on Nuclear Safety and Emergency Preparedness in JAEA and Expectation for future IRSN-JAEA Cooperation)」と題した報告が、またIRSNフランソワ・バレ原子力安全研究部次長から「IRSNにおける原子力安全研究(Nuclear Safety Research at IRSN)」と題した報告がなされ、質疑応答が行われました。

天谷副センター長からは、安全研究・防災支援部門の研究開発スコープ及び主要研究施設の紹介、国際協力、IRSNとの協力のトピック(シビアアクシデント解析コードに適用する熱流動・ソースタームモデルの改良、シビアアクシデント条件下での熱流動・ソースターム実験における先進的測定技術の開発、定常臨界実験装置(STACY)を利用した臨界安全研究)の説明がありました。また、将来期待される研究協力の分野として、臨界安全(STACY更新炉の利用)、燃料安全(冷却材喪失事故における燃料挙動)、プラント安全(応力腐食割れ、ハザード評価)、熱流動安全(プールスクラビング)、原子力防災・災害対応(気中モニタリング解析方法、大規模放射線事故時における民間企業との協力を含めた情報交換)を挙げました。

バレ次長からは、IRSNの役割、「IRSN科学的戦略」、研究開発の主要ライン、人員構成及びIRSNが有する実験プラットフォーム、プロジェクト(火災リスク関連プロジェクト、臨界安全評価ツールや国際協力)等について説明がありました。日本との協力強化が期待される対象として、原子炉の長期運転に伴うコンクリートやケーブルなどの経年劣化、火災リスク、廃止措置、事故耐性燃料(ATF)、使用済燃料プール、将来技術としてのSMRにおけるコンピュータコードの開発や実験活動が挙げられました。

質疑応答では、当機構とIRSNとの今後の協力、技術中立アプローチ又は炉型に依存しない理論的アプローチ、規制基準の整備に関して技術支援機関としての当機構の役割などについて活発な議論が交わされました。

当機構須田ウィーン事務所長  IRSNバレ原子力安全研究部次長  当機構天谷副センター長

以上の議論を受け、入江パリ事務所長より閉会挨拶として、関係者への謝意を述べつつ、今回のワークショップでは日仏の原子力・エネルギー政策、日仏原子力研究開発機関の活動の現状と今後の協力の可能性について、短時間ではあったが、参加者と共有し、議論することができた旨総括しました。また、今、世界各国で原子力の重要性が叫ばれており、原子力の研究開発に長く取組み、協力してきた我々日仏の機関の取組みがますます重要になっていると考えるところ、日仏協力を推し進め、またネットワークを構築するため、当機構パリ事務所を今後も活用願いたい旨述べました。

全体司会を務める当機構入江パリ事務所長

約3年振り、パリ事務所主催イベントとしては初のハイブリッド形式での開催となりましたが、日仏両国の原子力研究開発のキーパーソンの参加を得ることができ、両国の最近の動向を踏まえた中身の濃い議論が展開されました。当機構は、今後も、様々な機会を捉え、フランスとのネットワーキングの拡大を図ってまいります。