核不拡散ニュース No.0130 2009.10.30
<報告:米韓原子力協力協定について>
【概要】
米韓両国は、2014年に期限を迎える米韓原子力協力協定改正に関する予備交渉を行いつつあることが報じられている。現協定の下では、韓国に移転された核物質を再処理することについて米国は韓国への同意を与えていない。一方、韓国は使用済燃料を原子力発電所のサイト内に貯蔵せざるを得ない状況となっており、その貯蔵能力も2016年ごろには飽和を迎えることが予想されているため、韓国は現協定の延長に際して、米国から移転された核物質の再処理等について、日米原子力協力協定で規定されているのと同様の包括事前同意を米国に求めるものとみられる。韓国と米国は、パイロプロセシング(乾式再処理)技術(注1)の研究開発について部分的に協力しており、米国もパイロプロセシングを再処理とみなすべきではない、とする時期もあった。しかしながら、米国が韓国に再処理について包括事前同意を認める可能性は低いと考えられる。したがって、韓国の使用済燃料を海外で再処理することに対して、米国は包括事前同意を与えることを検討中とされているが、このオプションも含め、使用済燃料の再処理の取扱いが協定交渉の最大の焦点である。
<核不拡散・核軍縮に関する安全保障理事会首脳会合で採択された「安保理決議1887号(2009)」 について>
【概要】
2009年9月24日、ニューヨークの国連本部で、オバマ大統領のイニシアティブにより「核軍縮・不拡散に関する安全保障理事会首脳会合」が開催され、核不拡散体制の強化と、同大統領が提唱する「核兵器のない世界」の構築に向けて、核軍縮、原子力平和利用、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効、核兵器用核分裂物質の生産禁止条約(カットオフ条約)の早期交渉開始、核テロ対策(核セキュリティ)、北朝鮮及びイラン(国名は明示されていないが2国を暗示)の安保理決議遵守、非核地帯条約・構想などを網羅した包括的な一連の目標を盛り込んだ「安保理決議1887号(2009)」が全会一致で採択された。
【詳細】
米韓原子力協定の経緯
1956年に署名された米韓原子力協力協定は、研究炉と燃料の供与を目的とした限定的な協力を行うものであり、当初の協定期間は10年だったが、後の改正で更に10年間延長された。その後、米韓両国は1972年により広範な協力を可能とする協定に署名した。(協定は1973年5月19日に発効)1974年の改定の際、有効期間は発効後の30年間から41年間に変更されたため、現協定は2014年に期限を迎えることになる。なお、本協定では自動延長が規定されているわけではなく、協定を継続するためには両者の合意が必要となるが、以下に述べる点から、単純な協定延長ではなく、内容の一部見直しも行われるものと考えられる。
核不拡散法(NNPA)との関係
1978年に成立した核不拡散法(NNPA)第401条(原子力法第123条を改定)においては、米国が、他国又はユーラトムのような機関との原子力協力協定を締結する際の要件として、以下9項目が規定されている。
■協定締結の要件(概要)
同法は、既存の協定について、大統領に対し、以上の要件を取り入れた形での協定改定の交渉を直ちに開始するよう規定(第404条(a))しており、1968年締結の日米原子力協力協定も、本条に基づき交渉が行われ、1988年に改定された。しかしながら、米韓原子力協力協定は、NNPA成立以後、改正されておらず(NNPA第405条(a)によれば、既存の原子力協力協定に従った協力の継続に影響を与えるものではない旨規定している)、NNPA第401条に定める要件のうち、現協定に含まれていないもの、すなわち、恒久的保障措置の適用、協定対象の核物質への核物質防護の適用や濃縮の事前同意などについては、新協定に取り入れられることになるものと考えられる。
交渉の焦点−使用済燃料に関する事前同意
韓国の使用済燃料の多くは、協定の下で米国が提供した濃縮ウランから生じたものである。現状の米韓原子力協力協定では、米国から移転された核物質の再処理には、米韓両国の共同決定が必要とされているが、米国は共同決定に対する同意を与えておらず、韓国は再処理の実施に制約を課された状況になっている。韓国は、協定改正交渉の中で、日米原子力協力協定において米国が日本に与えているものと同様の、使用済燃料の再処理または形状、内容に関する包括事前同意(注2)を求めると考えられる。米国がこれを認めるか否かが交渉の焦点となるが、Tauscher国務次官(軍備管理・国際安全保障担当、当時はまだ未承認)は、ugar上院議員からの質問に対し、韓国や台湾に対して、日本等に認めているのと同様の再処理に関する包括事前同意を与えることは適当ではない旨を書面にて明確に述べている。
