平成23年6月7-8日に、カザフスタンの首都アスタナにおいて、「原子力平和利用と核不拡散に関するセミナー」が原子力機構 核不拡散・核セキュリティ総合支援センターとカザフスタン原子力委員会(KAEC)の共催により実施された。
このセミナーは、新たに原子力発電の導入を計画しているカザフスタンにおける核不拡散に関する理解の増進と相互の協力関係の構築、及び情報の共有と課題の抽出を目的としたものである。カザフスタンからは、規制庁であるKAEC、その上部組織である産業・新技術省、原子力ビジネスを担当するカズアトムプロム等、日本からは原子力機構のほかに大学、核物質管理センター、また、国際原子力機関(IAEA)からOBを含めた専門家、合わせて約30名が参加した。
本セミナーも含め、これまでのカザフスタンの訪問により得られた情報に基づき、カザフスタンの核不拡散に関する取組み状況を述べるとともに、課題と考えられる点について分析した。
カザフスタンは、旧ソ連時代に行われた400回以上の核実験により現在も実験場周辺住民の健康被害と土壌汚染に直面しており、原子力の負の側面を踏まえた平和利用の重要性を十分に認識し、1991年の独立後、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)やIAEA等の国際的枠組みに積極的に参画するとともに、中央アジア地域を主導して核不拡散・核セキュリティの強化に取組んでいる。
また、豊富なウラン資源(2009年には年間のウラン生産量が14,000トンに達し世界一となった)を背景とした燃料製造工場を運営する等、独自の核燃料サイクルプログラムの確立を目指した活動が盛んであり、2020年に電気出力600-1,000MWの原子炉を完成させるための予備調査を実施中である。
昨年12月、IAEA理事会において承認された核脅威イニシアティブ(NTI)提案に係る低濃縮ウランバンクの設立に関し、カザフスタンは低濃縮ウラン備蓄施設の受入れを表明(2010年1月、INFCIRC/782)しており、ウルバのウラン燃料加工工場、セミパラチンスクの核実験場跡地などが備蓄施設のサイト候補として考えられているようである。何れのサイトも、既存の鉄道網を利用してロシア・アンガルスク濃縮工場からの輸送が可能である。
カザフスタンの原子力活動を担当する主な組織とその役割分担に関しては、原子力計画等、全体的な政策立案を所掌する産業・新技術省のもとでKAECが保障措置・核セキュリティ・輸出管理を監督し、国営企業カズアトムプロムがウランの採鉱・製錬・燃料製造等の幅広い原子力ビジネスを展開、国立原子力センター(NNC)が研究炉の管理や核実験場跡地の環境評価等、原子力の平和利用に関する研究を主導している。なお、規制官庁であるKAECに対しより強い権限と責任を与えるため、原子力庁の設置を分析・検討し、現在、政府に答申中、大統領の承認を待って実施される見込みである。
日本はこれまでカザフスタンに対し、計量管理システム構築の支援等を通じて原子力インフラ整備の協力を行ってきているが、本年5月に日・カザフスタン原子力協力協定が発効したことを受けて、ウランの取引を始め今後の原子力研究・開発に対する協力の一層の進展が期待される。
核不拡散・核セキュリティに対する国際的な枠組みに対するカザフスタンの取組みの状況は、別添の表1のとおりである。
IAEAとの包括的保障措置協定に基づき、研究炉への保障措置が実施されているが、原子力関連の許認可、査察等を所掌する規制庁KAECのスタッフの不足(実質3名で担当)からIAEAの査察時に同行することが主な活動であり、IAEAとは別に国として独立した検認活動の必要性を勘案すると、まだ、満足できる状況にはないと考えられる。保障措置の対象施設がカザフスタンの広い国土に点在しているため、施設状況の把握が容易でないこと、施設側からKAECへの計量管理の報告等の様式が定まっていない上にネットワークを活用した情報伝達が整備されていないため作業が非効率であること等、多くの改善すべき点がみられる。
スタッフの不足への手当として、当面、他の部署からの人員借用、IAEAへの短期的人員派遣による査察官としてのトレーニング等で対応しているが、今後、原子力発電の導入を始め、カザフスタン国内の原子力活動の更なる発展が予想される中、抜本的にはスタッフの拡充、ハードウェア・ソフトウェアの整備を通じた国内計量管理制度(SSAC)の充実が急務である。
