核不拡散ニュース No.0164 2011.09.14
<米国核燃料供給保証>
【概要】
米国エネルギー省(DOE)/国家核安全保障庁(NNSA)は2011年8月18日、「余剰の高濃縮ウランを希釈し生成した低濃縮ウランを用いた米国燃料供給保証(American Assured Fuel Supply: AFS)が利用可能になる」と発表した。
これは解体核弾頭等を起源とする余剰の高濃縮ウランを低濃縮ウラン(5%程度のウラン235を含有)に希釈して備蓄し、市場におけるウラン燃料の供給が途絶した場合に米国内外に供給を行うものである。
発動は、燃料供給が途絶し、民生用の原子力平和利用を履行している国の通常運転計画が脅かされた場合に限定するとされ、発動に際し、最終需要者が核不拡散に関する信頼するに足りる実績を有していることなど、核不拡散要件を担保するための方針・手続きが提示されている。
本AFSは、管理・運営を委ねられたDOEにとって、民生用の原子力利用の推進を支援しつつ核拡散リスクを低減するという自らの核不拡散の目的に合致するとしている。
この構想は、2005年のIAEA総会において米国が表明した低濃縮ウランの備蓄に関する提案を契機としており、これまで実施されてきた高濃縮ウランの低濃縮化作業が進捗し、備蓄の準備が2012年中に完了することを受けて正式発表を行ったもので、DOEは、今後AFSによる燃料受給希望の受付を開始する旨を表明している。
【経緯】
近年、原子力平和利用の進展に伴う核物質・技術等を不正に入手する核拡散リスクの国際的な高まりを懸念し、特に機微技術や施設(濃縮・再処理)の拡散を防止するため、自国での濃縮・再処理能力の開発を自制するインセンティブの付与を目的とした燃料供給保証のメカニズムが構築されつつある。
これは、核不拡散以外の政治的な理由(技術的もしくは商業的な理由を除く)により核燃料の供給が途絶した場合に代替核燃料の供給を保証するもので、既存の市場のバックアップシステムと位置付けられている。
このメカニズム整備の構想は、2003年10月、エルバラダイIAEA事務局長(当時)が濃縮・再処理施設の多国間管理を提案したことに始まり、その後、米露を始め様々な国から燃料供給保証の構想が提案され主にIAEAの場で議論されてきた(核不拡散ニュースNo.0138 2010-04/14参照)。
今回発表されたAFSもその一つで、2005年9月のIAEA第49回総会における米国DOEボドマン長官(当時)の以下の提案が端緒となった(INFCIRC/659)。
この提案を受けて2007年より高濃縮ウランの希釈が開始され、IAEAの検認下で低濃縮化する作業が進み、2009年7月時点で約6.5トンの希釈が進んだ。
【発表の具体的内容】
今回の発表に際し、スティーブン・チューDOE長官は「増大するエネルギー需要に対応する低炭素オプションとして原子力を志向する国々が増えるにつれ、核拡散につながる機微技術の開発を防止する燃料供給保証は重要な国家安全保障の優先事項である」と述べた。AFSに関する内容は以下の通りである。
1)AFSの意義
2)発動要件
何らかの原因で燃料供給が途絶し、民生用の原子力平和利用を履行している国の通常運転計画が脅かされた場合に限り発動
3)備蓄の規模義
4)燃料供給の方針・手順
DOEは、AFSの低濃縮ウランに対する購入希望があった場合、次の方針・手順で検討の上、売却
[方針]
[手順]
−受給者のニーズとそれを取巻く状況、及び関連する米政府の権利に合致した的確なタイミングで低濃縮ウランの供給要請に応じる
−供給要請に対する優先順位付けと、要請の検討に必要な追加情報を求める権利を有する
−低濃縮ウランの供給要請を検討しDOE長官に売却を勧奨するAFS委員会を設置(NNSA不拡散・国際セキュリティ局が委員長を務め、NNSA核分裂性物質処分局、DOE原子力局、DOE環境管理局、DOE/NNSAの法律顧問室のそれぞれの代表で構成)
−AFSからの売却がウラン市場に与える影響を評価し、売却によりウラン濃縮・転換・採鉱のそれぞれの産業界に具体的な影響を与えないとの決定を下すに必要な情報をDOE長官に提供
−国外向けの売却承認に先立ち、国務省の同意、商務省・国防省の助言を受け、更に売却に先立ち他の連邦組織(NRC、国務省、商務省、国防省等)に通告
5)その他
【考察】
2005年に当初の構想が提案された際は、供給を行う条件として「濃縮・再処理を行わない国」との条件が付されていたが、今回の発表では受領国による濃縮・再処理の放棄は条件とされていない。これは、近年のIAEAの場における燃料供給保証の議論の中で顕著な「こうした要求はNPTに謳われている原子力平和利用の権利を侵害するものである」、との非同盟運動諸国等からの反発を懸念し、AFSの提案を受け入れやすくなるように企図したものと考えられる。
一方、米国の核不拡散政策は修正原子力法と核不拡散法の規定に基づいて実施され、平和目的の原子力利用の推進のため、他国に原子力資機材を提供するに当たって、包括的保障措置の適用、適切な核物質防護の適用の他、米国が提供した資機材等の濃縮・再処理等を実施する場合の米国の事前同意権の確保等の要件を含む原子力協力協定を締結することを規定している。AFSを利用する場合であっても最終需要者が属する国は米国との間で二国間協定締結が必要であることに変わりはなく、当該国は移転された低濃縮ウランに関し、米国の規制を受け続けることになる。
市場のウラン供給が安定している現在、AFSに対し受給希望者が現れるか、また、AFSの発動要件である燃料供給の途絶とはいかなる事態が想定されるのか、仮にそのような事態になった場合に規模の小さいAFSがどの程度の寄与があるのか等、不確定な要素が多々あり、今後の議論等の推移を引続き注意深く見守る必要があろう。
参考文献
【解説:政策調査室 玉井】