もう一つ、韓国による再処理の実施との関係で問題になるのは、核兵器の取得、使用の禁止とともに、濃縮・再処理施設の禁止を謳った1992年の朝鮮半島非核化に関する南北共同宣言である。
韓国は、1990年代後半から、韓国原子力研究所(KAERI)において、パイロプロセシングという、使用済燃料の再処理法に関する研究開発を始め、米国の国立研究所とも協力してきた。クリントン政権時代、また、ブッシュ政権の初期においては、米国にはパイロプロセシングを核拡散抵抗性の観点から評価する見方もあった。従来のピューレックス法と違い、パイロプロセシングは、プルトニウムがウランや他の核分裂生成物、超ウラン元素とともに処理され、単体抽出されないという点で核拡散抵抗性が高く、再処理とみなすべきではないとする見解もあった。2001年にブッシュ政権により発表された国家エネルギー政策において、先進的な核燃料サイクルや次世代技術を開発する観点から、パイロプロセシングのような方法の研究開発を認める政策を再検討すべきと勧告し、そうすることで世界的な分離プルトニウムの増大に歯止めをかけることになると提言している。韓国がパイロプロセシングを志向する背景には、パイロプロセシングであれば、核拡散抵抗性の観点から米国の理解が得られやすく、また、この処理法は再処理ではないと主張することにより、南北共同宣言との関係もクリアできるとの考え方もあるのではないかと思われる。
ただし、ブッシュ政権が終了する直前のGNEPの核不拡散評価書(NPAS)においては、パイロプロセシングと従来のピューレックス法の違いはわずかなものであるとしており、政策の転換が窺われる。上述のTauscher次官の回答がパイロプロセシングも含めて否定したものか否かは必ずしも明らかではないが、プリンストン大学のFrank Von Hippel教授によれば、オバマ政権は既にパイロプロセシングも再処理の1形態であるとみなしているという。従って、米国が韓国に対しパイロプロセシングに関する包括事前同意を与えるとは考えにくい。
以上述べたように、パイロプロセシングに関し、米国が包括事前同意を与える可能性は低いと考えられるが、仮にパイロプロセシングが認められたとしても、これが研究開発段階の技術であることからすれば、増大する使用済燃料問題への解決策にはなりにくいものと考えられる。韓国のパイロプロセシングの研究開発計画では、2016年までに工学規模のパイロプロセシングの施設を建設し、2025年までに先進的パイロプロセスシングの施設を建設することとされている。2016年頃には、使用済燃料の貯蔵が飽和状態になることを考えると、パイロプロセシングは増大する使用済燃料問題への解決策にはならない。
現実的な解決策として考えられるのは、貯蔵、再処理のための使用済燃料の海外への移転である。回収されるプルトニウムの韓国への返還を伴わない第三国への使用済燃料の移転に包括事前同意を与えることを、米国は検討中であることが報じられている。
また、韓国は低濃縮ウランの国内生産に対する包括事前同意も米国に求める意向であるとの報道がなされている。米国は、他の国との協定においては、20%までの濃縮については、協定の中で同意を与えているケースが多いが、米国が韓国と協定においても同様の取扱いを認めるか否かが注目される。
(注1)硝酸水溶液等に使用済燃料を溶解して処理する湿式再処理技術に対し、パイロプロセシング(乾式再処理)は溶融塩等に使用済燃料を溶解して処理する再処理方法を言う。
(注2)一定の条件のもとに、一方国における規制権の対象となる原子力活動に対し、もう一方の国が事前に包括的に承認する旨の合意を与えること。例えば、日米原子力協力協定の中では、両国が合意する施設において行う等の一定の条件下で、日本の再処理活動等を米国が包括的・長期的に同意している。これに対し、個別事前同意では、規制対象となる活動について、事前に個別に相手国に同意を求めることになる。例えば、日米原子力協力協定では、日本が20%以上のウラン濃縮を行う場合、その都度個別に米国の同意を得なければならない。
(参考)
【解説:政策調査室 濱田、技術開発支援室 堀】】