核不拡散ニュース No.0126 2009.07.24
<ジュネーブ軍縮会議が兵器用核分裂性物質生産禁止条約の交渉開始を含む作業計画を採択>
<2009年6月IAEA理事会での核燃料供給保証に係る議論の結果について>
IAEA6月理事会(6.15〜19)で「核燃料供給保証」が初めて議題に取り上げられ、(1)米国「核脅威イニシアティブ(NTI)」提案に基づくIAEA核燃料バンク、(2)露国アンガルスク国際ウラン濃縮センター(IUEC)での低濃縮ウラン(LEU)備蓄、(3)独国の多国間管理濃縮サンクチュアリー・プロジェクト(MESP)につき議論が行われた。
(1)はNTIが核燃料バンク創設のために5千万米ドルの拠出を表明したもので、IAEAが2年以内(今年9月まで)にバンク設立に必要なアクションを起こすこと、他の加盟国等から1億ドルあるいは相当のLEUの拠出があること、の2つの要件が付されていた。後者の要件は、米国やEU、UAE等が計約1億700万米ドルの拠出を表明して09年3月に成立し、IAEAの早急な対応が求められていた。(2)は、露国が供給保証用に約120トンのLEUを備蓄するもので、すでにIAEAとの間で、備蓄されるLEUに適用される保障措置、受領国やLEUの供給の要件、必要な協定等について協議を進められている。(3)は非主権地帯を設定、各国が出資してIAEAが管理する商業用濃縮プラント及びLEU備蓄を創設する提案で、独国はMESP実現に必要な協定案を作成しているという。これらの進展状況に鑑み、IAEAは6月理事会で(1)〜(3)を議論することとし、特に(1)と(2)は6月理事会で合意が得られればIAEAが更なる検討を進め、9月理事会で設立に係る承認を得ることを目指していたとされる。米国やEUはIAEAを支持する一方で、途上国は従来から、核燃料の供給が保証される代わりに核不拡散条約(NPT)第IV条が規定する原子力平和利用の権利(濃縮及び再処理もこの原子力平和利用の権利に含まれると解釈される)を制限されることに繋がるのではないかとの懸念を繰り返し表明しており、6月理事会ではIAEAが両者をどう調整して合意に導き、9月理事会での設立承認に向けて議論を進展させるかが焦点となっていた。
理事会での議論の詳細は明らかになっていないが、報道等によれば、予想通り、米国やEUの先進国が各提案への支持を表明する一方で、途上国は、従来からのNPT第IV条の制限への懸念を繰り返し表明し、先進国と途上国の意見の相違が際立ったという。エルバラダイIAEA事務局長は、各国提案はいずれもIAEA憲章に則ったものであり、NPT第IV条の原子力平和利用の権利に何ら影響を与えるものではないと強調したとされるが、途上国には受け入れられなかったようである。
結局、理事会ではバンクの実現に向けたIAEAでの更なる検討に合意が得られず、理事会で協議と議論を継続するとの合意にとどまったという。現時点では、今後のIAEAの対応は明らかではないが、途上国のNPT第IV条の権利への制限に係る長年かつ根強い懸念(1980年代に9年間議論された供給保証委員会(CAS:Committee of Assurance)が活動停止を余儀なくされたのは、先進国と途上国の意見の相違が最後まで埋まらなかったことが原因とされる)や、エルバラダイ事務局長の今年11月での任期終了を踏まえると、今後の本件議論の展開・進展は極めて不透明であり、IAEA核燃料バンクの9月理事会での設立決定は非常に困難な状況と思われる。このような状態に鑑み、IAEA核燃料バンクの創設及び資金提供を表明しているNTIが、前述の拠出要件の一つである「2009年9月まで」の期限につき、再度延長する(昨年9月にIAEA事務局長の要請により1年間延長した)のか否かが注目される。いずれにせよ、本問題に係る今後のIAEAの対応や先進国と途上国との見解相違に係る調整等は、次期IAEA事務局長の天野氏の采配に委ねられることとなり、今後、天野氏が先進国と途上国の間の根深い溝をどう埋めて本問題をハンドリングしていくのかが注目されるところである。
ジュネーブ軍縮会議(65カ国加盟)は、2009年第2会期中の5月29日、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約:以下、FMCT)の交渉開始を含む2009年作業計画案(CD/1863)を全会一致で採択した。同会議は、唯一の多国間軍縮交渉の場であるが、1998年を最後に、これまで作業計画は合意されてこなかった。FMCTはNPT上の核兵器国(米露英仏中)やNPTに加盟していない事実上の核兵器保有国(インド、パキスタン、イスラエル)の核能力を凍結することを目的としたものであるが、長年、米露中による対立により交渉開始に至らない状況が続いた。同会議において本会期の議長を務めたアルジェリアのIdriss Jazairy大使は、2009年3月のブラウン英首相の軍縮と不拡散に関する演説、同年4月の米露両首脳による核軍縮に向けた共同宣言、EUの軍縮に関するアクション・プラン、「核のない世界」という目標への中国の支持などに示される軍縮に向けての国際的機運の醸成が本合意に寄与したと述べているが、最大の要因は、オバマ政権による軍縮推進政策、より具体的には、ブッシュ政権の政策を転換し、検証条項つきのFMCTを支持する方針を打ち出したことにあるものと考えられる。
合意された作業計画では、今後、FMCT、核軍縮、宇宙空間における軍備競争防止、消極的安全保障(非核兵器保有国に核兵器攻撃を行わないことを核兵器保有国が確約すること)の4つのワーキング・グループが設けられ、討議される予定である。しかしながら、同会議はコンセンサス・ベースであること、条約内容に対し各国間に根本的な対立がみられるなど、FMCTが成立するには多くの解決すべき問題がある。添付にこれまでの経緯と条約交渉にあたって主要な論点と考えられる点をまとめた。
【解説:政策調査室 大塚】