追加議定書に基づいた当該国内でのIAEAの活動を担保するには、国内法規・実施体制等の整備が必要である(例えば、日本は1999年の追加議定書批准にあたり、原子炉等規制法や関連政省令の改正を行い、国内の関連施設において追加議定書に基づいた補完的アクセス、試料収去、報告徴収等を可能とする規定を設ける等の対応をとった)。
一方、当該国に保障措置上あるいは政治的に重大な懸念がない場合、追加議定書の普遍化のため先ず批准を働きかける傾向にあると考えられ、カザフスタンにおいてもこの動きに沿って2007年に追加議定書の批准に至ったものの、規制庁であるKAECのスタッフ不足等の理由から、これに対応した国内法規・実施体制等の整備が遅れていた。
しかしながら、カザフスタンは、原子力平和利用に徹し、世界の原子力市場で主要な地位を占めるビジネス展開を図る観点から、核不拡散を担保する国際約束の遵守の重要性は十二分に認識しており、追加議定書に対応した国内体制等の整備を行っているところである。非核兵器国である日本の追加議定書の受入れに関する知見はカザフスタンにとっても役立つと考えられる。
IAEAのガイドラインに沿って、米国、EU等からの支援を受け地域的な枠組みも活用して整備プログラムを実施している。核物質防護に関するIAEA勧告INFCIRC/225/Rev.4に基づいた国内の対応、核物質の防護に関する改正条約の批准(2011年4月26日)など、国際枠組みへの参画を積極的に行っているが、包括的保障措置協定・追加議定書と同様に、そのための国内体制整備が遅れている。
また、核セキュリティ・サミット(昨年)におけるカザフスタン政府表明に従い、核物質防護と計量管理に関する地域訓練センターの設立(NNC内)を計画しているが、青写真どおりに運用を開始するにはカリキュラムの精選とそれに見合ったスタッフの拡充が必要であろう。
上記の課題を解決し、カザフスタンの核不拡散への取組みを強化・推進していくため、具体的に以下の支援が考えられよう。これまで実施してきた新規原子力発電導入国への支援を踏まえ、協力を発展、進化させていくことが望まれる。
1. 概要
平成23年6月7-8日に、カザフスタンの首都アスタナにおいて、「原子力平和利用と核不拡散に関するセミナー」が原子力機構 核不拡散・核セキュリティ総合支援センターとカザフスタン原子力委員会(KAEC)の共催により実施された。
このセミナーは、新たに原子力発電の導入を計画しているカザフスタンにおける核不拡散に関する理解の増進と相互の協力関係の構築、及び情報の共有と課題の抽出を目的としたものである。カザフスタンからは、規制庁であるKAEC、その上部組織である産業・新技術省、原子力ビジネスを担当するカズアトムプロム等、日本からは原子力機構のほかに大学、核物質管理センター、また、国際原子力機関(IAEA)からOBを含めた専門家、合わせて約30名が参加した。
本セミナーも含め、これまでのカザフスタンの訪問により得られた情報に基づき、カザフスタンの核不拡散に関する取組み状況を述べるとともに、課題と考えられる点について分析した。
2.カザフスタンにおける原子力利用と核不拡散をめぐる概況
カザフスタンは、旧ソ連時代に行われた400回以上の核実験により現在も実験場周辺住民の健康被害と土壌汚染に直面しており、原子力の負の側面を踏まえた平和利用の重要性を十分に認識し、1991年の独立後、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)やIAEA等の国際的枠組みに積極的に参画するとともに、中央アジア地域を主導して核不拡散・核セキュリティの強化に取組んでいる。
また、豊富なウラン資源(2009年には年間のウラン生産量が14,000トンに達し世界一となった)を背景とした燃料製造工場を運営する等、独自の核燃料サイクルプログラムの確立を目指した活動が盛んであり、2020年に電気出力600-1,000MWの原子炉を完成させるための予備調査を実施中である。
昨年12月、IAEA理事会において承認された核脅威イニシアティブ(NTI)提案に係る低濃縮ウランバンクの設立に関し、カザフスタンは低濃縮ウラン備蓄施設の受入れを表明(2010年1月、INFCIRC/782)しており、ウルバのウラン燃料加工工場、セミパラチンスクの核実験場跡地などが備蓄施設のサイト候補として考えられているようである。何れのサイトも、既存の鉄道網を利用してロシア・アンガルスク濃縮工場からの輸送が可能である。
