核不拡散ニュース No.0123 2009.05.26
<2010年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第3回準備会合について>
【要旨】
○5月4日(月)から15日(金)まで、2010年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第3回準備会合がニューヨークの国連本部で開催された。
○本会合は、2010年NPT運用検討会議での議題や会議規則などを決めるもので、2007年から毎年1回開催され、今回の会合が2010年に開催されるNPT運用検討会議に向けた最後の準備会合であり、議長はChidyausikuジンバブエ国連常駐代表が務めた。
○会合の冒頭で各国代表による一般演説が行われた後、核不拡散、核軍縮、原子力平和利用の3課題に分かれて各国が意見交換を行い、運用検討会議の議題案を含む手続事項に関する最終案及び報告書のとりまとめ等に向けた話し合いが行われた。
○2010年の運用検討会議は、2010年5月3日から28日までニューヨークの国連本部にて開催されることとなった。
【解説】
(1)総論
NPT運用検討会議準備会合の目的は、NPT各条項の実施状況を精査し、運用検討会議における議論を促進することとされている。
今次会合では、2007年及び2008年に開催された過去二回の準備会合の結果を踏まえ、各国代表による一般演説、非政府組織(NGO)による演説、2010年運用検討会議の組織、核軍縮と核セキュリティに関する諸問題、中東における非核兵器地帯の問題、NPT脱退を含む諸問題、条約運用検討に係る準備作業など議題案を含む会議手続事項に関する報告書のとりまとめ及び運用権等会議に向けた勧告の検討等が行われた(2007年第1回準備会合、2008年第2回準備会合の要旨は参考資料参照)。
(2)日本の演説
5月4日の一般演説の際、我が国の代表を務める柴山外務政務官より、中曽根外務大臣の提唱する「世界的核軍縮のための11の指標」を運用検討会議の合意形成の基礎とすべきであるとの指摘を中心とする演説が行われた。
なおここで述べる11の指標とは、以下の項目である。
この演説の中では、上記11の指標の他に、核不拡散体制の維持強化を図るため、核疑惑が取りざたされている北朝鮮に対する国際社会の一致した行動の呼びかけ、イランに対する国際社会の懸念解消を要求、非NPT加盟国に対するNPT加盟への呼びかけなどにも触れている。
また、日本が国連総会に毎年提出している核兵器廃絶決議、CTBTの発効促進、核軍縮及び核不拡散教育の促進、核不拡散と核軍縮に関する国際委員会への活動等についても言及が行われ、最後にNPT運用検討会議以前に世界的な核軍縮に関する国際会議を行いたいとの旨を示し、4月のオバマ大統領の演説で示された核軍縮に向けた動きを捉え、核軍縮において我が国が主導的な役割を演じる決意を示したものとなっている。
(3)米国の演説
5月5日の準備会合本会議における一般演説の際、米国の代表を務めるGottenmoeller国務次官補からは、冒頭部分でオバマ大統領からのメッセージを伝えた後、核軍縮、核不拡散、原子力平和利用の3分野についてそれぞれ以下の内容の演説を行った。
○オバマ大統領のメッセージ
4月のプラハでの演説に言及しつつ、NPTへの米国のコミットメント、核兵器及び核テロの脅威に対抗するためのNPT強化の必要性、核兵器の無い世界に向けて米国が踏み出した点などを指摘し、核兵器の拡散防止に向けた強い姿勢を打ち出した。
○核軍縮
米露両国がSTARTの後継となる新協定交渉を開始し、これに全力を尽くすこと、CTBT批准に向けた努力を行うとともに、未批准国に対する働きかけを進めていくこと、核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の交渉に高い優先順位を置くことなど、核軍縮に向けた積極的な姿勢を見せたものとなっている。
