核不拡散ニュース No.0127 2009.08.12
<英国政府が原子力・核に関する包括的政策を発表>
2009年7月16日、英国政府は、「2010年への道」(Road to 2010)と称する、原子力、核に関する包括的な政策を発表した。ブラウン英首相は、3月17日-18日に開催された、「国際核燃料サイクルに関する会議」の冒頭演説の中で、今夏、本政策を発表する趣旨を述べており、その内容が注目されていた。
本政策の概要は別紙に示す通りであり、2010年に開催されるNPT運用検討会議を成功に導くために、あるいは、同運用検討会議後も視野に入れて、原子力平和利用、核セキュリティ、核不拡散、核軍縮それぞれの分野において、英国自身が実施すべき政策と国際的に推進すべき政策が述べられている。また、NPTのグランドバーゲンを更に強固なものにする観点から、国際的なガバナンスの重要性を指摘しており、とりわけ、IAEAの更なる強化、効率化が強調されている。ここで述べられている政策の中には過去のNPT運用検討会議の合意文書で述べられている項目やオバマ米国大統領が4月5日にプラハにおける演説で述べた内容も含まれているが、具体的提案として特に注目される点は以下の点である。
[総括]
[原子力平和利用]
[核セキュリティ]
[核軍縮]
[国際ガバナンス]
(核セキュリティの基準が満たされているか否かの検証)
本政策の発表は、オバマ大統領によるプラハ演説や米露両国によるSTART後継条約の交渉の進展等、核軍縮の推進に向けた一連の流れの中で捉えることができるが、米国の政策と比較しての最大の相違点は、原子力平和利用の推進に大きな力点が置かれていることである。今後の原子力平和利用の拡大を前提とした上で、それが核拡散リスクの増大につながらないようにするためにはどうすべきかという文脈から核不拡散、核セキュリティの強化が取上げられ、これらとリンクする課題として核軍縮の推進の必要性が述べられている。
英国においては、1980年以降、電力自由化の流れの中で、原子力の役割は低下していたが、2008年のエネルギー白書により、特に地球温暖化防止への寄与の観点から原子力推進政策に転換し、12GW規模での原子炉の新設を打ち出している。本政策は、こうした最近の英国の政策を反映したものと言え、原子力平和利用の推進を前提とした核不拡散、核軍縮の推進という点で、我が国の政策との共通要素も多いものと考えられる。また、英国が設立する原子力のCOEの役割として、核拡散抵抗性技術の開発が強調されており、産業界、学会や国際パートナーと協力して研究開発を推進していくことが謳われていることから、この分野における我が国との協力の可能性も注目される。
また、もう一つ注目すべき点は、核セキュリティの重視である。核セキュリティを原子力平和利用、核軍縮、核不拡散と並ぶ国際的な核の枠組みにおける4番目の柱とすべきとしていることは、オバマ政権の核セキュリティ重視政策と一致しているが、より具体論に踏み込んで、核セキュリティ分野におけるIAEAの権限強化を打ち出している点が注目される。ただ、核セキュリティの基準が満たされているか否かの検証までIAEAに求めるには、核物質防護基準であるINFCIRC225の義務化が前提になると考えられ、実現は必ずしも容易ではないのではないかと考えられる。
【解説:政策調査室 山村】