カザフスタンの原子力活動を担当する主な組織とその役割分担に関しては、原子力計画等、全体的な政策立案を所掌する産業・新技術省のもとでKAECが保障措置・核セキュリティ・輸出管理を監督し、国営企業カズアトムプロムがウランの採鉱・製錬・燃料製造等の幅広い原子力ビジネスを展開、国立原子力センター(NNC)が研究炉の管理や核実験場跡地の環境評価等、原子力の平和利用に関する研究を主導している。なお、規制官庁であるKAECに対しより強い権限と責任を与えるため、原子力庁の設置を分析・検討し、現在、政府に答申中、大統領の承認を待って実施される見込みである。
日本はこれまでカザフスタンに対し、計量管理システム構築の支援等を通じて原子力インフラ整備の協力を行ってきているが、本年5月に日・カザフスタン原子力協力協定が発効したことを受けて、ウランの取引を始め今後の原子力研究・開発に対する協力の一層の進展が期待される。
核不拡散・核セキュリティに対する国際的な枠組みに対するカザフスタンの取組みの状況は、別添の表1のとおりである。
3.カザフスタンが抱える核不拡散上の課題
1) 計量管理体制の強化と人材教育
IAEAとの包括的保障措置協定に基づき、研究炉への保障措置が実施されているが、原子力関連の許認可、査察等を所掌する規制庁KAECのスタッフの不足(実質3名で担当)からIAEAの査察時に同行することが主な活動であり、IAEAとは別に国として独立した検認活動の必要性を勘案すると、まだ、満足できる状況にはないと考えられる。保障措置の対象施設がカザフスタンの広い国土に点在しているため、施設状況の把握が容易でないこと、施設側からKAECへの計量管理の報告等の様式が定まっていない上にネットワークを活用した情報伝達が整備されていないため作業が非効率であること等、多くの改善すべき点がみられる。
スタッフの不足への手当として、当面、他の部署からの人員借用、IAEAへの短期的人員派遣による査察官としてのトレーニング等で対応しているが、今後、原子力発電の導入を始め、カザフスタン国内の原子力活動の更なる発展が予想される中、抜本的にはスタッフの拡充、ハードウェア・ソフトウェアの整備を通じた国内計量管理制度(SSAC)の充実が急務である。
2) 追加議定書への対応
追加議定書に基づいた当該国内でのIAEAの活動を担保するには、国内法規・実施体制等の整備が必要である(例えば、日本は1999年の追加議定書批准にあたり、原子炉等規制法や関連政省令の改正を行い、国内の関連施設において追加議定書に基づいた補完的アクセス、試料収去、報告徴収等を可能とする規定を設ける等の対応をとった)。
一方、当該国に保障措置上あるいは政治的に重大な懸念がない場合、追加議定書の普遍化のため先ず批准を働きかける傾向にあると考えられ、カザフスタンにおいてもこの動きに沿って2007年に追加議定書の批准に至ったものの、規制庁であるKAECのスタッフ不足等の理由から、これに対応した国内法規・実施体制等の整備が遅れていた。
しかしながら、カザフスタンは、原子力平和利用に徹し、世界の原子力市場で主要な地位を占めるビジネス展開を図る観点から、核不拡散を担保する国際約束の遵守の重要性は十二分に認識しており、追加議定書に対応した国内体制等の整備を行っているところである。非核兵器国である日本の追加議定書の受入れに関する知見はカザフスタンにとっても役立つと考えられる。
3) 核物質防護、核セキュリティへの対応
IAEAのガイドラインに沿って、米国、EU等からの支援を受け地域的な枠組みも活用して整備プログラムを実施している。核物質防護に関するIAEA勧告INFCIRC/225/Rev.4に基づいた国内の対応、核物質の防護に関する改正条約の批准(2011年4月26日)など、国際枠組みへの参画を積極的に行っているが、包括的保障措置協定・追加議定書と同様に、そのための国内体制整備が遅れている。
また、核セキュリティ・サミット(昨年)におけるカザフスタン政府表明に従い、核物質防護と計量管理に関する地域訓練センターの設立(NNC内)を計画しているが、青写真どおりに運用を開始するにはカリキュラムの精選とそれに見合ったスタッフの拡充が必要であろう。
4.今後の支援のあり方
上記の課題を解決し、カザフスタンの核不拡散への取組みを強化・推進していくため、具体的に以下の支援が考えられよう。これまで実施してきた新規原子力発電導入国への支援を踏まえ、協力を発展、進化させていくことが望まれる。
1) 計量管理体制の強化と人材教育
2) 追加議定書への対応
3) 核物質防護、核セキュリティへの対応
【解説:政策調査室 玉井】