核不拡散ニュース No.0142 2010.06.08
<2010年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議について>
【概要】
平成22年5月3日(月)よりニューヨークの国連本部で開催されていた、2010年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議は、最終日の28日(金)に、最終文書の内、行動計画(64項目)を含む「今後の継続的な行動に関する結論・提言」を全体会合で採択し、「条約運用のレビュー(122項目)」が議長の責任により取纏められて終了した。
新聞報道等では、具体的な行動計画を本会議のコンセンサスで採択したことは、米国オバマ政権の発足以来明確になった、世界における核軍縮、核不拡散強化に向けた取り組みが、一つの成果として結実したものとして一定の評価を行っているものが多い。
他方、特に「行動計画を含む今後の継続的な行動に関する結論・提言」の内容が、核軍縮・核不拡散の何れも当初案に比べて弱い表現にとどまったことから、今回の行動計画の採択をもって、核不拡散強化に向けた大きな前進がなされたとは言い難く、この場で採択された行動計画の内容がどのように実行されていくか、注意深く観察していく必要がある。
【経緯】
NPT(1970年3月5日発効)は、第10条第2項において、条約発効後25年後に条約の無期限延長か一定期間の追加延長かを決定するための会議を開催することを規定。
その後、2000年に開催されたNPT運用検討会議では以下の諸点の措置等、軍縮推進のための13の措置を含む最終文書をコンセンサスで採択。
他方、2005年NPT運用検討会議では、会議を巡る手続事項の調整等に時間を要し、実質事項に関する合意文書を採択することがかなわず、さらにその後に北朝鮮の二度にわたる核実験やイランの秘密裏の核開発等NPT体制を揺るがす事態が発生したため、今回のNPT運用検討会議の結果が注目されていたもの。
【今次会議について】
【主要な結果】
非同盟運動(NAM)諸国は核軍縮の履行に時間軸を設定し、今後の運用検討会議準備委員会や運用検討会議で履行状況を評価することを求めたが、核兵器国はこれに反対
原子力先進国が追加議定書をNPTにおける検証措置のスタンダードとして位置づけること、原子力資機材輸出における受領国条件とすることを主張したことに対し、NAM諸国は、追加議定書は飽くまでもボランタリーな措置であるとの観点からこれに反対(我が国は日豪両国政府による共同提案の中で、全ての国に対し、追加議定書を含む保障措置基準を原子力資機材の供給に適用することを主張)。
核兵器国を中心として原子力先進国が脱退以前のNPT違反に対しては脱退後も責任を有すること、脱退前に移転された原子力資機材に対しては脱退後も軍事目的利用を禁ずること等を主張したことに対し、NAM諸国は、条約脱退が国際法上認められた権利であることから条約の再解釈につながるような核兵器国の考え方には反対。
【最終文書の概要】
* 会議全体でのコンセンサスが得られなかったため、議長の責任による「条約運用のレビュー」の中に記載されたもの。
【会議の分析】
今回の検討会議に向けて2007年より行われていた3回に亘る運用検討会議準備委員会において、議題案及び開催日時の決定といった会議の手続き事項が円滑に決定したこと、加えて2009年の第3回準備委員会においてオバマ大統領の核軍縮に向けた前向きな姿勢が評価され、核軍縮を巡る準備委員会の雰囲気が改善されていたこと等の理由から今回の運用検討会議開始前の全般的な情勢は前回の2005年会議の時点と比べた場合に好転していたと思われる。
しかし、この一連の準備会合等を通じて今回の検討会議における対立点として想定された点については、検討会議における議論を通じてもその対立が解消できず、結果的には、対立点の多くは、最終文書における「行動計画」の中にコンセンサスを得やすいように弱い表現振りに修正されて記載されるか、「条約運用のレビュー」の中で「多くの国より〜という意見が表明された」などの形式で記載されるに留まる結果となった。
特に、IAEA保障措置追加議定書の取り扱いに関しては、日豪両政府より共同提出された「2010年NPT運用検討会議に向けた実践的核軍縮及び不拡散措置の新しいパッケージ」の中で触れていた「追加議定書を含むIAEA保障措置基準を全ての原子力資機材供給への適用」といった原子力資機材輸出の際の条件化が見送られ、「行動計画」の中で「追加議定書未締結国に対して速やかな追加議定書締結を奨励する」との表現にとどまったこともあり、今回の会議結果をもって核不拡散強化に向けて大きな前進がなされたとは言い難いと考えられる。
今後は、今回合意された事項がどのように履行されていくのか、特に実行期日を明記した取り組み(例:核兵器国による核軍縮の進捗状況の報告、中東地域における非大量破壊兵器地帯設定に関する国際会議の開催等)について、その進捗状況を注意深く観察していく必要がある。
なお、今回の最終文書の中では、前記のとおり、核不拡散の分野においてIAEA追加議定書の未締結国に対して、可及的速やかな追加議定書締結が奨励されているが、このような記載は原子力機構がベトナム等のアジア諸国に対して実施している追加議定書締結支援活動を促進するものであるとも考えられる。
また同じように、最終文書の原子力平和利用の分野において、INPRO,ITER,GIF等の国際協力の重要性及び核拡散抵抗性の高い次世代原子炉開発の奨励について言及されているが、これらについても、これらの分野の活動にこれまで取り組んできた原子力機構の活動を後押しするものとも考えられるところである。
(参考)
【解説:政策調査室 和泉】