○核不拡散
国際的な平和とセキュリティ確保に向けた核兵器拡散防止の重要性を指摘した後、IAEA保障措置への支援表明、包括的保障措置協定、追加議定書及びNPTへのインド、イスラエル、パキスタンの加入及び北朝鮮の復帰が残された核不拡散の問題である旨述べている。また、NPT脱退の場合の取扱に関する検討を進めるとともに、核セキュリティに関するグローバルサミットを米国がホストする旨表明している。
○原子力平和利用
原子力平和利用を支持し、米国が長年にわたり技術協力でリーダーを務めてきたことについて触れている。さらにIAEA加盟国とともに核燃料バンクの創設を検討すべきである旨述べている。
(4)考察
前回2005年の運用検討会議に向けた準備会合では、議題を含む会議の手続事項における参加国の見解相違が埋まらず、準備会合の段階で議題を決められないまま運用検討会議に入ったため会議運営が難航した経緯から、今次会合では2010年の運用検討会議の議題採択が最大の焦点となっていた。
しかしながら、議題案(1995年及び2000年の運用検討会議で採択された文書をベースにしたNPT履行状況のレビューに関する議題を含む)については、結局会合3日目である5月6日という早い段階で参加国間の合意がなされ、運用検討会議に向けた準備委員会の勧告こそ採択されなかったものの、その他の会議手続き事項を含む最終報告書についても無事に採択された。
これは今次会合の参加国が、前回の2005年運用検討会議準備会合の反省を踏まえ、自制した対応を取り、議題を巡る議論の中で特定の国の名前を出すといった自国の考えに固執しなかったことが原因の一つと考えられるが、そもそもこのような流れを作り出したのは、4月に行われたオバマ大統領のプラハでの核兵器廃絶に向けた演説が大きな理由の一つであると思われる。
このことは準備会合における各国代表による一般演説において、オバマ大統領の核兵器廃絶に向けた努力を歓迎する声が多かったことからも明らかであり、これらの声は運用検討会議に向けた核兵器国の核軍縮への期待を示している。
なお、上記の議題決定の過程では、エジプト及びイランより運用検討会議では中東における非核兵器地帯との関連でイスラエルの核開発問題に焦点を当てた議論を行うべきである旨の主張が行われ、我が国や米国等からは北朝鮮の核開発問題に焦点を当てた議論を行うべきである旨の主張が行われるなど、個別の課題に対する各国の考え方の隔たりは大きく、運用検討会議では立場の異なる各国のギャップをどれだけ埋められるかという問題が残されている。
またオバマ大統領の主張する核兵器国による核軍縮の流れについても、運用検討会議までに顕著な実績が表れない場合には、今回寄せられた期待は失望に変わると考えられる。これらのことから、今次会合は比較的議事進行が順調に進んだとしても、来年の運用検討会議での議論は楽観視出来ない状況である。
このため、オバマ大統領の提案する「核セキュリティに関するグローバルサミット」及び我が国の提案する「世界的な核軍縮に関する国際会議」を成功裏に終了させ、運用検討会議に向けた核軍縮・核不拡散のモメンタムを失わないように保っていくことが重要であると思われる。
なお、2010年の運用検討会議は、2010年5月3日〜28日までニューヨークの国連本部にて開催されることとなった。
【参考資料】
1.核兵器の不拡散に関する条約
核兵器の不拡散に関する条約(NPT)は、1970年に効力が発生した核不拡散、核軍縮及び原子力平和利用の推進を目的とした条約である。現在締約国は190ヶ国(脱退宣言を行った北朝鮮を含む)。主な非締約国は、インド、パキスタン、イスラエル。
本条約の内容は、大きく分けて(1)核不拡散、(2)核軍縮、(3)原子力平和利用 について述べられている。
(1) 核不拡散
核兵器保有国を米、露、英、仏、中の5ヶ国に限定し、他国に対する核兵器の拡散を防止。(第1条及び第9条)
(2) 核軍縮
(核兵器保有国に対して)核軍縮交渉義務を規定。(第6条)
(3) 原子力平和利用
(原子力平和利用は)締約国の奪えない権利であることを規定(第4条)。原子力平和利用技術の軍事利用への転用を防ぐため、非核兵器国がIAEA保障措置を受諾する義務を規定(第3条)
1995年のNPT運用検討会議において以下の3点を決定。
(1)締約国の過半数の支持により、NPT無期限延長を決定。
(2)運用検討会議を5年毎に開催することとし、次回2000年運用検討会議のための準備会合を1997年より毎年計3回開催するとした条約の運用検討プロセス強化を決定。
(3)96年までのCTBT交渉完了とそれまでの核実験の最大限の抑制、カットオフ条約交渉の即時開始と早期妥結、核兵器国による究極的核廃絶を目標とした核軍縮努力の強調を決定。
2.2010年NPT運用検討会議第1回準備委員会(2007.4.30-5.11)における議論の概要
(1)総論
○NPTの役割及び3本柱(核軍縮・不拡散・原子力平和利用)を再確認。
○1995年の決議2000年の合意文書の実施に関するコミットメントを確認。
○非政府主体への大量破壊兵器(WMD)拡散を懸念。
○条約の普遍性(インド、イスラエル、パキスタンに対し、非核兵器国として即時かつ無条件にNPTに加入することを求めた。)及び条約の遵守を重視。
(2)核軍縮
○第 6条へのコミットメントを表明。2000年合意にある13措置の完全な実施を要求。
○北朝鮮の核実験を受け、CTBTの早期発効の必要性を一層強調。
○カットオフ条約の即時交渉開始、兵器用核分裂性物質生産モラトリアムを要請。余剰となった核分裂性物質をIAEA等の国際的検証の下におくことを要請。
(3)核不拡散
○IAEAの役割の重要性を再確認。
○包括的保障措置協定及び追加議定書の重要性を強調し、未締約国に対し速やかな締結を要請。
(4) 非核兵器地帯
○非核兵器地帯が安全保障に果たす役割と非核兵器地帯条約発効の重要性を強調。
(5)地域問題
○1995年中東決議の重要性を再確認。朝鮮半島の非核化及び本件の平和的解決の必要性を強調。イランの核計画への深刻な懸念を表明し、本件の平和的解決の必要性を強調。
(6) 原子力平和利用
○原子力平和利用の権利を再確認し、IAEAを通じた技術協力の重要性を強調。
○核テロ防止の必要性を再確認し、核テロ防止条約及びグローバルイニシアティブを支持。核セキュリティ基金への拠出及び改正核物質防護条約の重要性を強調。
○核燃料供給における国際協力の必要性を強調。
(7) 脱退等
○第10条のNPT脱退は締約国の権利であるが、その影響を国際社会が注意深く検討することが重要。
3.2010年NPT運用検討会議第2回準備委員会(2008.4.28-5.9)における議論の概要
(1) 核軍縮
○非核兵器国は更なる核軍縮努力を要請。
○CTBTの早期発効、カットオフ条約の早期交渉開始、核軍備及び核軍縮における透明性向上を要請。
(2) 核不拡散
○特に西側諸国より、北朝鮮及びイランの核問題に対する深刻な懸念を表明。北朝鮮によるシリアへの核協力疑惑についても言及。
○IAEA保障措置体制強化の必要性を広く確認。国際的な不拡散イニシアティブに対する支持を表明。中東非核兵器地帯の設立を要請する1995年の決議履行の重要性を指摘。
(3) 原子力平和利用
○原子力平和利用の重要性及びIAEAの役割の重要性が改めて強調。
○原子力平和利用には核不拡散、原子力安全、核セキュリティが確保されなければならないとの考えを表明。
○核燃料供給保証構想については、積極的に支持する立場が表明される一方、原子力の平和利用の権利を阻害するものであってはならないとの立場も表明。
(4) その他
○インド、パキスタン、イスラエルが非核兵器国としてNPTに加入することの重要性を指摘
○条約違反後に脱退する国への対処方法を協議することの重要性が指摘される一方、罰則化につながるような条約解釈は許されないとの立場と対立。
【解説:政策調査室 和泉】